職場でのゲイに対するハラスメント

ここ数年でLGBTQへの配慮をしようという動きが一般企業でも活発になったように思います。東京レインボープライドのスポンサーには名だたる大企業がずらりと並んでいて、10年前とは隔世の感というやつです。
僕が今勤めている会社でも、コンプライアンス研修なんかでLGBTQの人に対するセクハラ事例とかをやったりしましたが、まぁ我が社はまだまだ後ろ向きというか、”一応やってます”感が強いので、もう少し頑張ってほしいなと思います。

とはいえ、本当にゲイ当事者にとって環境は良くなっていると感じます。

ストレートの人達との間に感じる壁

10年前とか、よほど先進的な会社でないとLGBTQについての学ぶ機会なんてなかったと思います。
僕が20代の頃に勤めていた会社では、部長が「あのオカマ野郎~!」とか大声で別の部署のお偉いさんの悪口を話していたり、飲み会で同僚から「お前彼女ずっといないよな?もしかしてホモなんじゃないか?」と言われたり、まぁなかなか酷いありさまでした。それが当たり前の環境ではあったので、大きなショックは受けませんでしたが、少しずつ心に小さな傷をつけられる感じというか、「この人達とは本当の意味で打ち解け合うことはない」と、どんどん心のバリアが分厚くなっていくような感じがありました。

善意に応えられないことで自己嫌悪をすることもある

そして、20代後半~30代前半の頃になると、今度は本当に心配して女性を紹介してくれようとしたり、合コンに誘ってくれる同僚が増えてきました。
世の中には、独り身の男性がいると、「何とか誰かとくっつけて結婚させてあげたい!」って張り切ってくれる人が、思いのほか多いのです。
出会いがなくて困っているストレートの男性にとっては、本当に良い同僚だと思うのですが、ゲイであることを隠して生きている僕にとっては、その善意に応えられない自分を責めて凹んでしまったり、同僚との交流を避けるようになってしまったり、本当に難儀な存在でした。
良き友人の善意に応えられない、嘘をつかないといけない、という状態は本当にストレスフルなわけで。せっかく楽しくお酒を飲んでいても、結婚の話とかになると一気に暗い気持ちになってしまっていました。
「だったらカミングアウトしてしまえば?」と思う方もいると思いますが、まだまだLGBTQの理解が十分されていない環境では、噂話をされたり、気味悪がられたり、最悪な場合はハラスメントされたり、という可能性がなくはないわけで、カミングアウトをするという選択肢はなかなかにハードルが高いのです。

そうやって、冷や汗をかきつつ出来るだけ合コンとか紹介を断り、時には同僚から「風俗に行こうとか」とか「セクキャバに行こうとか」と誘われても、のらりくらりと断ってなんとかやっていました。
時には断り切れずに合コンに参加することもありましたが、出来るだけ気配を消して、適度に相槌だけ打って、すぅ~と帰るというスタイルでなんとかやり過ごしていました。

そんなこんなで、同僚の善意から逃げる続けるのが、そろそろしんどくなってきた頃、今のパートナーと付き合い始めたのですが、その後はパートナーを「彼女」に置き換えて「彼女できたんで、合コンとか行けません」ということにしたのです。
その効果は絶大で、それまで苦労して断っていた誘いは無くなり、胸をなでおろしていました。しかし、平穏な時は短く、すぐに次の苦しみが始まったのです。

『いつ結婚するの?』ハラスメント

パートナーと二人で同居をしていたので、「彼女と同棲している」と話してしまったのが良くなかったのですが、「同棲している彼女がいるのに何年も結婚しないなんて!」「ちゃんと責任を取るんでしょうね?」というプレッシャー。
これは同世代の同僚というよりは、上司世代の人達からが多かったのですが、「いつになったら籍を入れるんだ?」って本当に何回聞かれたかわかりません。「女性には子供が産める年齢っていうのがあるんだからね!」と説教されたり。その度に、脇汗ビッショリになりながら「いや、色々ありまして・・」とゴニョニョいうことしかできませんでした。
仮にストレートのカップルだったとしても、結婚するかどうかは当事者の自由だし、子供を持つかどうかも当事者の自由だし、今思えば「僕らは僕らで幸せにやっているので、放っておいてください!」って言ってしまえば良かったと思いますが、そういう風にハッキリ言えるタイプでもないのです。

いつの日か、直属の上司から、「この前、取締役がお前のことを『何年も同棲してくるくせに、いつまでも結婚しないで、けしからん!』と言っていたぞ」と伝えられました。
「な~にぃ~!?事情も知らずに勝手に人を判断してんじゃねーよ!!」という怒りと、「この会社にいても、僕はずっと『けしからん奴』って思われ続けるんか、、」ていう思いで、だいぶ気持ちが沈みました。
その会社ではありがたいことに丁度出世させてもらって、仕事をバリバリやっていこうと張り切っていた矢先だったのですが、今後さらに出世していけば、こういう価値観のおじいさん達ともっと深く付き合っていかないといけないのかな、と思うと心が重くなって、仕事へのモチベーションが一気に下がってしまいました。

生きづらさを感じる職場では頑張りが続かない

それだけが理由ではないのですが、それ以外にも色々とあって、結局、僕は今の勤め先の会社に転職することにしました。決してそれが主な理由ではないのですが、転職の決意をする1つの要因ではあったかと思います。

マズローの欲求5段階説で言うところの、社会的欲求が常にグラついているような状況では、仕事のパフォーマンスにムラが出ると思います。
多くの社員は、ある程度年数を経れば職場内での社会的欲求は満たされた状態になると思いますが、隠れゲイにとっては、職場の理解が無い場合、常に社会的欲求を脅かされている状態になります。

今の会社では「パートナーと暮らしてます」とだけ言うようにしているのですが、昨今のLGBTQの教育のおかげか、全くそれ以上のことを聞かれないです。今の世の中の雰囲気であれば、聞かれたら「同性のパートナーなんですよ~」てカミングアウトしてしまっても良いかもと思っているのですが、驚くほど聞かれません。
もういい歳のオッサンなので、周囲もオッサンの暮らしに興味がないっていうのもあるかもしれないですが、いずれにせよ、変な汗をかきながら嘘をつく必要もないですし、居心地がいいです。

自然に生きたい

そんなわけで、ゲイの当事者としては、だいぶ暮らしやすくなってきているなーと思う反面、まだ当然のように「同性のパートナーと暮らしてます」とか言える空気にはなり切れていない、まだまだ周囲の人が地雷を踏まないように、ハラスメントで訴えられたりしないように、腫れ物に触るような対応ではあると思います。もっと自然にLGBTQの存在が受け入れられて社会に違和感なく溶け込めるようになったら良いなーと思います。

おやすみなさい。








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