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舞台 「キルミーアゲイン'21」 観劇レビュー 2021/10/02

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【写真引用元】
劇団鹿殺しTwitterアカウント
https://twitter.com/shika564/status/1418511215412670465/


公演タイトル:「キルミーアゲイン'21」
劇場:紀伊國屋ホール
劇団:劇団鹿殺し
作:丸尾丸一郎
演出:菜月チョビ
音楽:タテタカコ
出演:丸尾丸一郎、菜月チョビ、真田佑馬、梅津瑞樹、谷山知宏、小林けんいち、鷺沼恵美子、浅野康之、メガマスミ、長瀬絹也、内藤ぶり、前川ゆう、藤綾近、今村花、若月海里、松永治樹、アイザワアイ、松本彩音、田中優真、古澤芽衣、阿部葵、笠井唯斗、ばんこく、高橋戦車
公演期間:9/30〜10/10(東京)、10/15〜10/17(大阪)
上演時間:約130分
作品キーワード:音楽劇、ダンス、生演奏、アングラ劇
個人満足度:★★★★★★★☆☆☆


丸尾丸一郎さんが主宰する劇団鹿殺しの活動20周年記念公演ということで観劇。
劇団鹿殺しの作品は、2019年3月に上演された「山犬」、2019年11月に上演された「傷だらけのカバディ」に続き3度目。
今回観劇した「キルミーアゲイン'21」は、2016年初演の活動15周年記念公演の再演。

物語は、人魚伝説が残る村を舞台にした話。
そこに東京で演劇活動をしていた薮中健(真田佑馬)が地元である村に一人戻ってくるシーンから始まる。
ダム建設によって水没する計画になっている村を救うべく、地元民たちを結集させて演劇を上演することになる。

とにかく、吹奏楽の生演奏あり、歌あり、ダンスあり、コントあり、そして最後にはほろりと感動するポイントもありと、非常にてんこ盛りで贅沢な作品だった。
吹奏楽の生演奏なんていつ以来聞いただろうという久しぶりな感覚で、劇中にも登場するように学生時代を良い意味で思い起こされて地元に戻りたくなってくる。
あの懐かしさ、そして皆が将来に思いを馳せて元気よく輝いていた学生時代の頃が脳裏をよぎって心地よかった。

またコメディのシーンは本当に声を上げて笑ってしまうくらい面白かった、キャラクターの扱い方、台詞、道具の扱い方が非常に面白くて上手かった。
そして改めて菜月チョビさんの歌声に魅了された、前回劇団鹿殺しの舞台を観劇した時も思ったが、改めて彼女の歌声には凄く特別なものを感じて、年齢的にはおばさんなんだけど凄く愛嬌があって歌い方も独特なオーラがある辺りが素敵だった。

小劇場演劇からここまでエンターテイメント要素の強い劇団として大きくなれるものなんだと、若手劇団に夢を与えてくれる存在だと思う。
非常におすすめしたい。

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【写真引用元】
ステージナタリー
https://natalie.mu/stage/gallery/news/447582/1674402


【鑑賞動機】

久しぶりに丸尾丸一郎さんの演出作品が観たいと思っていた矢先に、劇団の活動20周年記念公演ということだったので観劇することにした。
劇団鹿殺しの作品は、前回観劇した「傷だらけのカバディ」がダンスあり、歌ありで非常にワクワクさせられるエンタメ要素の強い内容だったので、今回もそのような要素を期待して観劇した。


【ストーリー・内容】(※ネタバレあり)

