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荒波に夕陽が沈み雪山を裾から頂へ深く赤く染めあげる

荒波に夕陽が沈み雪山を裾から頂へ深く赤く染めあげる

船は岬の岩礁を避けて真っ直ぐに北の航路を進む

昨夜も船が沈みました
蛇龍が怒っておるのです

老いた浦人から伝承を聞いたのは
両手の指の数では数えたりない昔のことだ

幸せに暮らしていた男と女がおりました

うみ戦さに出た男の帰りを、船が真っ先に見える
岬の洞窟で女はずっと待っておりました

女は子を孕んでおりました
男は不帰ず女も姿を消しました

私の爺さんのそのずっと昔のことです

岬の先を廻る船が沈み始めたのは暫く後のことです
女が男を子を探している、と言われております

男は鳥となって戻り、女を今も探しておるのですが
蛇龍に転じたものの姿は哀れ誰にも見えないのです

爺様が囲炉裏の炭を吹いた 子はどうしたのですか

蛇龍はこの浦で子を産み、その産声が嵐を招き
母子は荒波に生き別れたと言われております

昨夜は哀しい叫び声が響いたとのことですので
子の蛇龍の仕業でしょう

洞窟の入口に社がありますので明日お参りください

浜には多くの旅行鞄が流れ着いていた
泡立つ波頭から、小さな海蛇が浜をあがってきた

海蛇に発声器官はないが
記憶では、この小さな生きものはクンとないた

岬の社の燈明が遠くほの赤く明滅している

黒い雪山に銀河が垂直に立ち滝となって流れ落ちている

【AO0XNB0】

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