どきん

あるもの書きのプライベート用アカウントです。

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最近の記事

彼女とさよならをする

いつか彼女が結婚し、子どもが生まれたら、わたしはその子を孫のように猫かわいがりするんだろうと思っていた。幸せになってほしい、といつも思っている。 二人で旅行する前日の夜、彼女が幼いころ、母親に捨てられたことを聞いた。以前から彼女が話すのは「ばあちゃん」と「じいちゃん」のことで、両親には触れないので何かあるのだろうとは思っていたが、幼稚園に送った母親が、そのまま迎えに来なかった、という話は壮絶だった。 その話は恋人にしたのか、と訊ねると、はい、前に聞かれたときに、と答えた。

    • 「女性は膣で感じない」という話題について

      ※かなり生々しい話をしているので、R18です。ご注意ください。 Twitter(X)で、「女性は膣に感覚がない。セックスで挿入されても圧迫感はあるけど気持ちよくはない」という話題を目にした。 SNSでよくある話題の展開として、これに男性が「膣で感じないなんて不感症ではないのか」と意見し、別の女性が「タンポンの商品説明でも、膣の中には感覚がないと書かれている」と反論、「じゃあなぜ挿入するタイプの女性のアダルトグッズがあるのか」「好きな人とのセックスであれば気分が高まるので感

      • 「日本人女性が海外でモテる」の真実

        「日本人女性は海外でモテる」という言葉を聞く。20代まではなるほどそんなもんかと思っていたが、実際に自分がアメリカで暮らしてみて、これは少し様子が違うなと思った。 ロサンゼルスに住んでいたころ、日本人女性で、かつて銀座のクラブ嬢をやっていたお姉さんとシェアハウスをしていて、あるときお酒を飲みながら、「アメリカに来てから、非モテ男子にやたら言い寄られる」という話をされた。 わたしも日本にいた20代前半のころ、いろいろな男性とお付き合いした経験があったので、彼女の言っているこ

        • なんでみんな結婚するんだろう、という30代女性の疑問

          35歳女性、結婚していない。離婚経験もない。手に職があり、年収は800〜1000万円。20代は遊ぶに遊んだ。そのころほどではないけれど、いまでもときどき恋愛のようなことはする。 18くらいから、結婚願望がない。子どもが欲しい、と思ったことはあるし、この人と結婚するのかも、と思える人と付き合っていたこともある。からっきし興味がないわけではない。 でも、優先順位が低かった。「X歳までに子供を産むために、Y歳までに結婚して、そのためにZ歳までに彼氏を作って」みたいな計算が苦手だ

        彼女とさよならをする

          男の子に生まれたかった、なんてことは。

          男の子に生まれたかった、 というとわたしが女という性に散々悩まされてきたかのようだが、実際のところそうでもなく、わたしはほとんどのことで男の子に負けずに生きてきてしまった。勉強は男の子よりずっとできたし、口げんかも男の子に負けたためしがないし、運動ははなから諦めていてどうでもよいし、職場でのハラスメントはこざかしく味方をつけて蹴散らしたし、スナックに来ていた男の人たちにだってばかにされることはほとんどなく畏れ憧れられていたし(そうでない人は来ないのだし、来ない人は自分の世界

          男の子に生まれたかった、なんてことは。

          この海がつなぐこちらと向こう岸

          しまった、距離感の計算を間違えた、と思った。会話をしながら。たまに、やらかす。バーで働いていたころ、熱心に口説いてくれたお客さんから、君はあまりにもあけすけにプライベートのことを話すから、そんなことを言ってくれるのは僕だけなのではないかと勘違いをしてしまう、と指摘されたことがある。思い当たるふしはいくつかあって、ひとつは、わたしが家族と会話をしないこと。もうひとつは、長く特定のパートナーをつくらずにいたこと。要は、本来プライベートでセンシティブな話をシェアすべき「クローズドな

          この海がつなぐこちらと向こう岸

          赤だの白だの、愛だの恋だの。

          いま住んでいる家を出なければならなくなり、しかし一カ月の家賃が40〜50万円とかかるこの街でラッキーなことにリーズナブルかつ快適な部屋に住めていただけのわたしは、もはや誰かの家に転がり込むしかないのでは、と、不純な理由でボーイフレンドを探しはじめ、その中で某巨大テック企業の男性ふたりと、それぞれデートした。 片方はワインが好きな人。待ち合わせのカフェにたどり着いたら、髪をソフトモヒカンに整えて、明度の違うグレーで統一したファッションに身を包んだスタイルのよい男性が、立ち上が

          赤だの白だの、愛だの恋だの。

          きいろい女の子だから

          特に親しいわけでもない男性、デーティング・アプリで少しだけやりとりをして、連絡をもらったまま返せていなかったひとに、久しぶりに連絡をしたら、いまの社会にパニックになって、君にビザをくれるご主人さまを必死で探しているのかい? とアテツケのように言われて肝が冷えた。わたしはわたし自身の力で獲得したビザを持っているのに、その発言はまとはずれも甚だしく、むしろ向こうの、アジア人の女の子に狙いをかけているのはそうした弱みにつけこめると思っているから、という姿勢が透けて見えた。以前やりと

          きいろい女の子だから

          「汚い」

           湯と汗と石鹸と化粧道具ほか甘ったるいにおいを湛えたぬるい水蒸気の立ちこめるなかセーラー服胸元の留め金をぽつんぽつん外す。この服から抜け出すときはいつも壺をぬるぬる這う蛸の気持ちになった。制服は硬くて痛いほど肘を曲げねばならず乗り越えるには蛸になりきる気概が必要なのだ。イクコが体をあらぬ方向へぎくしゃく曲げているところへ小麦色の肌に白いシミーズを乗っけただけのサユリが尖った鼻を近づけ耳打ちする──なぁクミの乳首見た? イクコがぎょっとし顔を上げると眼前にサユリの嗜虐的な薄ら笑

          「汚い」

          「焼く」

           女の子がベランダの柵に肘をかけて見おろすと、その人はいつも決まった場所で、同じ方向を見て立ち尽くしているのだった。太陽のまぶしい日はひさしのついた帽子をかぶり、雨の降る日は紺色の傘をさして、吐く息の白く染まる日はコートの襟で顔の下半分を覆い、風の強い日は目をぎゅっと細めて、同じ場所に立ち尽くしているのだった。女の子がその人は何かを待ってそこに立っているらしいことに気づいたのは、ある晴れた暖かい日、灰色の小鳥が立ち木と誤ってその人の肩にとまってしまったときのこと。女の子はこれ

          「焼く」