とある田舎の山間の渓流にほど近い村「たにし村」に、東京から一人の男がやってくる。彼の名前は薮中健(真田佑馬)といって、東京で劇団「村さ来」を旗揚げして演劇活動をしていたが、劇団が解散となって地元「たにし村」に戻ってきた。実に17年ぶりの故郷である。
そこへ、イノシシを担いだ男と遭遇する。彼の名前は河本大(丸尾丸一郎)といって、都会人の薮中とは対照的に臭くてむさ苦しい格好をしている。しかし薮中と河本は同級生であり、二人はすぐ打ち解けあって昔話を始める。そこで薮中は、自分が都内で演劇活動をしていたものの解散して地元に戻ってきたことを伝える。
そこへ、市川たにし(谷山知宏)と市川タガメ(メガマスミ)がやってくる。彼らは歌舞伎役者のような格好をして登場し、この村が今ダム建設によって水没されそうになっていることを伝える。また一方で、この村に伝わる人魚伝説を語る。ある男が川で釣りをしていると人魚が現れた。人魚は男とその村人たちと暮らしたが、人魚はこの後この村が大雨による洪水によって襲われることを予言する。その予言どおり村は大雨による洪水によって多くの人が犠牲になった、人魚を釣った男は洪水に飲まれそうになったが、人魚によって命は救われた。しかし洪水の後、人魚は泡となって消えてしまったと。
薮中は、故郷である「たにし村」がダム建設によって水没させられてしまうと聞いて、それをなんとか阻止しようと行動を起こそうとする。自分が都内で演劇活動をやっていたということもあり、村人たちを集めて公民館で芝居をして反対しようじゃないかと。
しかし、そこへ大蔵聡(小林けんいち)というヤクザのような格好をした不動産屋がやってくる。この村のダム建設はもう決まったことであり、今更反対活動なんてしても遅いと。それに、そんな芝居のために公民館など貸さないと拒絶する。
薮中は言うことを聞かず、河本たちと共に早速村人に募集をかけて芝居をやりたい人たちを集めにかかる。

17年前の薮中たちが学生だった時代に戻る。及川やまめ(菜月チョビ)の歌と共に、吹奏楽部の部員たちが演奏を始める。
生演奏とやまめによる歌のパフォーマンスが終わると、吹奏楽部の部員たちは仕切に将来の夢について色々と語りだす。一方、やまめは吹奏楽を演奏出来る訳でもなく、学校の生徒でもないのに吹奏楽部員と混ざって活動をしていた。どうやら彼女は、川で溺れていた所を吹奏楽部員たちに助けてもらってから、ずっと彼らについて回るようになっていた。

薮中と河本たちは、村人たちに一緒にダム建設反対のために芝居をしてくれる仲間を募集し複数人集まってきた。そこには、及川やまめの姿もあった。
彼らは一人ずつパフォーマンスをしてもらって審査するが、どの応募者も個性豊かだった。消防士がいたり、先生がいたり。やまめは私の出番は?と言い続けているがどうやら無視されている様子である。
そこへ、革ジャンを着た若いイケメンの兄ちゃんが乗り込んでくる。彼の名前は山根亮太(梅津瑞樹)、彼は薮中の学生時代の後輩で東京で共に劇団「村さ来」として活動していた。しかし、薮中が途中で劇団を抜けて故郷へ戻ってしまったことを知り、呼び戻すべく急いでこの「たにし村」に戻ってきたという訳だった。つまり薮中は嘘をついていて、劇団「村さ来」は解散した訳ではなく今も存在し、彼は劇団を逃げ出して
故郷へやってきたことになる。
薮中は、今はダム建設を反対するための芝居のオーディション中なのだと伝え、そのオーディションに山根も参戦することになる。山根は、イケメンながら身だしがだらしない上に演技をする際に色々とツッコミがあって残念な様子だったが、薮中は山根を含め全員オーディション合格として芝居づくりに取り掛かることになる。大蔵は、こんなド素人を集めたメンバーで芝居がまともに打てるのかと首を傾げる。

