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僕にはポリアモリーがイノベーションに見えた。

「イノベーション」に関するビジネス書は山ほどある。
流行り言葉の時期も過ぎて、もはやイノベーションは日本の慢性的な課題になった。

もともと技術革新を意味するこの言葉は、今や「新しい考え方」や「新しい捉え方」など、停滞感や閉塞感があるビジネスにおける新たな突破口のような意味で使われるようになった。

私の仕事でも
「イノベーションを起こしたい。」
「イノベーションが起きる体質に会社を変えたい」
などの相談はひっきりなしにやってくる。

ただ今日はビジネスの話ではない。
「ポリアモリー(複数愛)」という概念をイノベーションの視点から考えてみた。

ポリアモリーとは、ポリリズムなどに使われる「ポリ(=複雑な)」と、「アモーレ(=愛、愛する人)を組み合わせた言葉で、1990年代からアメリカで誕生した概念だと言われている。
詳しくは文化人類学者である深海菊絵さんの「ポリアモリー 複数の愛を生きる」を読んでいただきたい。

私がこの概念と出会ったのは2年前。
離婚した直後で、今後の恋愛について同僚と話している時だった。
「そもそも、なぜ恋人は1人じゃないといけないんだろう」
「好きな人が、好きになった人をなぜ好きになれないのだろう」

お酒の力を借りて、普段口にすると「クズ」「鬼畜」「変態」などと言われそうな私の価値観を思い切って話してみた。
その同僚がLGBTに詳しく、多様な価値観を持っていたことも後押しになったのかもしれない。

するとその同僚が「ポリアモリーって知ってる?」と教えてくれ、LGBTのサミットで出会ったというきのコさんのことを話してくれた。
きの子さんはcakesでポリアモリーに関する連載をしていて、偶然にも私と年齢も同じ女性だった。その同僚にきのコさんを紹介してもらい、食事をしながらディスカッションをして、彼女の書いた本を読み、少しずつポリアモリーについて勉強し始めた。

そして思った。
ポリアモリーはイノベーションだ、と。
自分が救われたいという意味もあるかもしれないが、ポリアモリーは私の悩みも含め、閉塞感のある日本の恋愛観の突破口になり得る概念だと考えるようになった。

■恋人は1人というバイアス

世界で活躍するビジネスデザイナーの濱口秀司さんは、イノベーションを起こすには「バイアスを壊す」ことが必要だと言う。バイアスとは、固定観念や先入観など「勝手に思っている前提」のことで、それが壊れることでイノベーションにつながるとされている。

例えば、
facebookは「インターネットは匿名でやるもの」というバイアスを
UberEATSは「出前は店の人が行く」というバイアスを壊した。
わかりやすい例だと、日本でもAKB48が「アイドルは憧れの遠い存在」というバイアスを壊して「会いに行けるアイドル」という概念で業界に革新をもたらせた。

ポリアモリーが壊すのは「恋人は1人」というバイアスだ。
私たちは勝手に恋人は1人という前提を共有したつもりになっている。

別の方法でもイノベーションの検証をしてみる。
2×2(ツーバイツー)という考え方だ。

2つの軸を掛け合わせた4つの象限でモノゴトを整理することで、「そこのポジションあったね」と空き地が見つかることがイノベーションのヒントになると言われている。
ポリアモリーを2×2で表すとこうだ。

これまでは、
象限①は正しい恋愛の形
象限②は浮気されてかわいそうな人
象限③は最低なやつ
とされてきたが、象限④が話題になることはなかった。
あったとしても、多夫多妻性など遠い昔のことやどこかの民族の話としてだ。この象限④をこじ開けたのがポリアモリーだ。これまでの議論の幅を広げ「そのポジションあったね」と恋愛における空き地が見つかった。
これが恋愛観におけるイノベーションにつながっていくと僕は考える。

■ポリアモリーの本質

「恋人が複数人いる」という結果的な状況ばかり注目されるポリアモリーだが、その本質は先ほどの四象限すべての存在を認めることだと私は考える。
例えば「お互いフェアだから」という理由で象限1を正しいとするならば、同じ理由で象限④は少なくとも認められるべきだ。

象限④を認めることで、まずは「恋人複数派」の存在が認められる。
するとこれまで浮気や不倫など象限①のみが正しいという前提で排除してきた、象限②、象限③の存在についても新しい前提で考え直すことができる。イノベーションのはじまりだ。

例えばこれまで「浮気されてかわいそう」と周囲が言っていた状況は、ポリアモリーとモノアモリー(恋人1人派)の恋愛と捉え直すことができる。

新しい前提を元に考えれば、それまで「かわいそう」と言っていた人に「かわいそう」なんて言葉を浴びせる必要はなくなるし、ポリアモリーが本意でない嘘をつく必要もなくなる。

このようにポリアモリーがもたらすイノベーションは、恋愛の多様性を認め、多くの人が生きやすい世の中をつくっていくことだと私は考える。

■そんなもの○○とは呼ばない

ここまでの話を「はいそうですか」と受け入れられる人は多くない。
しかしそれはイノベーションが起こる時には常に生じてきた必要な議論だ。

これまでのバイアスだけが真実だと信じて疑わなかった人たちが、そんなもの○○とは呼べないと言い出すだろう。

例えばAKB48は「アイドルは遠い憧れの存在」という前提を疑わなかった人たちから「そんなものアイドルとは呼ばない。ただの素人だ。」と言われたことだろう。
しかし彼女たちが実績を積むにつれて「こういうアイドルもアリだよね」と徐々に前提が変わっていった。

今、ポリアモリーに寄せられるのも「そんなもの恋愛とは呼ばない」という声だろう。しかし徐々にその存在が世の中に認められれば「こういう恋愛もアリだよね」という新しい前提につながっていくと私は信じている。

このnoteがそんな進化の一助になれたら嬉しい。

次回は私がポリアモリーを宣言してから起こった心境の変化を書いてみようと思います。

サポートいただけたらグリーンラベルを買います。飲むと筆が進みます。