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対人関係を楽にするマルチペルソナ 【人間関係の心理学】

こんにちは、野口嘉則です。

今日は、「さまざまな人間関係に柔軟に対応するためのマルチペルソナ」についてお話をします。
人間関係を豊かに育んでいかれるうえで、とてもお役に立つと思います。



<ペルソナは他者と接するときの顔>


「ペルソナ」という言葉は聞いたことがありますか?

心理学における「ペルソナ」というのは、僕たちが他者と接するときの顔のことです。

僕たちは、人と接するとき、常になんらかのペルソナで接しています。
親しい人といるときは、親しい人むけのペルソナ。
初対面の人と接するときは、初対面の人むけのペルソナ。

僕の場合のペルソナをいくつか紹介してみますね。

・妻と話をするときは、夫としてのペルソナ
・母親と話すときは、息子としてのペルソナ
・子どもと話すときは、父としてのペルソナ
・友だちと話すときは、友だちとしてのペルソナ
・自分の講座の受講者さんと話すときは、講師としてのペルソナ
・孫と話すときは、おじいちゃんとしてのペルソナ

このように、日ごろは自分では意識していませんが、僕のペルソナはたくさんあり、無意識に使い分けているんです。

僕は、心理療法家が主催する勉強会などによく参加しています。
そこに受講生として参加しているのに、もしも僕がいきなり前に出て、講師のように語りはじめたら、みなさん戸惑ってしまいますよね。
なので、誰かの勉強会に参加してるときは、僕は無意識のうちに受講生としてのペルソナでそこにいるわけです。

それから、僕は孫の喜ぶことはなんでもやるので、ゴリラやゾンビのフリをして遊んであげたりすることもあります。それが、おじいちゃんとして孫と接しているときの僕のペルソナの一部です。
もしもそのペルソナで、僕が自分の講座に講師として登場したらヤバいですよね(笑)

ペルソナという言葉は、元々は仮面を意味するラテン語です。
なので、ペルソナを仮面と訳す場合もありますが、そうすると、自分をいつわるものや隠すもののように聞こえます。

しかしペルソナは、自分をいつわるものや隠すものではありません。
さきほどの僕の例で、妻と接するときは夫としてのペルソナで接すると述べましたが、それは決して自分をいつわっていたり隠しているわけじゃなく、それも僕の一つの顔だということなんです。
なのでペルソナは、「仮面」と訳すよりも、「人と接するときの顔」と訳した方が、誤解がなくていいと思います。


<固定化されたペルソナは不自由をうむ>


対人関係論を提唱した、ハリー・スタック・サリヴァンという心理学者がいます。
サリヴァンは、「人間は対人関係の数だけ人格を持っている」と言いました。
彼がここで言っている人格というのはペルソナのことですね。
友人関係の中でも、友人AくんとBくん、それぞれと接するときのペルソナは少しずつ異なってくるわけです。

そして人は、こころが成熟してくると、その場に応じたいろいろなペルソナを生きることができるようになります。
これはつまり、多様なペルソナを生きることができ、こころが柔軟であるということです。

逆に、ペルソナが固定化すると、ずいぶん不自由になってしまいます。
わかりやすい例をいくつか出してみますね。

・会社経営者として、職場で指示命令を出すことが多いAさん。
経営者の彼は、家でも、奥さんや子どもに対して指示命令を出すことが多く、家族から嫌がられています。
「指示命令を出す人」というペルソナでしか、人と接することができなくなっているんです。

・60代のBさんは、医者として何十年も「先生」と呼ばれてきました。
彼は、カルチャー教室などで太極拳や俳句を習いたいと思っているのですが、自分より10歳も20歳も若いインストラクターに、「すみません、わからなので教えてください」ということに抵抗があります。
「先生」というペルソナを手放すことができないのです。

・事業で成功し、有名人になったCさんは、どこでもVIP扱いされます。
飛行機に乗るときは、もちろんファーストクラス。宿泊するときは、スイートルーム。ある日、航空会社の事情によりエコノミークラスで旅行することになりました。
「セレブ」というペルソナでしか生きられなくなっている彼は、すごく不機嫌に飛行中の時間をすごしました。

・いつも明るいと評判のDさん。
人が集まる場では、いつもムリをしてテンションを上げています。元気な自分を演じてつづけているので、家に帰ると毎日ドッと疲れが出ます。
「明るく元気な自分」というペルソナが固定化されてしまっていて、心の負担になっているのに変えられないんです。

・頼みごとを断ることができないEさん。
人からなにかを頼まれると、自分に余裕がないときでも引きうけてしまいます。そんなわけで、なぜかいつも大変で、生きづらく感じています。
「いい人」というペルソナでしか人と接することができていないんです。