17年前の学校では、吹奏楽部たちの他に演劇をやりたい薮中や河本、そして大蔵がいた。彼らは劇団「村さ来」を立ち上げる。そこに後輩の山根も加入することになる。

現在の世界に戻って、公民館で「人魚」という題材で芝居を上演することになる。「たにし村」には人魚伝説が残っているので、それに因んでである。薮中と河本は釣り師を演じ、川で釣りをしていた。そこへ魚が釣れたと思って竿を上げると、そこには山根が演じる人魚が引っかかっていた。そこへ山賊たちがやってきて、人魚を襲ってこようとし応戦になる。最後は劇団「村さ来」お得意のはらわたが飛び出る演出によって芝居は終わる。
しかし、それを観劇していた大蔵にはこっぴどくダメ出しされる。まず鴉に役者を二人も使っていたり、人魚よりも山賊の方が背が小さく華奢だったりとツッコミ所が多いと。
その後、村内の新聞でも舞台「人魚」は批評家によって酷評されることになってしまった。

彼らが次に挑んだ芝居は「龍宮城」であった。そもそもダム建設反対とは関係なくなってしまう上、暗転中に騒ぎ始めたりとやはりツッコミ所は満載だったが、魚介類のコスプレをした役者たちと、人魚の格好をした山根、そして浦島太郎役の薮中と河本が揃って、歌ってパフォーマンスをして盛り上がったので、「人魚」の時よりは団結感が見られた。
その団結感に魅せられてか、ずっと芝居に否定的だった大蔵も徐々に乗り気になっていった。

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【写真引用元】
ステージナタリー
https://natalie.mu/stage/gallery/news/447582/1674395


一方17年前の学校では、やはりダム建設計画があって自分たちの代が卒業する前に学校が取り壊されてしまうのではないかという危惧がされていた。吹奏楽部たちはそれを阻止するべく、卒業するまで演奏を続けていたが、近所の老人や学校の先生に叱られてしまう。
それでも彼らは、演奏することを諦めたくなかった。

再び現代に戻ると、皆楽しくなってしまって全員で人魚の格好をして(大蔵も含めて)「お人魚クラブ」というタイトルで歌と踊りのパフォーマンスを披露した。クオリティも上がってきた。
パフォーマンスが終わると、彼らの弁当に毒が仕込まれていて食中毒を起こしたり、舞台裏でボヤが起きたりと物騒なことが続く。犯人は誰だと仲間たちをお互い疑い合うことになるが、一同は犯人は今回の芝居を成功させたくない人、つまり17年前の出来事に恨みを持っている人じゃないかと推理する。

17年前に戻る。劇団「村さ来」の薮中は、自分は東京で役者としてやっていきたいからと脱退することを決意する。もう皆と一緒にはやっていられない、時分は違う世界の人間として本気でやっていきたいと。メンバーからの反感にあって薮中は孤立する。そしてそれから「村さ来」自体が仲間割れして活動を停止してしまう。
それ以来彼らは離れ離れになるが、吹奏楽部の部員たちは卒業する時までずっと一緒に演奏をしていたいと続けいていた。
大雨の日、皆が家に閉じこもっている中、吹奏楽部員たちは体育館で演奏を続けていた。まさかこんな日まで演奏をしているとは誰も思っていなかった。そこへ膨大な量の水が押し寄せてきて体育館を襲った。吹奏楽部員たちは洪水に飲まれて全員死亡した。
及川やまめだけはその洪水で死なずに生き延びた。

そんな回想から犯人は市川たにし(理由を忘れてしまった)だと判明し、彼を取り押さえる。そして無事に現在を生きる薮中たちと今は死んでしまったが皆の心の中で生き続ける吹奏楽部の部員たちと共に、吹奏楽のパフォーマスと歌を披露する。
しかし、途中で公民館は真っ暗になってしまい、工事現場の職員たちが出てきてダム建設のために取り壊すので立ち去ってくれと言われる。皆は困惑し、薮中も困惑するがその時に公民館の柱が一つ倒れた音がした途端、及川やまめの姿がなくなって、まるで薮中が今まで夢の空間にいたかのように場面が切り替わってステージ上にいて、丁度公演が終演してカーテンコールの最中、大歓声の中でメンバーたちが客席に向かってお辞儀をする所で、まるで薮中は何があったのかよく分からないままお辞儀をした。
とにかくやまめのおかげで、ダム建設反対の芝居の上演は大歓声の元上手くいったようである。

