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【第12話】後出しジャンケン

 我が家の裏にある竹やぶには、実に様々なお客さんが訪れる。蚊やムカデは長期滞在型だが、一見さんとしては、電話の受話器みたいな巨漢ナメクジとか、「勝手口に邪魔な枯れ枝が落ちてるなぁ」と思って近づいたら子ども傘サイズのヘビだったり。伊勢うどんみたいなミミズも30センチはあったっけ。無駄にデカい。

 こうなってくると、『となりのトトロ』とか『南国少年パプワくん』作った人にメチャクチャ親近感わきますよ。SFがまるで日常になっちゃってんだから。パプワくんの友人は、イトウくんとタンノくんっていう巨大カタツムリと網タイツ履いたタイなんだけどね、原風景はこんなところにあったのかもしれないって。

 あとはこんな珍客も。

 沢から上がってきたのか、カニ。居場所のいいところを探しつつ、時折、泡をぷくぷくさせて朝のひとときをお過ごしになっていた。こんなリピーターさんだったら大歓迎なんだけどなぁ。

 先輩ライター・稲さんの名言「田舎の裏の顔、それは虫との戦い!」がひしひしと身に染みる。まさに、実際に住んでみるまで知る由もなかった。ロハスな暮らし雑誌とか、自給自足かっこええ系のテレビではまったく教えてくれなかったもんね。なにこれ、隠ぺい? 後出しジャンケン!? ――しかし、本音の部分では、むしろ感謝さえしているのだ。こんなこと事前に知ってたら移住止めてたかもしれないけど……でもね、それを超えて余りある充足感に出合えたから。私に新しい視点を授けてくれたのはア・ナ・タ。感謝するわ。センキュー大自然、センキュー竹やぶ。

 なんてちょっといい話に仕立ててみたところで、虫への恐怖が減るわけではない。新種のクリーチャーに遭遇する度に部屋に飛び戻り、その素性を必死になって調べたりするから、それはそれで結構忙しいのだ。最大の関心事は「自分の敵か、否か」。とっかかりとしては、見た目の特徴などを頼りにネット検索 → 名前を確認し生態をググる → 人類の敵だった場合、対処法を地元の人や先輩移住者にリサーチ →  試す。こんなことの繰り返しだから、嫌でも生き物に詳しくなる。

 そうするとね。自然って、食物連鎖って、本当に上手くできてるなぁと感心するんですよ。田舎の″二大びっくり生物”と呼んでもいいアシダカグモ(巨大&俊足)とゲジ(ムカデの足を10倍ぐらいに長くした生き物)は、どっちも我が家で遭遇済なんだが、実は彼らがゴキブリを食べてくれていたことが判明。ついでにムカデの大好物でもあるらしい。どうりで家に見かけないわけだ。ゴキブリ。

 最初は気持ち悪いと思ってたヤモリも、よく見れば顔がカワイイし、夜は玄関先で蛾などの侵入を防ぐ門番になってくれている(ただ喰ってるだけなんだけど)。

 放っておけばうまくサイクル回っていくんだろうが、やはりムカデだけは勘弁だ。エサとなるゴキブリが寄り付かない環境にしておけば、ムカデも出ないらしい。というわけで、ここ1週間ほどで「ムカデ追放キャンペーン」を決行した。24時間換気扇を回す、怪しい隙間はすべてふさぎ、家の周りにもグルリと薬剤で結界を張る。神経症ギリギリともいえる取り組みの甲斐あって、あれから家でムカデは一匹も見ていない。

 勢い余って、こんなの買っちゃいましたけどね。

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                              (続く)

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