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今年最後の重量級スピノザ【エチカ】岩波文庫チャレンジ61&62/100冊目

難読本とは知らずに買い、それは長い間積読していたスピノザのエチカ。ついに読む時が来た!

読み返していた「夜と霧」で、著者がどん底から這い上がったきっかけになった言葉はエチカの中にあった。

苦悩と言う情動は、それについて明晰判明に表象した途端、苦悩であることをやめる

夜と霧より

チャレンジ61&62冊目では、この言葉の原点を追い求めて、スピノザのエチカ(上下)を旅する。


積読から通読へ

難読本は何か目的があると通読できるのかもしれない

何かの本で引用されているのを見ると、引用元の本をよくも知らずに買ってしまう。エチカも、結局は「夜と霧」を読んで買ったのかもしれないが、そんな理由はとうに忘れてしまったぐらい長い間放置していた。

購入後に難読本であることを知り、ますます手が出せなくなっていた。

ちょうど「夜と霧」を再読していて、過去の自分と同じ場所に感銘を受けたのかも・・読むなら今しかない!と

エチカの中にある、ヴィクトール・フランクルを救った言葉、それがどうしても知りたかった。

スピノザ:哲人的頭脳

(はじめに)
自分は哲学の専門ではないので、細かな内容紹介は控える。頑張って通読はしたものの、果たして真に理解できたのかはよく分からない。内容が知りたい方は最後に載せたリンクなどから、専門の記事などを参照されるのが良いと思う。この記事は、あくまで自身の感想です!

ピコ太郎的アッポーペン(構成)

本書最大の特徴「全てを幾何学的形式で推論、証明」したもの。
定義で始まり、公理、定理、Q・E・D*で終わる。

*Quod Erat Demonstrandum「これが証明されるべきことであった」と訳されていたが「これにて証明完了!」として理解

⚫︎幾何学的形式
三角の和はニ直角に等しい、という数学の定理。XだからYという論理展開。

エチカは倫理学の本。美しい自然界の理と、はちゃめちゃな人間界をアッポーペン🍎🖊️して(くっつけて)説明しているような本だと思った。

論理は凄いが、公式で説明できない所を無理矢理当てはめている感もある。だからアッポーペン。自然界🍎と人間界🖊️をウーン!

⚫︎言葉の定義
数学的、論理的考えの好きな所は、言葉の定義を最初に置いている所。専門家同士の会議であっても、言葉の定義を最初に決めておかないと、誰かは揚げ足をとる人がいて、議論が前に進まなくなるという。その問題を最初に排除。

⚫︎独特な言葉使い
言葉を超絶的名辞(包括的、抽象的)と一般的概念(普通の名詞)で区分していて、分かりにくい方の言葉、超絶的名辞で論理展開されている。

スピノザが論争の元だとして忌避した一般的概念。一般名詞で説明される方が分かりやすいけれど、その分イメージする名詞には個人差が生まれる(犬といえば?で同じ種類の犬を想像したら奇跡)。そこで超絶的名辞による説明がなされる。何を言ってるのか分かりにくい(頑張れ)。

それが与えられればあるものが必然的に定立され、それが除去されればそのあるものが必然的に滅びるようなもの、あるいはそれがなければある物が、また逆にそのあるものがなければそれが、在ることも考えられることもできないようなもの、そうしたものをその物の本質に属すると私は言う。

第二部・定義ニ

⚫︎ブラックボックスもボックスに入れて
全てXだからYとして説明するには、無限にその原因を遡る必要がある。そうならないように、真である事を出発点に置いて演繹していく。言い換えれば、未知を未知として阻害する事なく、未知=真=神から始めた。

分からない事を神の御技としただけでは?とも思えるが、やや違う様にも思う。スピノザが凄いのは、未知を頂点にしてきちんと論理展開している事。

「属性は無限にあるが、我々が認識できるのは延長と思惟の2つだけ」と主張するなど、分かっている物事だけで帰結しない事も教えてくれる。

以上がエチカを構成する特徴ではないだろうか。最初の定義を踏まえたり、言葉が分かりにくいため、読みながら行ったり来たりするのが常。

紙本で読むことを強くおすすめする本。

全体は5部構成で、厳ついのは1部&2部。本論は5部にあるのだが、5部を読みこなすためには1部2部で論法に慣れておく必要があると感じた。

エチカはここが有名

先に触れたように、詳細は専門家に譲るので、有名な箇所をサラッとおさらいするに留める。

・神即自然(汎神論)
・自由意志、偶然、目的はない(決定論)
・身心平行、物心同一説
・自己の有に固執する力、あろうとすること(コナトゥス*)
・善も悪もない
・精神的に自由であるためには、認識による受動感情を克服する事

