【実録】僕の躁鬱日記2~それから~

前回Noteした『僕の躁鬱日記』。予想以上に反響が大きく、驚いています。中には「泣いてしまいました」とメッセージ頂く方もいらっしゃって、僕は特に泣かせるために書いたわけではないですが、何かを感じて頂けたなら幸いです。自分をさらけ出した甲斐があったのかな?


2010年。
僕は26歳で過労による躁鬱状態になり、家族にまでSOSを出す羽目に。それから・・・





まず、躁鬱とは「躁=トランス状態」「鬱=ダウン状態」が激しく交互にやってくること。特段、稀な病気だとは思っていません。僕がずっとしてきているような営業とか接客など対人商売の人には特に多いと思います。

お客さんと話すときは多少は声も高く、大きくなり、気持ちもトランス傾向に自らもっていきます。そりゃあ契約したいですから元気ハツラツとした営業マンのほうがいいでしょう。それができない人は対人商売には向きません。
そして逆に、オフの時には多少は「ああ、しゃべりすぎた。疲れた..」とダウナー傾向になりますが、これも普通。

ただ、この2つの"相反するもの"を行き来する『振り子』が壊れた時はえらいことになります。自律神経がおかしくなり、どうにもならなくなる。
体に反応が出て、涙が出たり、震えたり、吐血したり、気絶したり。自分が壊れていくと、それはそれは大変。



前回の”泣きじゃくり事件”があったことで、僕は少しだけ自分のコップの水を排出できた気がしていた。これでいっかと。
そして、良くないとわかっていながらも、僕は通常業務に戻った。あまり自分を過度なトランス状態にもっていかないように注意しながら。でないと、その反動のダウナー状態がまたひどくなる。
まあでも、そんな器用なこと、急にできるようになるわけ、ないわけで。



僕は常に”ふわふわした状態”になり、仕事のヘマが増えた。

いくつかの失敗が続き、やっと上司も気づいてくれたようで(遅い)、とりあえず「業務過多」ということで片づけられ、直属の大嫌いだった上司とは別に、”仕事をしない上司”と仕事をすることが多くなった。

この上司が不思議な人で、社内での評価は超絶イマイチで、出世競争にも完全に乗り遅れたような人。なぜなら仕事をしないから。

でも僕は妙にウマがあった。


「ねぇねぇ、今日のアポ何時に終わる?」と聞かれ、僕が「あんまりかからないと思いますよ」と言うと、『じゃあ17時にアポとって、そのまま飲みに行こうよ!あそこの近くに、行きたい酒場があるんだよね~』と持ちかけるような上司。


ただでさえ業務過多な状態だったのに、そんな無茶な、、、と思いながらも、「ほら、サクサク今日やるべきことだけやっちゃってさ。今日持ってく資料?任せた!責任はとるから!じゃあ、後でね!」と言われた。


最初は「クソが!」と思った。
でも結果、それでよかった。


他の上司は、僕の作った資料をチェックしては、誤字脱字がひとつでもあれば、お前は仕事をしていない、ふざけんな、俺の顔に泥を塗る気か、と僕を詰めてきた。責任はだれがとるんだといつでも責任論を振りかざしてきた。確かに間違ったは僕だけど、僕のいいところを一粒も認めてくれなかった。あんたの顔に泥を塗りたいぐらい嫌いだったし、人としての魅力もなく、信用もしていなかったけど、何も言えなかった。完全に信頼関係は崩壊していた。

幸い、僕はお客さんのことは好きだった。怒られることも多々あったけど、改善して、次に臨みたかった。社内の人に嫌われようがどうでもよかったが、お客さんにだけは嫌われたくなかった。僕はお客さんを愛していた。だから、少しのヘマでも許してくれた。泥臭くも、お客さんとはうまくやっていた。と思う。


お客さんが最悪なことよりも、社内が最悪な方が、大抵タチは悪い。


さて、僕は資料を必死にそろえ、その”仕事しない上司”とアポに行き、無事に終えると、その上司は、そっからが出番!かのようにホクホクとしだし、吉田類が来そうな酒場に明るいうちから飲みにつれていってくれた。いつも。

サボることを教えてくれた。

そして酒が入ると僕をほめてくれた。


『俺は途中でこのプロジェクトに入ったけど、俺よりお前の方がお客さんのこと知ってるんだから、お前がいいと思うことをやれ。』


サボり上手の上司は、自分が仕事がしたくないから、下をしっかりヨイショしてくれる。そして自分はのうのうと飲みに行く。でも、謝る時は一緒に謝りに行ってくれた。

"働かない上司"もいいもんだ。と思ったら、少し、調子がよくなってきたように思えていた。


そんな中、一度調子の悪くなった振り子は、やっぱりそんなすぐには完治していなかった。



冬。

当時付き合っていた彼が、家で鍋でも食べようということになり、その日は珍しく早く帰れそうだったので、仕事が終わってから彼の家に行った。その日の昼間の調子は、あまり良くなかったけれど。