芝居をやりきって皆解散した。皆戻っていく環境は違うけれどお互い前向きに生きていこうと。薮中は河本に背中を押される。薮中は再び東京に戻って頑張ろうという決意をして「たにし村」を後にする。
舞台上の大きな柱が取り壊しによって傾く所で物語は終了する。

17年前の皆が学生時代だったシーンと現代のシーンが交互に描かれており、良い意味で演劇的で一瞬観客が錯乱するような演出があったような感覚である。特に、及川やまめの存在が絶妙でよくよく考えてみたら17年前の世界では皆彼女が見えていたが、現代の世界では薮中しか彼女が見えなかったのかと最後になって気がついた。だからオーディションのときもやまめだけ無視されていたんだと。
ただその時間軸の交錯が良い意味で物語を盛り上げているような気がして、なんとなく2つの時間軸が同じ節目をたどっている(仲間割れしちゃうあたりとか、ダム建設に反対するあたりとか、クライマックスとか)のもあって、最後上手くシンクロして綺麗にまとまっている気がした。少し悪い芝居の山崎彬さんに近い脚本に感じた。(山崎さんはもっと複雑な時系列を扱うが)

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【写真引用元】
ステージナタリー
https://natalie.mu/stage/gallery/news/447582/1674407


【世界観・演出】(※ネタバレあり)

流石は劇団鹿殺しというだけあって、舞台美術は非常に豪華でクオリティが高かった。
舞台装置、衣装、照明、音響、その他演出の順番で見ていく。

まずは舞台装置から。
舞台装置に関しては豪華というほどではなく、世界観を最低限しっかり作っているという程度だったかなという印象。余計な着飾った装置はとくになく、最低限のものでしっかり世界観を見せてくれた。
舞台上には、客席側の辺以外のコの字の辺に対して巨大な柱が数本立っており、これが公民館の建物の雰囲気を上手く醸し出していたかと思う。一番下手の柱と一番上手の柱の二本には、天辺に赤い提灯が飾られていて「た」という文字が刻まれていた。これは「たにし村」の「た」を表しているのだろう。一番最後のシーンでこれらの柱が一気に斜めに傾く演出が非常に手が込んでいて凄いなと感じた。「たにし村」そのものが閉鎖されて終わる感じ、寂しさはあるけどその前のシーンでのポジティブな終わり方に救われる感じ、丁度よい。
舞台中央には少し高さのあるステージが設置されており、このステージには主に山根が人魚の格好をして踊るためのステージにもなっている。非常にこの上に立てば目立つし舞台全体としても非常に映えるような気がする。
舞台装置に関して常時セットされていたものは以上で、そこまで豪華というほどではないがしっかりと世界観をこれで作っていたと思う。あと印象に残ったのは、後半の吹奏楽部員たちが大雨の中演奏をしていて、その後洪水によって命を落とすシーンで、長方形の巨大なパネルが沢山出てきて舞台上を周回する演出。ブルーな照明も相まってこれから良からぬことが起きそうな不安を煽る感じの演出が効果的だった。

次に衣装。今作に限らず、劇団鹿殺しの舞台美術は舞台装置というよりも衣装を豪華にすることによって、舞台全体が映える印象がある。
今回特筆したい衣装は、やっぱり人魚の格好をした面々であろうか。男性陣が全員金髪ロングのかつらを被って、下半身は人魚のあのキラキラした鱗のようなのを履いて、上半身は裸だけど乳首部分は貝殻で出来たブラをつける。やりたい放題やっている鹿殺しの衣装は素敵である。
豪華という意味合いでは、市川たにし、市川タガメの歌舞伎衣装もハマっていた。
個人的には、吹奏楽部の部員たちの制服とあの風貌が好みだった。いかにも田舎の学生という感じがあって好きで、特に内藤ぶりさんが演じていたジャッキーの、イモトアヤコに似た感じのザ・田舎娘感が好きだった。
そして菜月チョビさんが演じた及川あやめさんの、落ち着いて可愛げのある衣装も好きだった。

