不登校変化グラフ

不登校を考える  なぜ九十年代に不登校が急増したのか

 『不登校を考える  なぜ九十年代に不登校が急増したのか』という電子書籍を書きました。
 長年の学校臨床の経験をまとめるという主旨で書こうとした本ですが、不登校はなぜ増えたのかという問題を考えているうちに当初の構想とは全く違うものになっていきました。

 下のリンクから全文読めます。
※ブクログ終了により以下のリンクからは読めなくなりました。noteからお読みください。目次からリンクへ飛べます。

 ここでは「はじめに」と目次(リンクで各ページに飛べます)、結論を載せておきます。

はじめに


「不登校の問題が深刻だ」
「不登校が増えている」
 教育の世界ではこういった声がよく聞かれます。これらの声は確かに事実です。平成二十七年の統計では小中学校合わせて全国に十二万人を越える不登校児童生徒がいるという結果が出ています。不登校の多い中学校で見ると中学生の約3%が不登校であることになります。
 不登校は昔から多かったわけではありません。実は不登校はそれまでは一万人程度だったのが、九十年代に急増して十万人を越えているのです。
 確かにこれは深刻な問題のように見えます。
 しかし、ちょっと立ち止まって考えてみたいことがたくさんあります。

 そもそも不登校っていったいなんでしょうか?
 どうして不登校は増えたのでしょうか? 
 不登校をどう考えたらいいでしょうか?
 不登校になってしまったらどうしたらいいのでしょうか?

 
 現在四十歳の私と同世代にはピンと来ないかもしれませんが、九十五年から中学校を中心にスクールカウンセラーという心の専門家が学校の中に入っています。
 私は十年以上に渡って公立の学校でスクールカウンセラーとして働き、多くの不登校の生徒や保護者の方々と関わってきました。今までカウンセラー、相談員として勤務した学校は小中高合わせると十校を越えます。不登校がいない学校から一クラス分くらいの人数の不登校がいる学校まで本当に様々でした。
 そういった中で普通なら「不登校になった生徒はどうしたら学校に行けるようになるのだろう?」とか「不登校を予防する為にはどうしたらいいのだろう?」と考えるところですが、変わり者の私はそれよりも「不登校とは何だろう?」「不登校をどう考えたらいいのだろう?」と考えるようになりました。あ、もちろん不登校になった人達がどうやったらいい方向へいけるだろうかとということも考えてましたよ。不登校になった人々の改善の支援に尽力しながら、そんなことをずっと考えていたわけです。
 ここで私が「不登校の子ども達を学校に戻す」といった言葉でなく「いい方向へ」という微妙な言葉を使っているのは色々と理由があります。それは中を読んでいただければ分かるはずです。
 もう一点。この本は今不登校にある本人達へ向けても書かれています。なので、子どもや児童という言葉をなるべく使わず、人やあなたなどの言葉を使うよう心がけています。
 話がそれました。こんなこと考えてることからも分かるように、私は心理の仕事をしている人間としてはかなり中心から離れた所にいる人間です。一応、心理の大学院は修了してますが、業界の主流とは離れた場所からずっと教育の世界を見てきました。
 さらにひょんなことから貧困問題等にも少しだけクビを突っ込むことになりました。こういった福祉関係の業界の人達は現場で問題の改善に取り組むと共に、そこで得た知見を元に、社会はこう変わるべきだと提言していました。これはカルチャーショックでした。教育や心理の業界にはあまりそういう人はいなかったのです。
 そんな奇妙な経歴を持つ私だからこそ見えるものがあるのではないかと思い、不登校に対する考察を重ねたのがこの本です。

 一章では、何気なく不登校といってるけれどそもそも不登校とはなんだろうか、という不登校の定義を考えていきます。
 二章では、不登校が急増した九十年代に焦点を当てて、不登校がなぜ増えたのかを追っていきます。サブタイトルにあるようにこの章がこの本の中心になっています。
 三章では、それをふまえて不登校をどう受け止め社会や学校はどう変わるべきかについて書いていきます。
 最後の四章は、実践編です。不登校になったらどうしていくのがいいか、親御さん、本人に分けて書いています。今、不登校にいる方はこの第四章から読んで、なぜ私がそんなアドバイスをするのか前の章を読んでいってもいいでしょう。
 最後に結論の章もありますので、せっかちな方はそこからお読みいただいてもいいでしょう。

 では、不登校を巡る考察におつきあいください。


目次
 

1 不登校ってそもそも何? 不登校の定義論

不登校をウィキペディアで見てみると
不登校と普通の欠席の違い
改めて不登校の項目を見てみる


年間三十日欠席で不登校?
昔の不登校は年間三十日じゃなかった
不登校の定義と増加の関係


当事者から見る不登校の定義
不登校の定義はどうあるべきか


2 なぜ九十年代に不登校が激増したのか? 不登校の社会論

九十年以前と以後の学校の変化 
九十年代に中学校に何が起きたのか?


