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My ALL TIME BEST ④ 「時計じかけのオレンジ」

この世で最も美しいモノ

ダイヤモンドは99.9%の炭素からできていて、化学式では「C」で表記される。単一の炭素原子のみで作られているモノはダイヤモンドだけだ。
不純物が増えると色味が変わっていくため、一般的には純度が高い=価値があると言われてる。
(もちろん、好みや度合いにもよる)

分かりやすくダイヤモンドを例えに出したが、世の中に存在する物質の多くは、純度が高いものが良きモノとして考えられることが多いのでは?
お酒を嗜むことがないのでわからないが、日本酒なんかも純度がどーのみたいな広告を見たことがあるし、ガソリンもハイオクの方が高い。それに私たちが大好きなメキシコ麻薬戦争系映画でもほら、純度の高い白い粉の方がいいみたいなことを言いながら、マフィアが高値取引するじゃない。

パケに入った白い粉ってだけでワクワクする

この純度というモノは、何も物質に限ったことではないと私は思っている。
野生動物が獲物を狩る姿を見てウットリするのもそうだし、可愛い動物や赤ん坊の動画を取り憑かれたように見るのもそうだと思う。
私は世の中に溢れるありとあらゆる事象に、理由や意味がなくなるともっと簡潔で美しくなると思う。

甘美なる暴力世界

舞台は近未来のロンドン。
主人公アレックスは、美しいクラシック音楽と暴力とSEXで毎日を埋め尽くしていた。
しかし行き過ぎた暴力の結果、彼は殺人事件に発展して逮捕されてしまう。彼はとある実験治療の非検体になることで、恐ろしいほど刑期を短くすることで仮釈放される。しかし、彼の身にはとんでもない変化が起きていた・・・

本作は「暴力装置」として機能する人間について語られている部分がかなり多い。
冒頭から繰り広げられ続ける、自身のインスピレーションに従った暴力の矛先・快感と末路は、筆舌に尽くし難い内容でありながら、ユーモラスかつコミカルで爽快感があり、心のどこかでアレックスの繰り広げる暴力を期待してしまう。
本作の暴力は、そんな強烈な猛毒を持っている。

こんなにも残忍な行為をしているのに
洗練された独自の暴力論理はどこか爽快感さえある

私は、暴力に意味などいらないし暴力に理由などいらない、暴力は暴力でそれ以上でもそれ以下でもないと考えている。
「暴力」は力強くシンプルで、何よりも潔く、何よりも分かりやすい世界の縮図だ。
言葉は誰もが傷つくとは限らない。言語の差もあるし伝わらないこともあるし、何より相手が攻撃と理解できる知性がないと意味がなさない。
だけど、人種も言語も年齢も超える人類の共通言語、それはもしかしたら「暴力」なのではないだろうか?

近所の話をすれば、どんなアホでも殴られたら痛いから嫌だから、言っても分からない奴には暴力を!と躾をしてきた歴史も物語ってる。
ヒーロー映画や正義の味方も、結局のところバトルで勝つという意味において、暴力での解決を美辞麗句してるだけと言えないこともない。
だからこそ、私たちはどれだけの進化を遂げようが暴力という最強のツールを手放すことをしない

The Rocking Machine
ご家庭に一ついかがですか?

ここ数十年で人類の文明は大きく発達し文化は豊かになり、一部の国・地域を除けば、それなりに衣食住不住なく生きていける現在の世界に変容を遂げた。
インターネットやAIを返せば世界中どの人ともコネクトでき、言語の壁さえ越えられる。ただそれでもなお、我々は暴力への渇きを満たすことができない。
判明している情報で、3400年前から今日まで世界中から戦争がなくなった期間は260年余りしかないのだから恐ろしい。

ノリで人を殺す
神を代理に人を殺す
政治と宗教で人を殺す
怨恨・憎悪・嫉妬で人を殺す
存在理由を誇示するために人を殺す

我々人類は同族殺害行為・殺人行為に、それぞれの理由がしっかりと存在している
そう、言ってしまえば純度が悪い、理由や意味があるからだ。
動物やゼノモーフのように、腹が減ったから殺すわけではないのだ。
それはつまり、本質的に暴力への渇きを満たすことができないことの証明なのではないか?