次に照明だが、本当に照明演出は全体的に非常に格好良くて、個人的には結構感動していたレベル。
好きだった照明演出を上げるときりがない気がするが、特に印象に残ったものを取り上げる。
まず一番最初のシーンの、「遠き山に日は落ちて」が流れながら夕日が客席後方から差し込む照明演出がいきなり素敵で感動した。あの赤さ加減、差し込み方が完璧。その光の差し込む方向に沿って薮中が登場する素晴らしい演出だった。
吹奏楽を演奏している最中の、あのオレンジをベースとした温かみのある照明も好きだった。非常に田舎を感じさせるしほっこりした。
一方で、「竜宮城」のシーンや吹奏楽部員が洪水によって死んでしまうシーンの、青い照明も好きだった。2つのシーンは微妙に青い照明演出でも違いがあったような気がする。後半の洪水のシーンの方がより深く暗い青だったような気がする。
そして何と言っても、吹奏楽部員たちを襲ってくる洪水の演出。ステージ背後にある、横並びの白い照明がガバーと上の方に移動する空恐ろしい照明演出がもう素晴らしい。恐怖を煽るのに十分な存在感。そしてこんな照明の使い方見たことない。非常に良かったと思う。

音響は、生演奏と音楽の部分で分けて記載していく。
まずは何と言っても吹奏楽の生演奏。冒頭でも書いたが、吹奏楽の生演奏を学生時代以来久しぶりに聞いたので、自分自身も学生時代を思い出して懐かしくなっていた。そしてあの音色を聞いていると、なんとなく昔に戻りたいな、田舎に戻りたいなと感じる。そして特にラストのシーンで、皆で吹奏楽やその他楽器で演奏するシーンが本当に楽しそうでほっこりする。凄く温かみを感じさせる素晴らしい演出だった。
音楽に関しては、いつも劇団鹿殺しはオリジナルで書き下ろした楽曲を披露する。今作も、初演の2016年に書き下ろされた楽曲が使用されている。個人的に好きだったのは、「お人魚クラブ」のシーンのおニャン子クラブの「セーラー服を脱がさないで」や、欅坂46の「不協和音」、渡り廊下走り隊の「バレンタインデー・キッス」の替え歌が、役者全員が人魚の格好をしてパフォーマンスとして披露されたこと。思わず笑ってしまう。
あとは、建物を壊すブルドーザーの音や洪水の音、水中を表すブクブクといった効果音など使用されていたが、生音と比較すると全然インパクトが下がって特に印象には残らなかった。

その他演出について、特筆したい事項だけ記載しておく。
まず面白かった演出は、芝居の最後で毎回はらわたが飛び出してくる演出で、特に「竜宮城」のシーンでのラストは魚介類たちを演じている役者からはらわたがクチャクチャと飛び出してきて、ちょっとグロテスクだったのが面白かった。思わず笑ってしまった。あとは、最初の「人魚」の芝居で鴉を二人体制で組体操の飛行機みたく演じていたのが笑えた。大きな体型の鷺沼恵美子さんを飛行機するのが個人的にはツボだった。
後は「竜宮城」のシーンで暗転中で真っ暗になっているシーンで、舞台上でガヤガヤやっている感じも好きで、そこへ大蔵が「暗転中は静かに移動するのが基本だろ!」というダメ出しが入るあたりも好きだった。

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【写真引用元】
ステージナタリー
https://natalie.mu/stage/gallery/news/447582/1674403


【キャスト・キャラクター】(※ネタバレあり)

劇団鹿殺しの劇団員を始め、商業演劇で活躍している役者から小劇場演劇で活躍している役者まで、年齢層も含めて幅広い方々が揃っていて非常に豪華な面々だった。
特に印象に残っている役者をピックアップして紹介する。

