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【年齢のうた】ザ・コレクターズ その2●加藤ひさしが唄う19歳、それは青春の光

ううー。
今週は予定がひっくり返ることが多くて、困ったものでした。しかしまあ、しょうがない事情で……もう飲み込むしかない。
日々乗り越えなければいけない事象が立ちふさがっております。これもまた人生。

なので今週の話題といえば、前回のドアレバーの件も含めて、今のマンションの部屋のメンテナンスをしてもらうために、家主さんに来てもらったぐらいです。
もっと住みやすくなるといいな。

さてさて、ザ・コレクターズの加藤ひさしさんは22日に誕生日を迎えて、63歳になられました。おめでとうございます。ハッピーバースデーでした。

そのコレクターズの2回目であります。

大都会で夢を追う19歳、「東京虫バグズ」


コレクターズ、そして加藤ひさしが作ってきた作品には、年齢にまつわる歌がいくつかある。そこまで多くはないが、極端に少ないわけでもない。

そんな中で印象深いのは10代についての曲だ。中でも今回紹介する「東京虫バグズ」は、その最たるものである。
この歌は、2007年にリリースしたオリジナルアルバム『東京虫BUGS』のタイトル曲と言っていいだろう。

この歌の主人公「ボク」も、そして「キミ」も19歳だ。自分たちのように東京で生きようとする者たちをイモムシやカマキリ、それにミツバチといった虫たちにたとえて、そこで夢を追いかけながら悪戦苦闘しているであろう若き者たちの像を描いている。古市コータローが弾く、グイグイとドライブするギターもいい感じだ。

そしてこの歌は、ほかならぬ加藤自身の青春を描いているようにも感じる。19歳と言えば、彼は大学1~2年生で、千葉のキャンパスに通っていた頃。この時期に音楽活動を本格化させて、エキセントリック・ジャムというバンドを結成する。これはのちに、前回触れたザ・バイクというバンドへと変わっていった。
加藤自身の19歳は、東京を中心にしたライヴハウス界隈を舞台に、夢を見て、理想を求め、まさに青春をひた走っていた時なのだと思う。

ちなみにこのアルバム『東京虫BUGS』は、ファンの間では傑作と言われるほど評価が高かったりするが、残念なことにそれ以上の認知度は今ひとつ。「世界を止めて」に象徴される渋谷系以後の動きのすっかりあとだったり、好評を博したポッドキャスト番組『池袋交差点24時』が始まる前だったりで、あらゆることの過渡期にあったからなのだろうか。また、この数年前に加藤が心の病になり、バンドの活動ペースがやや滞っていたことも関係しているかもしれない。
そのパニック障害の大変な経験から書かれたのが「パーソナリティーインベントリー」。また、ライヴでも人気の「たよれる男」や「ロックンロールバンド人生」も入っているので、彼らに関心のある方はぜひ光を当て直してほしい一作である。

加藤の人生を狂わせた映画『さらば青春の光』のジミーも、たぶん19歳


ところでこの「東京虫バグズ」の19歳という表現から、すぐに思いついた映画がある。
『さらば青春の光』だ。そう、青春映画の傑作である。

この映画『さらば青春の光』は、ザ・フーのアルバム『四重人格』(1973年)が原案になっている。

このザ・フーのLPで2枚組の大作からストーリーを膨らませて、1979年に映画化されたのが『さらば青春の光』なのだ。そして青春時代の加藤ひさしはこの映画に激しくショックを受けて、自身の人生に大きな影響を与えられたことを公言している。
加藤がこれを観たのは、1979年11月17日の朝、日本公開初日の初回上映。18歳の彼は新宿ピカデリーに足を運んだとのこと。2回続けて見たそうである。

ここで加藤が自分を重ねたのは、もちろん主人公のジミーだ。若さのままに捨て鉢の日々を送り、夜遊びに明け暮れ、何かを手にしたいと思いながら好き勝手に生きていた彼。しかしやがて、恋に破れ、友達たちはちゃんとした仕事に就き、いつまでもバカ騒ぎをしたがる自分と周囲とのズレを感じていく……という話である。

加藤ひさしは、実はこの映画に関しては、日本国内における伝道師と言っていいほどの動きをしてきた。なにせコレクターズの初期の頃から『さらば青春の光』の魅力について熱く語ってきており、90年代には『レコード・コレクターズ』でピーター・バラカンと対談。数年前にはコレクターズのドキュメンタリー映画制作がきっかけとなり、『さらば青春の光』が日本でリバイバル上映されたほどだ。

