見出し画像

【第10話】続・カルチャーショック備忘録

 移住26日目。ようやく住まいも整い、一日のリズムがつかめてきた。昨日あたりから仕事モード全開。ぶるんぶるんアイドリングしまくりなのだが、ギアをトップに入れる前に、またしても記しておきたい。前回に続き、カルチャーショック。

②人間連鎖、シナプスの如し

 こっちに来て驚いたのは、町中の人たちがまるでシナプスで繋がっているかのように、超ナイスな連携をとっているということだ。シナプスって、脳の細胞と細胞を繋いでいる、あのすごいヤツね。島の人たちって、個人個人で動いているように見えて、実はまとめて一つの大きな生命体なんじゃないかと思う時がある。

 ある人に庭のゴミで困っていることを告げたら、別の日、どこから話が伝わったのか、突如知らない人が現れゴミを運んで行ってくれた。業者さんじゃなく普通のおっちゃん。按摩で痛めたらしい脛をさすりながら「まぁ適当に処理しとくから、ははは」って。後から聞いたらここの集落のエライ人(副総代)だそうだが、島ではこんなことばかりだ。1人に話したことは周辺の50人ぐらいに伝わっていると思っていい。すごいよリアルTwitter、RT拡散しまくりなんだから。

■マジっすか、畳屋さん!?

 シナプスのすごさは情報伝達だけではない。引っ越しの荷物が来た時も、連携っぷりは発揮された。業者さんのトラック(2tロング)が我が家の狭い道に入れず立ち往生している時、たまたま先に来ていた畳屋のおっちゃんがなんと「困っとるんか? ほんじゃコレ使えばええわい」と軽トラ貸してくれたのだ。何の関係もないのに! いいんすか、マジで?! これで2tトラックと玄関をピストン3往復、搬入で日が暮れちゃうのを阻止することができたのである。

 穏やかな日差しを背に受けて、ピストン眺めながら筍が採れる場所とか色々教えてくれたんだ。ありがとう畳屋さん!

 だが、この畳屋さんには続きがある。新しい畳を持ってきてくれたときに私が不在だったらしく――、勝手に窓から侵入して畳を換えてくれていたのだ。いや、おかしいと思ったんですよ。買い物から帰ったら玄関先に素晴らしい草の香り……って、え、鍵かけてたよね!? 部屋覗いたら、あ~~~っ!! 床に散らばっていた荷物もきれいに脇に片付けてくれて、サプライズにも程があるわい。まぁ、夕方わざわざそのことを告げにきてくれたし、そもそもあんなデカぶつ持って出直すのも骨だよな。私は単純にありがたいと思ったけど、プライベートを守りたい人には絶叫ものでしょう。畳屋さんは島に1軒しかないそうなので、そのうちお菓子でも持ってお礼に行こうかと思っている。

■お年寄り、じゃない!

 ちなみに、ここ大三島では60歳でも「若手」の部類に入る。40代なんてまだ子どもだ。70,80代でも「お年寄り」……という言葉が不似合なぐらい力持ちだし、よく笑い、よく働く。おばあちゃんたちが、お互いのことを「キミちゃーん」「ハナちゃーん」とあだ名で呼び合いキャッキャしている様子は、青春の女学生そのものだ。

 川で草刈しても、泥たっぷりの根付雑草(2、3キロはあるんじゃないか)を頭ぐらいの高さがある岸までビュンビュン放り投げる。頭が広いクワ(名称忘れた)の先に乗っけてやるんですけどね、放り投げるときに物凄く腹筋使う。たとえ砲丸投の室伏選手が「幼いころコレに鍛えられました」とインタビューに答えていたとしても納得しちゃうな。

 そして30代の「超若手」はどうかというと…

 「地域おこし協力隊」のみんなと、田んぼの代掻き。あ、これは業務じゃなく、あくまで余暇の一環です。

 私も耕うん機を押させてもらいますが…

 全然ダメ! 1秒たりともまっすぐ押せず、即選手交代!(2番バッター:夫)

 ダメさ加減、修復不可能。見かねたKさん(3番バッター、というより監督)がついに出動。Kさんは私たちにお米の作り方を教えてくれてる。一見寡黙そうだが、日焼けした肌に笑顔が似合う気さくな方だ。 

 通りすがりのご夫婦に、みかんとレモンをいただく。

 ありがたく喰らいながら作業。関東ではあまり知られてないけど、この時期のせとか」という品種はひれ伏すほどに旨い。余談だが、実はこのメンバーの中に「ゴリさん」という男性がいて、その由来は当然彼のビジュアルからきているモノなのだが……、彼がみかんの皮を丁寧に向いて頬張っている光景を見た時はどういう訳か「生で見られてありがたい」という感動が湧きおこった。最近、動物園行ってないしな。

 こっち来てから、本当に色々なものをいただく。先週も道で知り合ったおじさんの畑で、「スナップエンドウと絹さや、好きなだけ採ってって」と呼ばれ……

 まわりに生えていた雑草(クレソン、芹)も山ほどいただいた。あ、ありがてぇ。。。香り濃くてあまりにも美味なんで、後日東京の知り合いに別のを摘んでクール便でお送りした。

 だって、道路の溝にこんなに生えてるんっすよ。クレソン。余裕で私の胸まで高さある。

 まぁ、そんなわけで皆とっても楽しそうだ。驚いたことに、みんなこの島が大好き。会う人会う人「いいところでしょ?」と誇らしげである。本来は驚くことじゃないだろうが、そして生まれ育った土地を「ダさいたま」呼ばわりされてへらへら抵抗もしなかった自分としては、この人たちが眩しかった。

 次回はカルチャーショックの締めとして、この島を取り巻く動物たちのことをお伝えしたい。いやー、あいつらスゴイよ。

                              (続く)

→目次を見る


カラス雑誌「CROW'S」の制作費や、虐待サバイバーさんに取材しにいくための交通費として、ありがたく使わせていただきます!!