・だれに対しても本音を言ってしまうので、相手を傷つけることが多く、よく対人関係のトラブルに見舞われるFさん。
「言いたいことを言いたいだけ言う」というペルソナが固定化されているので、場に応じて言うことをコントロールすることができていません。

このように、固定されたペルソナでしか人と接することができなくなってるとしたら、これはとても不自由な状態ですよね。

日本にユング心理学を紹介した河合隼雄かわいはやおさんは、こう述べています。
「人間、先生と呼ばれるようになったら、生徒になる機会を意識的に作ることが大切だ」

彼は、日本の心理学の世界においてすごく有名な方で、文化庁長官までやられ、あちこちで「先生」呼ばれた人です。
そんな河合先生自身は、いろんなところに勉強をしにいって、あえて生徒になる機会をたくさん作っておられました。
そのせいか河合先生は、まったくえらぶったところがなく、誰とでも気さくに話されました。
「先生」というペルソナに固定化されるのを避け、柔軟に生きるようにされていたんですね。

このように、ペルソナをひとつに固定するのではなく、柔軟にバリエーションを持てると、人はとても生きやすくなるということなんです。


<大人は本音とタテマエを使いわける>


『甘えの構造』という大ベストセラーを書かれた土居健郎どいたけおさんが、こんなことを述べておられます。
「精神的に大人になるとは、本音とタテマエが分かれてきて、タテマエで人と接することができるようになることである」

実は、かつての僕は、この言葉を読んだとき「残念だな」と思いました。
当時の僕は未熟だったので、「人間、本音でだけで生きれたら楽なのに」という幻想をもっていたんです。

しかし、心理的に大人になるとは、そのような幻想を脱して、たくましく、かつ柔軟に、現実に対応できるようになるということなんです。
具体的に言うと、相手に応じて、状況に応じて、最適なタテマエで人と接することができる。つまり、その場に応じたペルソナで人と接することができるということです。

こうやって、ひとつのペルソナに固定化せず、相手や場に応じてペルソナを使い分けていくこと「マルチペルソナ」と言います。


<マルチペルソナでこころを柔軟にする>


マルチペルソナを実践するためには、必要に応じてペルソナのバリエーションを増やしていくことがとても有効です。

わかりやすいように、ペルソナを増やす例をあげてみますね。

・他人を喜ばせることばかりして、自分が後回しになって疲れている人

いま持っている「いい人」のペルソナ

「付きあいの悪い人」のペルソナ
「ガードのかたい人」のペルソナ

失礼な人に対しては「怒る人」のペルソナ

「いい人」のペルソナだけでは、人に利用されてばかりで、人間関係でもすごく疲れちゃいますよね。
そこで他のペルソナを増やしていくのがマルチペルソナ戦略です。
自分にとってハードルが高いと思うペルソナを無理に採用しなくてもいいんです。まずはハードルの低いものから試して、役に立ちそうでしたら採用するといいです。

少しずつでもペルソナを増やしていけると、相手に応じて柔軟な対応ができるようになっていくので、人間関係が確実に楽になります。

もういくつか例をあげてみますね。

・いつも人といるときに、明るく元気な自分を演じている人

「明るく元気な自分」のペルソナ

「自然体」のペルソナ
「落ち着いた人」のペルソナ


・「先生」と呼ばれる立場の人

「尊敬される自分(先生)」のペルソナ

「生徒(教えてもらう人)」のペルソナ

このように、自分の持っているペルソナに加えてバリエーションを増やしていくと、心理的に柔軟になっていくとともに、精神的にも成長・成熟していけるんです。


<ペルソナペインティング>


ではここで、ある女性から実際に相談のあったケースを紹介します。

彼女が持っているペルソナや、そこから増やせるペルソナが、どんなものか考えながら読んでみてください。

飲食店で働いているKさんは、精神的にとても疲れていました。

たまに言われるお客さんからのクレームや、不機嫌なお客さんの対応に、かなり参っていたのです。

彼女の勤めているお店の店長は、いつもこんなことを言っていました。
「お客さんに対して、とにかくこころを開いてオープンマインドで接しなさい。文句やクレームを言われても、こころからの笑顔で対応しましょう」

店長の言葉どおりにしていた彼女は、相当こころにダメージを負ってしまっていました。
不機嫌なお客さんにも「オープンマインドの自分」というペルソナで接していたので、お客さんの不機嫌な言動を、ダイレクトにこころで受けとってしまっていたんですね。

この相談をうけて、僕は、店長さんのアドバイスと逆のことを提案しました。

僕が伝えたのは、「こころを閉ざして、愛想のいい店員を演じてみてください」ということです。
実際はこころを閉ざしつつも、まるでこころを開いているかのような笑顔の店員を演じる、ということをアドバイスをしたわけです。