そして僕はこの映画について、加藤に2回インタビューしている。ここではその言葉をここで紹介すれば、おそらく充分だろう。

まず1回目の取材は2019年、先ほどのリバイバル上映に際してのタイミング。メディアはファンクラブのコレクトロンの会報誌である。この時は、コレクターズのライヴ後のインタビューとなった。
以下は、その時のやり取りの一部である。

(前略)
人ってティーンエイジャーの頃、もう命を捧げるぐらい夢中になったものってあると思うんだよね。たとえばそれが野球だったり暴走族だったり、いろんなところでそういうシーンがあると思うの。ない人もいるかもしれないけどね。で……野球だとしたら、そのままプロ野球選手になって夢を叶えさせないかぎり、どっかでバットやグローブを置かなきゃいけない日が来るでしょ? そのツラさっていうか、その憧れが強ければ強いほど、そん時のむごさというものがあるわけだよ。そこから生きていかなきゃいけない、むごさね。ジミーの場合は、モッズである自分に誇りを持って、ブライトンでロッカーズと戦って、裁判まで出て、罰金払って、英雄気取りだったわけだけど。ほかの仲間にとっては、ささいなことだった。モッズなんて。

●そうですね。そういう苦いストーリーですよね。

そこの温度差の中で、そのモッズの象徴だったGSスクーターに乗ってたエースがベル・ボーイとして働いてたのを見て、絶望する。「自分のヒーローだと思ってたのに、こんなふうに人にこき使われるような人間だったんだ」「なんだ、こいつ……」ってなった時に、そのモッズのシンボルである自分のスクーターを崖から落とすんだよ。陽が赤くなってさ、いよいよ帰るっていうところまで、きっと彼は、ずーっとあのイギリスの海を見つめてたわけだよね。それがオープニングシーンでさ。その、3時間だか4時間だか知らないけど……大人にならなきゃいけない、その3時間4時間は、ほんっとに痛いねぇ……。

●ああ、ジミーのその気持ちを思うと、ということですね。今もってしても、そう感じると。

今観ても、そこがヒリヒリと痛くて! これはモッズのカタログ映画ではなくて、青春にさよならする、訣別する男の独り立ちのツラさを謳った映画なんだよ。

青春に決別する少年の映画……せつない。

続いて、この映画について2回目の加藤インタビューは、昨年、雑誌『昭和40年男』でこの映画の魅力について話してもらった時。次はその発言からの抜粋だ。
いきなり、熱い。

「これは青春が終わる瞬間を切り取った映画なんだよ。こんな青春映画の名作はないよ!」

「主人公のジミーはモッズとして青春を生きてきたのに、自分が愛したものに別れを告げなくちゃならなくなって、友達たちにも『大人になれよ』と言われてしまう。だからモッズにさよならを言うわけ。それを観て、もう恐ろしいほど苦しくなったの…。こんな悲しい話はないよ!」

「あの頃は世の中に『男は25歳になったら独立しなきゃいけない』『完全な大人にならなきゃいけない』という教えが脈々とあった。25歳過ぎてバンドなんかやってて成功してない奴は、クズのクズだったの! だからバンドマンも演劇やってる人もサッカー好きな奴も、みんな25歳を境にやめていったんです」

「あの時代の若者のほとんどは親とうまくいってない。親は親で生きるのに必死だったし、子供は子供で言いたいことがあるわけだよ。俺も大学を出てバンドやってたら、母親に『いつまでもチャラチャラしてないで早く就職しろ』って言われてたしね。この映画は、あの時代のルールの中で観たから刺さったんだと思う」

「青春映画の頂点なんだよ!」


そう、ここでも出ている。前回に続いて、男は25歳になったら独立しないと、という価値観のことだ。
そして映画を観た時の加藤は、もうすぐ19歳になろうとしている18歳の少年だった。

そろそろわかってもらえてると思う。この映画を撮った時、主人公のジミーを演じたフィル・ダニエルズは21歳だったらしい。しかし会社内で配達の職に就いているジミーは、おそらくハイスクールを出ているという設定なのだ。それもどうやら10代とのこと。
となると、18歳か……19歳、なのである。

19歳。それはきっと、加藤ひさしの青春の高ぶりが集約された年齢ではないかと思う。

<ザ・コレクターズ その3>に続く


予定ひっくり返りまくりの中で
勢いだけで作った、何の変哲もない肉じゃが。
それが案外と好評。
玉ねぎ多めなのが実はポイント

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