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赤外線ドローンで夜の野生動物を探す、サッカー岡田監督に”護られた”公園で

今週、岡山理科大学獣医学部のとある活動チームからお誘いいただき、「ドローンで夜の森を捜索する」というイベントに参加してきた。

思えばドローンってちゃんと触れたことなかった。夜の獣たち、どんな風に見えるんだろう?

今回の舞台は、愛媛県今治市にある「しなまみアースランド」という公園。運営しているのは、サッカーの岡ちゃんこと岡田武史監督率いるFC今治の会社だ。

(場所としては、写真左奥の山の裏あたり。しまなみ海道からもよく見える)

なぜスポーツチームが公園の運営を?と思ったら、岡田監督って40年以上も環境保護活動に関わっているんですね。FC今治のnoteによれば、岡田監督は脚本家・倉本聰さんの立ち上げた富良野自然塾に感銘を受けて、その塾のイストラクターの資格まで取ってしまったそうだ。富良野自然塾では、体験に重きをおいた環境教育を行っている。

そもそも「しまなみアースランド」という場所自体、開発予定地だったの。それが開発の途中で、希少野生動植物種であったオオタカの巣が見つかってしまい工事がストップ。さてどうする?となったときに、岡田監督が「富良野自然塾を今治でもやってみたらどうか」と提案したらしい。

で、今治市もその方向で動くこととなり、2011年3月に自然との共生を学ぶための公園として誕生したそうだ。
その時期まさに東日本大震災があり、私は東京に住んでいた。自然のメカニズムや食べ物について夜も眠れないくらい考えたことを思い出す。(で、4年後にはこの今治に移り住んでいた)。

なんていうか、生まれるべくして生まれた公園なのかもしれない。

さて、赤外線ドローンを夜に飛ばした話である。

講師は、ドローンパイロットエージェンシーの代表・上野豪(つよし)さん。ドローンではインフラや建物の劣化点検もされるそうで、首相官邸、原発、米軍基地など日本の三大難所のような場所も飛ばした経験があるそう。たぶんすごい操縦スキルをお持ちなのだ。

ちなみに起業・経営コンサルタントとしての顔も持ち、週刊ヤングジャンプで連載されていたビジネス漫画『スタンドUPスタート』の監修もされていたという、なんだか面白そうな方。

そんな上野さんの相棒は――

ぎゃぁぁぁぁ、写真がしょぼくてゴメンナサイ! 暖冬とはいえ寒くて、あまり撮れませんでした。なんか白と黒のかっこいいやつです。上野さんは「インスパイア」と呼んでいた。

プロペラ音はそんなにうるさくなくて、遠くでスズメバチが2、3匹飛んでるのかなっていう程度。

ドローンから送られる映像を、プロジェクタでホワイトボートに映す

モニターは最初、サーモグラフィのように温度が色分けされた状態で映った。
ドローンから見下ろされた自分たちが画面に映し出された瞬間、「おおおおっ」とどよめく会場。参加者は30人はいただろうか。お父さんと来た小学生の女の子もうれしそうだ。

ドローンに手を振ると、ゼロコンマ数秒遅れでレインボーな自分が手を振り返してきた。楽しい。

よく見るとみんな太ももの温度が高い。上着よりズボンのほうが薄着だもんな。逆にマフラーを巻いていそうな部分は温度が低い。内側で保温しているのだろう。

アースランド内の森にカメラを向けると、樹の幹も温かそう。ただし色分けは相対的なもので、温度の低い場所でも温度差さえあればオレンジのエリアが出てきてしまう。

「でも、これだと動物がいたときに識別しづらいので――」
と上野さん。モノクロ画面に切り替えた。

(けっこう寄り気味だな思いきや、レンズの画角は17mmほど。とはいえドローンとしては望遠寄りの部類らしい)

一定以上の温度のものがあれば、それが赤く表示されるとのこと。赤いものが動いていればほぼ間違いなく動物だ。日中、学生さんたちが事前調査をしたときは、イノシシとウサギがいたそうだ。

そう。この催しは学生さんたちのおかげで成り立っている。中心は前述の岡山理大「VeWRM」という研究チームだ。
活動内容は 野⽣⿃獣リスクマネジメントーーと言うと難しいんだけど、簡単に言うと「野生動物と人の共生」についての調査研究。その一環としてジビエの衛生についても積極的に取り組んでいる。

雑誌「狩猟生活」でも「イノシシの身体はどのくらい汚れているのか菌を数えてみたい」という無謀とも思えた企画に、先生をはじめとして多大なる協力をいただいた。

さぁ、いよいよドローンを森の中に飛ばそう。

生命線であるバッテリーは、今日ぐらいの気温だと15分ほどしか持たないそうだ。それを9本持ってきた。エネルギーが切れそうになれば帰還させてバッテリーを取り換える。

電気の残量はモニターの右上に表示される。同時に、コントローラーと機体をつなぐ電波の状況にも注意を払わなければならない。うろ覚えだがドローンが約30万円、赤外線カメラが約100万円とか150万円だとか。落としたら泣いちゃうでしょ。

でも大丈夫、百戦錬磨の上野さんがついている。
行け、ドローン! みんなの期待を乗せて!!

バッテリー満タンのドローンは「任せろ」とばかりに、力強いモーター音で勢いよく飛んでいった。
だんだん手足がかじかんでくるが、不思議と寒くない。ワクワクという名の精神的カイロが身体の中から発熱しているからだろう。

暗闇の中でのドローン操作は、見えない高木にぶつかりそうで精神集中を要する。そんな上野さんを固唾をのんで見守り、「あ、今動いた」「いや違うかも」と参加者が口々に言ったりしていると――

あああああっ、いた! 赤い塊!!
真ん中のあたりで動いてる!!

え、どこだかわからないって?
じゃあ、もう少し画面中央を拡大しますね。

これだーーー!!
この粒虫みたいなやつが、画面の斜め下に動いたり、少し止まったりしてちょこちょこ動いてる。

「これは大きめだし、イノシシかも」
方々からそんな声が上がり、上野さんもそうかもと言う。

地味だと思われるかもしれない。
しかしライブで見ていた我々は、すごい宝物を見つけたときのような興奮に包まれていたのだ。
動いてる、動いてるよ!
おなかの赤ちゃんをエコーで見るときって、こんな気持ちなのかな。

ただの赤い点だけど、その赤は、今この動物が生きて、生命活動をしていることを示している。それが、純粋にうれしかった。

走っていけば出会える距離で、餌を探しているのか、何かから逃げているのか。

今年は事情があって猟期にほとんど狩りに行けなかったけど、私は知っている。凍てつく山をかけるイノシシの息が白くなることを。猟犬との攻防。仕留めた巨体の内臓は、手を引っ込めたくなるほど熱いことを。

なんか泣けるんだよ。
お前は、今、動いてる。
北斗の拳のケンシロウ風につぶやいたって、許してほしい。

岡山理大の先生曰く、条件によっては母イノシシが子どもを引率して振り返るような、詳細な姿も見られるそうだ。カメラの性能もあるだろう。

でも、いい。
今はこれで、いいのだ。

寒空の下、会場が一体になる。
それはまるで映画館の応援上映のようだった。

それぞれの人が、それぞれの想いを胸に、目の前のちっこくて赤い点を見つめている。

もしドローンに心があったら、こんな人間たちもまた愛おしいと思うのかもしれない。

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