さらに僕は、アドバイスに加えて、コツもお伝えしました。
「ご自分が女優になったつもりで、『やっかいな客への対応に慣れている、接客のプロフェッショナル』を演じてみてください」

こんなふうに、自分の本音を隠して別の自分を演じることを「ペルソナペインティング」といいます。

そして彼女は、「心を閉ざしていいんだ」と思えたことで、ずいぶん接客が楽になったようです。
彼女は、不機嫌なお客さん相手に、「この人、なに感情的になっちゃってんの」とこころの中では思いながらも、笑顔の店員を演じて接するようになりました。

なんどもやっているうちに、まるでこころを開いてるかのような笑顔の店員を演じることができるようになっていったそうです。それはつまり、ペルソナペインティングのスキルがアップしたということです。

その結果、彼女はダメージを受けにくくなり、こころに余裕が出てきたことで、仕事を楽しいと思えるようになったんだそうです。

そんなある日、店長さんがこう言ってきたんです。
「最近、笑顔がとてもいいね。お客さんにこころを開くってことがキミもわかってきたみたいだね」

実際のところ、彼女の笑顔は、お客さんにこころを開くことで生まれたのではなく、逆に、こころを閉ざしてこころを守ったことから生まれたわけですが、店長さんはそのことをわかっておられなかったようですね。


<ペルソナを増やす実践方法>


さてここから、実践編に入っていきます。
マルチペルソナ戦略を進めていくために、やってみていただきたいことがあります。

それは、こちらです。

1,もしもいま、あなたにとって居心地の悪い人間関係があるならば、その関係において自分がどんなペルソナで相手と接しているかを考えてみてください。

もしもペルソナが見つかったなら、それを文章にまとめて書き出してみてください。

2,そのペルソナとはちょっと違うペルソナを採用することで、相手との関係が楽になったり、居心地が良くなったりする可能性があるとしたら、それはどんなペルソナだろうかというのを考えてみてください。

このペルソナも、見つかったら思いつくかぎり書きだしてみてください。
効果はありそうだけど、自分が演じるにはハードルが高い、というペルソナがあっても大丈夫です。
その場合は、そのペルソナにたどり着くまでの段階的なペルソナも考えてみてください。

参考までに、例をひとつ紹介しますね。

<妻との関係で悩んでいる男性の場合>

彼は、いつも妻の機嫌をとっています。
「機嫌を取る人」というペルソナで、常にビクビク過ごす彼に対して、奥さんはよく不機嫌をぶつけてきます。

「不機嫌をぶつけられたときに、毅然きぜんとして抗議する人」というペルソナがあれば、楽に暮らせるだろうと思う反面、いまの自分にはハードルが高すぎると感じています。

そこで、もうちょっとハードルの低いペルソナを最初に作ることにしました。
「これまで100%機嫌をとっていたのを、70%ぐらいまでダウンする」というペルソナ
「不機嫌をぶつけられたとき、とりあえずその場を離れる」というペルソナ

彼は、ちょっと意識すればできそうなこの2つのペルソナを最初に採用したんです。

そして、この2つができるようになってから、もうちょっとハードルを上げたペルソナを作り、さらにそれができるようになったらまた少しハードルを上げ、というふうに段階的にやっていきました。

こうして彼は、最終的には奥さんに毅然と抗議できるようになり、不機嫌を一方的にぶつけられることもなくなったんです。

この彼のように、段階的にペルソナを作ってためしていくと、自分のペルソナをムリなく、豊かに増やしていくことができます。

今あるペルソナ
「機嫌をとる人」のペルソナ

ハードルの高いペルソナ
「毅然と抗議する人」のペルソナ



今あるペルソナ
「機嫌をとる人」のペルソナ

段階的なペルソナ
「70%だけ機嫌をとる人」のペルソナ
「その場を離れる人」のペルソナ

ハードルの高いペルソナ
「毅然と抗議する人」のペルソナ

こんなふうに、今あるペルソナを少し切り替えるとしたら、で、まず考えてみるのも一案ですね。


そしてもうひとつ。

3,もしもいま、あなたにとって心地のいい人間関係が既にあるとしたら、そのときのあなたのペルソナはどんなペルソナか考えてみてください。

そのペルソナは、あなたにとって快適なペルソナ、になります。
その関係性をじっくり育むのもいいし、または、他にもそういう関係を少しずつ増やしていくのもよいでしょう。


<まとめ>


僕たちは、人と接するときには必ずなんらかのペルソナで接しています。

その中で、心地いいペルソナはどれかを試したり、ペルソナのバリエーションを増やしたりして、ますます柔軟に生きていけるといいですよね。

<まとめ>

・ペルソナは人間関係の数だけある
・固定化されたペルソナは不自由をうむ
・成熟したオトナは本音とタテマエを使い分けることができる
・ペルソナペインティングを使う
・心地いいペルソナと新たなペルソナを模索する

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