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フクオカシティ アンダーザナイト

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主人公が福岡で体験した、摩訶不思議な出会いと別れ
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その2 僕らが見上げた夜空はいつだってひとつじゃない

その2 僕らが見上げた夜空はいつだってひとつじゃない

アヤは化粧気のないキレイな女性だった。口角の上がった口元からは快活さが伺える。
「待たせちゃってごめんなさい、寒いですよね。これ、カイロ。温めてきたので使って下さい。」彼女は寒そうに肩をすぼめながらそれを手渡し、俯きながらも僕の目を見て笑った。
「博多市内は歩いて回れるんです。この今泉のエリアから少し歩けば中洲の屋台が並ぶところも観に行けますよ。」—博多は本当に良い街だから、せっかく来た人には楽し

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その1 此のよは幾重にも重なって

その1 此のよは幾重にも重なって

深夜0時が迫る頃、僕は駅前でアヤと待ち合わせていた。東京とさして変わりのない、しかし何処かどんよりした福岡の見慣れない街を見上げながら歩き、降りる人も疎らな駅の出口でアヤを待った。

福岡で過ごしたこの1日は惨憺たるものだった。20年ぶりに再会した親戚の結婚式は感情を移入する隙間さえなく、まるで地球の裏側で貧困に苦しんでいる子供たちを、自宅のテレビでぼんやりと眺めている様であった。
ホテルに

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