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【植物が出てくる本】『家守綺譚』梨木香歩

梨木香歩さんといえば『西の魔女が死んだ』が有名でしょうか。
私の周りの「自然好き」な方々の中には、梨木香歩さん好きな方が多い気がします。

『家守綺譚』梨木香歩(2004年:新潮社)

時は百年少し前の明治時代。物書きで細々と生計を立てる綿貫征四郎は、学生時代にボートの事故で亡くなった友人、高堂の実家に「家守」として独りで住むことになります。
草木や獣、さらには河童や人魚、小鬼らの出会い。季節の移ろいの中で、彼らとともに過ごす綿貫の目を通して描かれた、妖しく不思議な日常の物語です。

『西の魔女……』とは少しテイストの違う作風で、いかにも明治時代の青年らしい古風な文体で、物語は進められます。

そして、章タイトルが、サルスベリ、都わすれ、ヒツジグサ……、とすべて植物の名前になっています。

物語の序盤から、いきなり亡くなった友人の高堂が現れ、その後も度々登場しては、綿貫の話し相手に。
また、サルスベリに惚れられたり(?)、ヒツジグサが「けけけっ」と鳴いたり、白木蓮から白竜が生まれたり……と、次々に不思議なことが起こります。
綿貫は戸惑いますが、高堂や近所の人など、他の登場人物にとっては、どうやら当たり前のことらしく……。

私は数年前、初めてこの作品を読んだときには、このトコトン非科学的な植物の描かれ方に、何だか馴染めなかったのですが、
四十後半になった今😅、あらためて読んでみると、あらまあ何とも心地よく、すっと心に入ってくるものがありました。

物語中の植物たちは、まるで意志があるかのような、「気」のようなものを発している存在。
また、タヌキやカワウソが化けたり、河童や鬼など異界の住人が、ふっとさりげなく現れたりします。
その中で翻弄されながらも、徐々に彼らに愛情を感じるようになっていく綿貫。
その関係が優しく、でも甘すぎず。そして古きよきゆったりした生活も、何だかうらやましく思えます。

俗世間に疲れて、癒しを求めている方に、オススメの本かもしれません😁

植物の描写は美しく、また、ヘクソカズラの命名について高堂と談義するシーンなど、梨木香歩さん自身とても植物がお好きであることが窺える箇所がたくさんあります。

また、物語の終盤で綿貫が語る、

私は与えられる理想よりも、刻苦して自力で掴む理想を求めているのだ。

という言葉は、心に残りました。

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