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【短編小説】だいじょばない

584文字/目安1分


 いつもみんなに「大丈夫」って言うお前のことが気に食わない。
 勉強もできて、運動もできて、分け隔てなくてノリもいい。そんなお前だからみんなが集まっていく。
 話しやすくてなんでも聞いてくれる。だからみんな何かとお前にお願いをする。勉強のこと、頼みごと、掃除当番を代わってほしいなんてことも。どんなことでも、お前はやればできてしまう。だからみんなお前に甘えているんだ。
 俺は知っている。お前が隠れて疲れたような顔をしていること。お前が陰でどんな努力をしているか。笑うよりも泣く数の方が多いこと。
 みんなには強がって大丈夫だって言っても、俺の前では正直になってほしい。

「なぁ、人の頼み聞くのもうやめたら?」
「どうして?」
「ムカつかないの? いいように使われて」
「そんな、いじめられてるわけじゃあるまいし」
「嫌な時は断れよ」
「好きでやってるだけだもん」
「無理してるだろ」
「無理なんかしてないよ」
「じゃあなんで一人で泣いてんだよ」
「あぁ、知ってるんだね。でも、どうしてあなたがそんなことを言うの?」
「そりゃだって、いや……そりゃそうだろ」
「そうやってわたしのことを気にして、分かってくれてるんでしょ? だから大丈夫」

 お前は周りに言うのと同じように、お前は「大丈夫」と口にする。分け隔てないお前のことを、俺はどうにかできるだろうか。この隔たりを、どうすれば取っ払えるのだろうか。

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