まずは、劇団鹿殺しの主宰であり、今作の脚本・演出も手掛け、河本大役も演じていた丸さんこと丸尾丸一郎さん。丸さんの演技は何度も拝見しているがここ最近では観ておらず、「傷だらけのカバディ」以来となるので約2年ぶりという所だろうか。
パンチパーマで背が高く、口ひげを生やした役者らしいインパクトのある顔持ちだが、今回はあまり出しゃばるような役柄ではなく、どちらかというと次に紹介する薮中の相棒という感じで、良い意味で脇役としてパフォーマンスを発揮していた印象。
ただ面白かった箇所はいくつかあり、一番最初の登場シーンのイノシシを担いで出てくるシーン。人魚の格好をして金髪ロングを掻き分ける仕草などインパクトがあった。そして、ラストには薮中に向けてポジティブになれる良い言葉をかけていた。

次に、今作の主役を演じていた薮中健役の真田佑馬さん。私は恥ずかしながら存じ上げなかったのだが、ジャニーズ事務所に所属しており、7人組の男性ユニット「7ORDER」のメンバー。「1リットルの涙」や「3年B組金八先生 第8シリーズ」といったテレビドラマが主な活動範囲だが、2019年には「PSYCHO-PASS サイコパス Chapter1―犯罪係数―」など舞台出演の経験も多数ある。
非常に演技に華があってスタータイプの役者で、パンフレットにも書いてあったが、ダンスも歌も演技も出来るマルチな俳優である。
本当に河本演じる丸さんとのコンビが非常に好きで、二人でちゃんばらごっこして馬鹿している演技が、凄く自然体な感じがして観ていてこちら側も微笑ましくなる。外部出演であるのに、あそこまで丸さんと親しく演技が出来ちゃうって凄いと思う。
また個人的には、ラストのみんなで楽器を演奏するシーンで、薮中が小太鼓を演奏している様子が本当に楽しそうで、そういう本気で役を楽しんでいる感じが伝わってくるのが良かった。

及川やまめ役を演じていた劇団鹿殺しの劇団員の菜月チョビさんは、もう歌声が本当に好きで好きで、あらためて聞いてみてやっぱり大好きだったことを再確認した。彼女の芝居も丸さん同様、「傷だらけのカバディ」以来2年ぶりの拝見となる。
当時の芝居でも、チョビさんの歌声に魅了された記憶があるが、今回はよりチョビさんの持っている個性に魅了された気がする。あの良い意味で甘ったるい感じの独特な歌声がチョビさんは特徴的なのだが、その歌声が今作品の雰囲気に非常に合っていた。
歌声だけでなく、及川やまめとしても雰囲気が合っていて、あの可愛げが凄く好き。可愛げといっても、若い女性の可愛さではなくて失礼な言い方になってしまうかもだが、おばさんとしての可愛げ、魅力がそこにはあった。
また菜月チョビさんの歌と芝居をもっと観ていきたい。

面白かったのが、山根亮太役を演じていた梅津瑞樹さん。彼は鴻上尚史さんが主宰する虚構の劇団の劇団員。最近では2.5次元ミュージカルを中心に活躍されている俳優である。
キザなイケメンという感じの役だったが、それが非常に似合っていて良かった。そして所々ズボラな性格(服装がだらしなかったり)がまた良くて、非常に好感度のもてるキャラクター設定が好きだった。
また、序盤から人魚を演じているあたりも好き。彼の芝居で舞台全体の笑いパートの多くを占めていた気がする。非常に面白かった。
次回は、今度はもっとクールな役も観てみたいかなと。全く別人になって舞台上に現れる姿を観てみたいと感じた。

個人的に今回のキャストで推したいのが、大蔵聡役を演じていた小林けんいちさん。彼は劇団動物電気の看板俳優。今回芝居を拝見するのが初めて。
非常にヤクザ役が似合っていて、ベテラン俳優といった感じで安定感が物凄くあった。台詞一つ一つがとても自然で、アドリブではないんだけど板についている感じが非常にあって、観ていて心地よかった。
芝居に対してダメ出しをする感じも好き、あれはどこからが台本の台詞なのか興味がある所。そして「竜宮城」のシーンから徐々に薮中側へ気持ちが変わっていくのもなんか好き。
今度は劇団動物電気の作品で、彼の芝居を拝見したいと思った。