九十年代に社会に何が起きたのか?
九十年代に急増したもう一つのもの
私が将来不安を不登校の原因と考える理由


将来ちゃんとやっていけないかもしれない不安とは何か
奨学金問題から見える進学プレッシャー
就活地獄に見るバブル崩壊後の不安の正体


不登校とトランプ大統領誕生の意外な関係?
九十年代に社会と学校に起きた変化を重ねてみると
不登校の問題化と心化
なぜ自殺は減少したのに不登校の減少は鈍いのか


3 不登校に対してどうあるべきか 社会と学校のこれから論 

社会はどう変わるべきか 不登校ゼロから不登校不安ゼロへ
 生きるベースと正規雇用を切り離す
 働かないと病院に行けない国を変える
 未来に必要な出費を賄う


 現金の支給について
 財源や労働意欲などの問題について
 不登校不安ゼロ社会で雇用はどうなる
 普遍主義こそが不登校対策


学校はどう変わるべきか もう一つの不登校ゼロ
 成績のつけ方を変える


 究極の不登校のなくし方 出席の定義を改める
 スクールカウンセラー改革案 学校と○○を合体させる

九十年代に私の社会改革案を実際にやった国があった!


4 今不登校にあるみなさんへ 不登校の対策論
   (親編)

最初は無理にでも行かせた方がいい?
不登校になってまず目指すものは


生活リズムや勉強に手をつけるのは大変
何かをやっていこう


学校との距離を保とう
学校の先生と何をする?
どこかとつながろう
 スクールカウンセラー
 教育相談センター(教育相談室)
 適応指導教室・フリースクール


病院にはいかなきゃダメ?
発達障害についてはどうする?
親子で次の進路の見通しを話し合おう


子どもとのコミュニケーションについて
優良不登校生徒保護者とは
不登校を考える上での注意点(サボりかどうかについて)


成績はどうなる?
進路の選択について
家族の問題に向き合うべき?
学校へ行かないは苦しい
自分の時間を持ちましょう


5 今不登校にあるみなさんへ 不登校の対策論
  (子ども編)

まず落ち着こう
何かを変えていこう
ゲームについて
ネットやテレビについて


さて、では何をしよう?
体を鍛える?
読書について
勉強について


外とのつながりについて
改めて学校について
進路について
学校以外の通う場所について


学校復帰について
調子が悪い部分について


6 結論 不登校はなぜ増えたのか

  後書き


 結論 不登校はなぜ増えたのか

 不登校とは何か。それを考える上で欠かせないのは、なぜ九十年代後半に不登校が急増したかです。いじめや校内暴力、受験競争、ゆとり教育といった学校特有の問題や変化は九十年代に起きたわけではありません。九十一年に不登校の定義が年間五十日欠席から年間三十日欠席へと変わりましたが、不登校の増加は不登校の枠を広げたせいだけではありません。むしろ定義変更後である九十年代後半に不登校は急増しています。
 実は不登校が急増した九十年代後半は自殺者が急増した時でもありました。自殺者の急増がそうであったように、不登校の急増には不景気による社会不安が影響していると考えられます。九十年代の不景気そのものが悪いというより、雇用などそれまでの社会システムが少しずつ変化していく中で九十年代のバブル崩壊が決定打となって今も社会不安が続いていると考えられます。
 将来ちゃんといけるかが不透明な社会では単に不安が強くなるというだけでなく、学校を卒業することの重要性が増します。それは進学や就職活動、ひいては登校や成績のプレッシャーを上げることでもあります。現在の奨学金問題や就職活動を巡る問題からもそういったものは見ることができます。
 不登校の大きな原因は社会や将来に対する不安であるとすれば、不登校への対策は心理的なケアだけでは不十分です。しかし、九十年代の学校では、不登校定義を広げて深刻さを意識させる不登校の問題化や、スクールカウンセラーの配置等で心の問題として対応しようとする不登校の心化といった対応しかなされませんでした。
 不登校への対策としては、将来に渡って生きていく不安を軽減することが必要となります。不登校や不適応とそうでない線引きをマイルドにするのです。
 社会政策としては、社会保障を一定時間以上働いている人にのみ優遇されているものを全ての人に行き渡らせるように変化すべきです。子育て等の支援を手厚くし、将来への不安を少しでも軽くすることも有効となるでしょう。
 学校の政策も同様の変化が必要です。中学校の現在の成績のつけ方ではある段階を越えると成績がつかなくなり進路等の選択肢が狭まります。どんなに少なくても成績がつくようにし、出席についても今以上に多様な出席を認めることで不登校の不利を軽減する方向へ成績や出席のシステムを変えていくことも有効となるはずです。学校復帰という選択肢も重要ですが、それと同時に学校に行かなくても勉強ができる学習権を保障し、学校に通えなくてもあまり不利になり過ぎないようにする必要があります。
 一見矛盾するように思えるかもしれませんが、個人や家族の心情としても社会システムとしても、不登校でも大丈夫と思えることが不登校問題の改善に何より大事なのです。

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