僕が躁鬱状態だというのは彼はなんとなく知っていたし、僕が仮に「今日は生理のように調子が悪い」と言っても、笑って接してくれた。


僕は疲れ果てて何も手伝わないうちに、なんのへんてつもない鶏鍋が出てきた。

その日は、感情のスイッチを切るような一日だったので、彼と会っても、鶏鍋が出てきても無表情だった。つまらない思いをさせたと思う。


蓋を開け、湯気が立ち込める。彼が取り分けてくれる。ポン酢までかけてくれたようの思う。彼がいただきますというのに、僕は小声でボソボソと何かを発した程度で、申し訳ないがあまり食欲がなく箸が進まなかったけど、食べな、と言われたので食べた。


その瞬間、またコップの水が零れた。僕はボロボロと泣き出した。

口に何かを含むと、トコロテン方式のように、僕から何かが出てきた。


彼は驚いたようで口をあんぐり開けていたけど、僕がゴメンと言うと、数秒間、僕を観察していた。


僕はティッシュで涙をぬぐい、仕切り直しでまた白菜や鶏肉を口に入れた。そしたらやっぱり涙が出てきた。涙や鼻水や唾液で、味覚はぐちゃぐちゃになった。


ああ、おいしい、と思えば思うほど、感情のスイッチがどんどんオンになってきて、また涙が溢れてきた。

もういてもたってもいられなくなった。


僕は彼にくるまれるように支えられ、食卓からソファに移された。俯きながら、彼の傍で僕は泣き続けた。彼は何も言わずにいてくれたのがまた嬉しくて、切なくて、悔しくて、いろんな感情が溢れ出てきて止まらなくなった。クソ!クソ!クソ!出来損ないの自分!


感情をオンになんかしたくないのに。オフのままでいれたらどんなに楽か。でも、それは生きていないことと同じか?


考えれば考えるほど、頭にきゅぅと血が上り、その血管の膨張で神経がプツンプツンと切れていくように、また記憶が飛んだ。

しばらくして正気を取り戻した時にも、まだ横に彼がいた。心許ない僕の身体が倒れ込まないように、静かに支えてくれていた。


やっと嗚咽以外の言葉を取り戻し、ああ、ごめんごめん、とか言った。だめだね、食べると、出ちゃうね、ハハ、とかなんとか、その場を誤魔化そうとして何かを言った。


うーん。と数秒考えたのち、彼は『騙されたと思って病院に行かない?』と言ってきた。僕は一瞬、ゾッとした。

僕は精神科医とかカウンセラーみたいな人達は信じていなかった。ずっと小馬鹿にしていた。拒否していた。友人の何人かも『産業医送り』になり、診断書を受け取っていた。

営業マンにとってそれは『懲戒』のようなもので『負けのレッテル』のようなものだった。第一、彼らの仕事なんて『眠れないですか→ハイ。死にたいですか→ハイ。』などと質疑応答し、診断書を出すまでが仕事で、彼らに僕の壊れた振り子や割れたコップを根本から直すことなんて、出来っこないと思っていた。


彼はそれまで、僕に病院に行けなんてことは言わなかったけど、このままでは本当に僕が壊れてしまうと思ったのだろう。そんな姿を見たくないと思うのは、当然のことだったのに、僕はなんとなく拒んでいた。

『俺もついていくから。騙されたと思って。もし医者が合わなかったら、行くのやめてもいいから。』

彼の顔が悲しそうだった。これ以上僕が意固地になっても彼を悲しませるだけなのか?僕はどうしていいかわからなくなり、そのまま疲れて寝入ってしまった。


医者に行くことを決めた。



2軒ほど医者をまわった。彼らの手口を僕は"産業医送り"になった友人から聞いていたし、まずは気休めの睡眠導入剤を処方してくれ、それで様子をみてみましょう。それでもダメなら・・・という”初診二段階方式”でやってきた。

僕は眠れてはいたし、朝も普通だったが、夜になると猛烈に壊れるタイプだった。会社を出ると解放されたことで涙が出る体質だった。我慢していたものが一気に噴き出る感じ。その時は障害者用トイレに駆け込み、ハンカチで口を塞ぎ、出すものを出してから帰宅した。




振り子は小さく振れるから美しい。

大きく振れ過ぎるとその遠心力に耐えられなくなり、その振り子の針はちぎれ、どこかへ飛んで行ってしまう。トランスとダウナーの振り幅が大きすぎた。僕の振り子はそんな状態だった。

振り子を止めようともした。それは感情をゼロに押し殺す行為。振り子が止まれば、時間も止まる。それは死を意味する。生きていても死んでいるような状態。結果、自分の生きている価値を否定する。



そんな一進一退の状態の中で、僕だけでなくこの世界全体を変える大きな事件が起きた。



2011.3.11.


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