波の音
「海が見たいな」
そう言われた時の僕は十代だった
そう言ったのはひとつ下の女の子で
僕らはバンドのメンバーだった
波打ち際までの砂浜を
高いヒールで歩くのは辛そうで
おんぶしようかと言うと
彼女は僕の背中に乗った
真っ暗な海の前で彼女は動かず
海に何かを尋ねて答を待っていた
彼女は答を
貰えなかったようだったけど
尋ねたことが大切だったと気付くには
僕はまだ若すぎて何も言えなかった
言えてたとしても
絶え間ない波の音にかき消されて
彼女には届かなかったと思う
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