歌舞伎役者の市川タニシ役を演じていた谷山知宏さんも演技に迫力があって良かった。彼は花組芝居所属の俳優で演技を拝見するのは初めてだが、序盤の人魚伝説の語り部から一気にその迫力を感じた。

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【写真引用元】
ステージナタリー
https://natalie.mu/stage/gallery/news/447582/1674404


【舞台の考察】(※ネタバレあり)

今回の考察パートは作品について深堀りするというよりは、自分がなぜここまで観劇好きになったのか、その理由がこの作品とも関連してくるので、そちらについて述べていきたいと思う。

私がここまで観劇にハマったきっかけは、2018年2月に紀伊國屋ホールで上演されていた秋元康プロデュースの劇団4ドル50セントの旗揚げ公演「新しき国」を観劇して衝撃を受けたことにある。
それまでは自分が学生であったということもあり、観劇にお金があまり使えない状況だったので、全くといって良いほど観劇とは縁がなかった。2018年4月から私は社会人になるというタイミングだったので、お金に少し余裕が出てくるだろうし観劇にも足を踏み入れてみようと思って観劇したのが「新しき国」だった。

「新しき国」の演出・脚本も、劇団鹿殺しの丸尾丸一郎さんが手掛けており、今作の「キルミーアゲイン'21」と非常にあらすじが似ている。
「新しき国」のストーリーは、劇団4ドル50セントの公式サイトより以下のように書かれている。


寂れた地方都市、夢沢町にある「夢沢銀座」はシャッター商店街になっている。昼は堅くシャッターを閉ざしているが、夜になると賑わう。お金は価値を持たない。夢を売り買いする不思議な商店街であった。ある日、夢に破れたミュージカル女優が死に場所を求めてやって来る。彼女と商店街の住人たちは、夢沢町を守るためにオリジナルミュージカルを創作する。しかし、雨の日に演じられたのは夢沢銀座の悲しき物語であった。(劇団4ドル50セント公式サイトより引用)


まず舞台が寂れた地方であるということが両者に共通していて、夢に破れた俳優が地元に戻ってくるという点でも共通している。実際薮中が夢破れていたかどうかは分からないが、売れて大ヒットスターにはなっていないので当てはまるかと思う。
そしてこのあらすじには書かれていないが、「新しき国」に登場する「夢沢銀座」もダム建設によって街ごと水没させられてしまうという話がある。「新しき国」と「キルミーアゲイン」には非常に多くの共通点がある。
そもそも丸尾丸一郎さんという同じ脚本家が書いているのだから、似ていても決してパクリという訳ではない。「キルミーアゲイン」の方が先に上演されているので、「新しき国」は「キルミーアゲイン」の内容をより一般受けしやすいような形で書き換えられたものといって差し支えないだろう。

そんな訳で私は、今回の「キルミーアゲイン'21」を観劇中、ずっと劇団4ドル50セントの「新しき国」が脳裏にちらついていた。
都会は実力主義の世界、田舎は実力とかは関係なくみんなで仲良く団結していく世界。人との繋がりを重要視する田舎の暮らし方の方が、多くの人にとって理想の世界であろう。
しかしそういった田舎は実際問題、少子高齢化による過疎化の進行で危機に瀕している。その比喩としてダム建設による村の水没がある。現在の社会問題が織り混ざった内容で非常に興味深い。
そして演劇というものは、そういった不可抗力に抗うための一つの手段としても捉えられるのだろう。だからこそ演劇は、多くの人に愛されるものなんだと思うし、一つの人々の祈りでもあるのかもしれない。


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【写真引用元】
ステージナタリー
https://natalie.mu/stage/gallery/news/447582/1674394


↓劇団鹿殺し過去作品


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