*コナトゥス:本質に向かう力。スピノザ関連の動画をサーフィンしていると、この言葉がよく出てくるが、本書にはコナトゥスという言葉自体はあまり出てこない。その代わり自己の有に固執する、という表現で頻出。

エチカは、発売の翌年、聖書の冒涜だとして禁書になったが、神を否定した訳ではなく、宗教迫害が行われていた時代に、汎神論が伝統的宗教・神の人格を否定するものとして危険視されたから。

最終的にどのように倫理学に繋がるのかというと、最後の点「受動感情の克服」が関係してくる。大抵の人は感情に振り回されているので、

「もし精神の無能な人間がみんな一様に高慢で、何事にも恥じず、また何事も恐れなかったとすれば、いかにして彼らは社会的紐帯によって結合され統一されようか」→「我々のなしうる最善の事は、正しい生活法、あるいは一定の生活律を立てること」であると説く。

今でも使えるスピノザ哲学3つ

①神と決定論

「神とは?」と聞かれたらキリストを想像してしまうが、特定の宗教がない人、自分のような八百万的神様がいる場合には、どうしても現実離れしてしまう。

そこで想像したのは「天」
上杉謙信の言葉を借りて言えばこう。

運は天にあり、鎧は胸にあり、手柄は足にある。勝利を固く確信して戦地に赴けば、傷を負うことなく家に帰れる。死ぬつもりで戦えば行き続け、生き残ろうとして戦えば必ず死ぬ。二度と帰らないつもりで家を出れば無事に帰れる。少しでも帰ろうと思えば帰れない。世界は常に変化するものだと考えるのは間違っていない。だが、武士の道に変化があると考えてはならない。その運命は常に定まっているのだから。

幕末の志士の言葉を借りて言えばこう。

命などさっさと天に預けてしまえ。

うむ、しっくり入った。天に預けるつもりでなんでも挑戦すれば良いのだ、と。

②善も悪もない

これは良い考え。ただ主張するでなく、論理的に説明している所がすごいのだが、つまり、善悪は自分にとっての都合で決まるだけ。

ダイエットしている人にハンバーガーとポテトは悪かもしれないが、関係ない人には善。毒性の植物は人にとって悪かもしれないが、植物自体は善でも悪でもない(と、色々見ていたYouTubeで言われていた)。

③「夜と霧」回収

冒頭「夜と霧」の言葉に辿り着いた。

受動という感情は、我々がそれについて明瞭判然たる観念を形成するや否や、受動であることをやめる

第五部・定理三

少し前にも触れた「認識による受動感情の克服」とは「感情をよりよく認識するに従って、精神は感情から働きを受けることがそれだけ少なくなる」という事。

今風に言えば、感情から距離を置くアンガーマネジメントや日記を書く時に第一人称を使わない、といった事に関係するように思う。

翻って「夜と霧」の著者が土壇場で思い出した言葉。苦しみを克服するには苦しみを認識する。認識する事で、受動感情から解放され、能動的すなわち理性的に、精神的に自由になれる。

スピノザが言う自由人、精神的に自由な人とは、決して存在することをやめない(自己の有に固執する)人。この気づきがなければ、アウシュビッツから生還できたかも分からない・・まさに命を救った言葉であった。

お助けツール(YouTubeなど)

岩波チャレンジで難読評価MAXの「重力と恩寵」と「啓蒙の弁証法」。この2冊はチャレンジ当初に読んだ事もあり、自分の力だけで通読。

が、今回は最初から専門の記事やYouTubeも参考にしつつ、読み進めた。分からないまま読み進めて分からないまま終わる、という同じ轍を踏みたくなかった。

短い動画から長い動画、YouTubeには色々あるけれど、その中で、本書内容に沿った解説になっていて分かりやすいと思った動画のリンクを貼っておきます。

https://youtube.com/playlist?list=PLmIEdCb2QKW2_ZqsetnW1IJwZwEYZGKMa&si=5CKChcEO3CtM_VAh

動画だけでなく、解説本も色々。下記は本書の中で紹介されているおすすめ解説本の一つ。

今をときめく?「暇と退屈の倫理学」國分功一郎氏の本も出ています。

これからの方はぜひ頑張ってください✨

ちなみにこんな事も考えた。読んだ本の内容を理解できる(ツールの助けを借りる)事と、理解しようと努力する事(自力で頑張る)はどちらが大切か。

そして結局は目的の違いだと思った。ただ知りたい場合は前者、力試しをしたいなら後者。

今回最初から助けを借りて分かった自分の場合、「理解できる」は二の次で、スピノザが考えた「理論を辿る」方が楽しい。だがしかしヒントがあるから理論についていけるだけの様な気もするので、自力→ヒント→自力…と読書することになる・・難読本は1回では制覇できない😤納得。


岩波文庫100冊チャレンジ、残り38冊🌟

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