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『39.4のデルタ』について

「彼女」ほど不器用な人間を私は今まで見たことがない。

自分を隠そうとすればするほど身を削られ
自分を曝け出そうとすればするほど身を削られていく。

正直不器用すぎて見ていられない。

「レズビアン」

たったそれだけのことが ここまで彼女を追い詰め
身を削る結果となった。

「39.4」
これは今「彼女」にある重さの数値。

痩せこけた頬に浮き出た鎖骨、骨ばった手脚、背骨。

常人なら見ていられないほどに痩せ細った「彼女」の姿を
私は「美しい」と感じ
そして、恋をした。

「綺麗な三角形だぁ」

手を腰に当てながら「彼女」はポツリと言った。
確かにそれは綺麗な、骨ばった「彼女」だからこそ生み出せる
三角形だった。
それから私は「彼女」を「デルタ」と呼ぶこととなる。

「デルタ」は不器用なりに東京の某所で1日1日を
懸命に生きようとしている。
セクシャルマイノリティである、ただそれだけのことで社会で多くの
理不尽に晒された「デルタ」は社会不安障害のひとつである
「パニック障害」を発症した。
現在、その治療のため薬の副作用と闘いながら
日々不安に駆られながらも希望を見出そうと もがきつつ過ごしている。
ひどい時には寝たきりの状態だった彼女も
最近では笑みを浮かべて歌うこともあれば絵を描くこともある。
気分の良い日には外に出かけ、そして息を切らして家に帰ってくる。

なぜ「デルタ」はこのような姿になってしまったのか。
そしてなぜ私は「デルタ」に恋をしたのか。

『39.4のデルタ』は痩身の「彼女=デルタ」に恋をした
私の独りよがりの作品に見えるかもしれない。

しかし「デルタ」の存在は「彼女」だけでないと
私は嫌でも思ってしまうのだ。
「デルタ」は「私」でもあり この絵を見ている
「あなた」かもしれない。

それだけではない。
『「デルタ」を生み出してしまった人々』もいるはずだ。
その多くはこの作品にすら気づきはしないだろうが
もしかしたらそれは興味本位でこの作品を覗いた
「あなた」かもしれない。

私は「彼女」が「デルタ」になってしまったことを
いまだに認められていない部分がある。
もし「彼女」があの時アウティングされていなければ?
もし「彼女」がレズビアンというだけで周囲から
遠ざけられることがなければ?
笑い者にされることがなければ?
大声で恥ずかしいことだと怒鳴られることがなければ?

様々な「もしも」が浮かんでは消え、浮かんでは消えを繰り返す。
しかしそれはもう過去のことなのでどうしようもなく
やるせない気持ちになる。

この怒りや社会への不満、「デルタ」の今後について
上手く表現するためにはどうしたら良いのだろうか。
人の興味や関心を惹きつけられるほどの聡明な文章を書く
ことは私にはできないだろう。

私は絵描きだ。

だから私は「デルタ」の姿を日々描きとどめることにした。

拙いキャプションではあるが少しでも私の絵や「デルタ」の過去や現在、
そして社会に渦巻くLGBTsや社会不安障害への
問題に考えを持つきっかけとなってくれれば私は嬉しい。

2019年 9月吉日 吉野まゆむ


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