(詩) 「庭園 青い泉の傍らで」





大地は降り積もる灰に覆われ
核を失くした作物が畸型の芽を吹く
時を経ずして腐爛し始め
焼けただれた土塊つちくれ の上に崩れ落ちる

その庭園は
地上のどの地図にも載っていない
誰の手によって守られたのだろう
知識と配慮と慎重さをもって
それはまた
偉大な存在の意思であったか

園内に降り注ぐのは水晶の陽光
一面の畑が青く染まる
透き通る細い指には強度があり
如何なる地上の闇も
それに触れられない
熟練の小さな手に摘み取られた
ひとつひとつの果実は
園丁の彼女の掌で宝玉に変わる

開け放された扉の奥処からは
たえることなく
季節の豊饒な言葉が谺する
稀なる緑の実在と
そばに溢れる青い泉に憩う
時を忘れた鳥達の顔

喪われた記憶の樹の元で
青い花々の恋が交わされ
湖は甘美な眠りに包まれ
丘を越えて消えていった
遠い日の馬車の影が
今も木立に揺らめいている

小屋に置かれた砂時計は
彼女のまなざしの向こうで
やがて羽のように開かれる
夜明けを待ち続けている

ひとつの声のように
波紋のように 微かに
重なり合ってゆく
奏でられるかなしみの
愛の調べに焦がれて

触れられぬ青さのために
私は旅客のままに
その扉の傍らに佇んでいる
黄昏を纏った鳥とともに
鳥となって