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#4.1 怪談×ミステリ×ドキュメンタリー『火のないところに煙は…』


『ー怪談を集めた短編集にすれば、今よりいろんな人の目に触れるんじゃない?』
私は目をしばたたかせる。
なるほど、たしかにそうだ。怪談と銘打って出せば、さらに多くの人にー
 しかも怪談が好きな人に読んでもらえる可能性が高くなるだろう。怪談好きであれば、何か似たような話を知っているかも知れない。
 だが、そう考えた途端、私は自分の頭の中に何のアイデアもないことに気づいた。
本にできるくらいの量といっても、一体何を書けばいいのか。

『聞けばいいでしょう』

『怪談』

[1]不思議な話。あやしい話。気味が悪く、恐ろしい話。特に、化け物、幽霊などの話。
[2]真相がさだかでなく、納得のいかない出来事。

『火のないところに煙は』

何かがつっかえるような、もどかしくも興味をそそられるタイトルの本書を書いたのは
芦沢央(あしざわ・よう)。
出版社勤務後、『罪の余白』でデビュー。第3回野生時代フロンティア文学賞を受賞。
その後も、『許されようとは思いません』『汚れた手でそこを拭かない』などのミステリを刊行。

『怪談』と聞くと、途端に背筋が寒くなる。
そんな季節だ。お盆の時期が過ぎ、火が落ちるのも早くなり肌寒くなってきたころに本書を読んだ。
もともと僕は、オカルト話を信じてはいないし、他人の又聞き話など眉唾中の眉唾だと思っている。
いや、正確には『思ってい“た”』と過去形で表現するのがいいだろう。

僕の話の前に、きちんと本書のあらすじを紹介しておこう。
本書は現代風怪談をモチーフにした全五話+一話の全六編で構成されている。
全編を通してフェイク・ドキュメンタリーというジャンルを取っており、実在の固有名詞を挙げて内容にリアリティを持たせている。
著者が短編小説の依頼を受けて書き上げたところ、それを読んだ読者から次の不可思議な話が寄せられて…という連作短編。

各話のあらすじ

第一話『染み』
大学時代の友人から紹介を受けて聞いた話は、実に不思議な話だった。
彼女はある占い師に出会って以降、不思議な出来事が続いていた。
代理店で広告物の担当をしていた彼女は、ある日を境に担当するポスターに赤黒い染みを発見するようになった。
その『染み』をよく見ると…

第二話『お祓いを頼む女』
あるオカルト記事を書いた女性の元に、突然問い合わせの電話が鳴る。
その電話の内容は、
「自分は祟られていておかしなことばかり起こる。誰かお祓いをしてくれる人を教えて欲しい。」
という身勝手な内容のものだった。
素性もわからない人をマトモに相手をしていられなかったが…だんだんエスカレートしていき…

第三話『妄言』
結婚後、すぐに一軒家を求めて物件を探していた男性。
内見時に出会った隣人はとても親切な女性だった。
言動に少し違和感があったが、妻とも仲良くやっており順風満帆の新居生活だった。
が、ある日妻から全く心当たりのない浮気の疑いを向けられる。
「隣の寿子さんが見たって言っていたの…」

第四話『助けてって言ったのに』
結婚して夫の実家に姑と一緒に暮らすこととなった。
姑とは実の母よりも気が合い、新生活はうまくいっているように思えた。
しかし、そんな新生活の中でただ一つおかしな現象が起こる。
定期的に、悪夢を見るのだ。火事の中から命からがら逃げ出す、同じ夢を。
段々と眠れなくなり、そのことを姑に話すと、
『あぁ、そんな…あれはもう終わったものだと思っていたのに』
とつぶやく…

第五話『誰かの怪異』
大学生活のため、アパートを借りた。しかしその部屋では、テレビがついたり消えたり、排水溝に髪の毛が詰まっていたり不思議な現象が起こる。
友人を伝って、霊感のある友人に除霊を依頼した。
盛り塩で霊を封印するのだという。
「絶対に盛り塩を崩すなよ。崩れると、他の霊まで呼び込む可能性がある」
しばらくすると、再度不思議な現象が起こる。
一切触っていない盛り塩を見てみると…

最終話『禁忌』
ある程度、怪談話がまとまってきたところで私は単行本にまとめる作業に入った。
本書の書評は、怪談話の連載に携わってくれた榊さんに頼むことにした。
提出された書評の原稿は、とてもよく褒めてくれたが突然榊さんから連絡が入った。
『やっぱりあの原稿を差し替えたい』
それから語る榊さんの話は、今まで連載してきた怪談にまつわるものだった…

以上が、本書のあらすじである。
どれも一つ一つがリアリティがあり、実際にあったかのような印象を受ける。
(そもそも怪談自体が、また聞きの性質を持つが故だろう)
本書の特徴は、ミステリ作家である著者が不可思議なオカルト現象について一定の“解”を持ち出すところにあるだろう。
もちろん全て超常現象の話であるが、そこをロジカルに突き詰めて行くと超常現象なりの理屈がある。
つまり、全ての不可解な現象は何かしらの原因があって引き起こされているのである。
「火のないところに煙は…」
立つかもしれないし、立たないかもしれない。
そんな現実と非現実の間に立たせてくれるのが本作である。
ホラーが多少苦手だとしても、本作にはグロテスク表現やゴア表現は含まれていないのでそこの心配は不要だ。
ミステリ好きにも楽しめる本作、ぜひ手に取っては如何だろうか。

少し長くなったので、僕の話は次の記事に…。。。

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