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短編映画『寄り鯨の声を聴く』の覚書 | #2 でっかいことはいいことだ

「寄り鯨の声を聴く」を作るにあたって、いろいろと理屈を捏ねたりもしましたが、結局のところ初期衝動はこれにつきます。

「でっけえ!!!」

シロナガスクジラに出会う(模型)

クジラやストランディングについての興味を持ったものの、とはいえまだ具体的な描きたい何かがあったわけではなく、どうしたものかと考えた結果、とりあえずまずは標本が展示してあるらしい博物館にでも行ってみようか、と思い至りました。とにもかくにも東京・上野にある国立科学博物館に行ってみることにしました。

国立科学博物館には、入場せずとも見ることができる、というか目に入るシロナガスクジラの原寸大の模型があります。

シロナガスクジラの実物大模型(全長約30m)

それを見上げて思いました、『なんてデカいんだ!!!』と。語彙力も何も吹っ飛んで、「すげー」と声が漏れていました。

これまでも通りすがりにこの模型を何度か見たことはあったはずなのに、改めて"クジラ"というものに意識を向けてからここに訪れると、そのあまりの大きさに衝撃を受けました。この模型はまさに海面から深海へ向けて潜水を開始しようとする瞬間を再現しているそうで、ほんの少しだけでもクジラに対する知識と興味を持った上で向かい合うと、驚くほどにリアルに息づいているように感じられるようになりました。こんな巨大な生物が確かに今この瞬間も!海洋を悠然と泳いでいるかと思うとワクワクが止まりませんでした。それでいて我々と同じ哺乳類だというのだからもうワケがわからない。最高じゃないっすか。

面白いなという興味はあれど、短編一つ作るのにもなかなか時間とお金とエネルギーが要るもので、興味本位だけで進めると大抵途中で失速してしまいます。しかし、このシロナガスクジラを見上げたときに初めて、作品を作ろうというモチベーションを維持するだけの明確な衝動が生まれました。でっかいクジラを画面に映したいと思いました。僕は、社会のためとか誰かのためとか、使命感や責任感のみで作品は作れないという自覚があります。だから最初はそんな難しく考えなくていいんじゃないかと思います、たぶん。

そのワクワクのまま科博の常設展を一通り見て回り、それらも非常に面白かったのですが、話が逸れてしまうのと、ぜひとも実際の展示を見ていただきたいのもあって割愛します。

ともあれ、展示の流れを設計した人がいて、それぞれの標本や展示物を制作した人がいて、その人たちの存在を意識しつつの鑑賞は、普段とはまた違った体験となりました。それぞれに物語があるんです。

体長約14mのマッコウクジラ半身模型付全身骨格標本

そんなこんなで具体的な知識というよりは、体感・体験を得て、またそのうち来ようと思いながら帰路に着きました。

田島木綿子先生との出会い

国立科学博物館では、毎週土日にディスカバリートークというイベントが行われています。科博の研究者が順々に自分の研究や、身近な科学の話題について解説するギャラリートークです。調べてみると、「海獣学者、クジラを解剖する」の著者でもある田島木綿子先生の担当回がすぐにあることを知り、思ったよりも早く再度科博を訪れることになりました。

ディスカバリートークのその回は、主に小学生とその親御さんが席を埋めていました。おっさん一人というやや怪しさを纏いながらも、無事に潜入して前の方に陣取り、田島先生のお話を伺うことができました。キビキビとした佇まいは、まさに著書を読んで抱いた印象そのままでした。「海獣学者、クジラを解剖する」に沿った内容を、小学生向けにより噛み砕きつつも、決して子ども扱いはせずにその仕事のシビアさも含めてお話されているのが印象的でした。

講演が終わって、書籍にサインをいただきながら「実はクジラのストランディングをモチーフにした映画を作りたく、もしよければ詳しいお話をお聞かせいただくことはできないだろうか」という旨をお伝えすると、ちょっと怪訝な表情をされました。今思い返すと、緊張もあってかろくに名乗りもせずにややしどろもどろで、頭を丸めた成人男性がひとり、小学生の列に紛れていきなりそんな話をしてきたとなれば、相当に怪しかったと思います。たいへん申し訳ございませんでした。

しかし、とりあえず企画書など改めてメールで送ってくれもらえれば、と言っていただけました。ひとつ道が繋がったかもしれないと思い、ホッとしたのを覚えています。

後日改めて企画書と脚本、企画の経緯、聞きたいことをメールにしたためて送ったところ、「国立科学博物館の筑波研究施設まで来てください」とお返事をいただきました。

国立科学博物館は、1877年に創立された、日本で最も歴史のある博物館の一つであり、自然史・科学技術史に関する国立の唯一の総合科学博物館です。

①調査研究
②標本資料の収集・保管
③展示・学習支援
これら3つの活動の軸とする科博のなかでも、筑波地区は基本的には一般に公開された展示施設ではなく、研究施設としての役割を主としています。

『海獣学者、クジラを解剖する』でも登場した場所に直接伺えることになったのです。なんともはや!有難いことです。

そしてこのあとも、本作は何かに導かれたように偶然の重なりが続いていきます。


上映情報

12月23日(土)に渋谷TANPEN映画祭にて本作が上映されます。
場所:渋谷ユーロライブ
日時:12月23日(土) 15:13 開演
入場無料

詳細は以下
https://eizousya.co.jp/tanpen

ぜひぜひスクリーンで本作をご覧いただけると幸いです。


短編映画『寄り鯨の声を聴く』

■脚本/監督/撮影/編集: 角洋介
■出演: 穂紫朋子、久保田メイ、山口森広、岡崎森馬、渡邊雛子
■音楽: ioni
■歌: 工藤さくら
■プロデューサー: 井村哲郎
■製作: ジーンハート株式会社

■取材協力(敬称略):
・国立科学博物館動物研究部
 田島木綿子
 山田格
 塩﨑彬
 西間庭恵子
 大枝亮
・富士ストランディングネットワーク
・ストランディングネットワーク北海道
 松田純佳
 名倉のどか
・大房岬自然公園 (指定管理者 千葉自然学校)
 清水旭
・6DORSALS KAYAK SERVICES
 藤田健一郎

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