この作品が持つ強烈な猛毒は人間に染み付いた根源のようにも思えるし、簡単に拭えないほどのインパクトがある。

キューブリックはかく語りき

超完璧主義者のスタンリー・キューブリック監督はこう語っている。

「結局、人間は地球上に現れたもっとも冷酷な殺し屋だ。暴力に関する我々の関心は、我らが原始時代の先祖と潜在意識のレベルは少しも変わっていない」

(左)スタンリー・キューブリック
(右)マルコム・マクダウェル

例えばそれがは直接的な暴力だけでなく、普段から「暴力最低!」と公言している人でも同じで、ニュース番組で凶悪犯が映れば、「死ね」だ「死刑だ」と正義の名の下に、それを口にする。
中には芸能人の不倫にも死罪を持ちだす猛者もいる。
SNSにも「殺す」「死ね」と同義な言葉の銃弾が飛び交っているし、遠くの国から隣国、国内から地域、コミュニティから隣人と、エリアや距離感ごとにバリエーション豊かな仮想敵を用意して、永久機関のように弾圧をやめられないレイシストは割とそこらじゅうに存在する。

この作品が素晴らしくて恐ろしいところは、このアレックスが振るう暴力が、美しくスタイリッシュでカッコいいところだ。マリーナで、裏切り者に制裁を加えるシーンなんて、よだれが出そうなくらいかっこいい。

例えそう思えなくても、序盤にアレックスに対して
「最低だ、クズ、自業自得だ、キ◯ガイめ!」とか思っている分、ルドヴィコ療法で暴力を去勢された状態のアレックスが元の暴力の溢れる世界に吐き戻された時、我々がアレックスに抱く感情は「自業自得だよ」という気持ちと同時かそれ以上に「おい、何ヒヨってんだ!」「やり返せ!こいつらを殺しちまえ!」になるのではないか?

冒頭に述べた、スタンリー・キューブリックの言葉のように、これこそ暴力をやめられない人間の本質を描いた強烈なアッパーなんだと思う。

私が思うに暴力とは、知識だけで本当の暴力を学ぶことができない。
なぜなら、痛みや経験あるいは恐怖に直面することでしか本当の暴力を知ることしかできないからだ。
それは、YouTubeやXで分かった気になるのが一番危険だということを、SNS全盛期になった短い期間でも歴史が証明している。
我々は自らの判断で自らが暴力の線引きをしないといけないし、暴力の持つ危険性と簡易で甘美な誘惑の立ち方を学ばなきゃいけない。
なぜなら、この世は暴力で溢れているだからだ。
暴力はすぐそこにあるし、あなたと私の手の中にもある。

このシーンが好きすぎる
音楽と美しさと暴力

The Nine Satanic Statements

チャーチ・オブ・サタンのステートメント、第7条を読んでほしい。

7. Satan represents man as just another animal, sometimes better, more often worse than those that walk on all-fours, who, because of his “divine spiritual and intellectual development”, has become the most vicious animal of all!
「サタンは、ただの動物としての人間を象徴する!時として四つ足で歩く動物よりもマシなこともあれば、それよりもタチが悪いことも多い存在として。そしてまた、神聖な精神と知性の発達によって、あらゆる動物の中で最も凶暴な動物になってしまった存在として」

Church Of Satan / The Nine Satanic Statements

そう、文明が発達した今だからこそ改めて気づいて欲しい。
私たちは犬、猫、猿、豚、鮫、魚、人間、鰐...の一種類、思い上がるべきではない。
去勢させないといけないと考える人が生まれても当然なのだ。

本作の「ルドヴィコ療法」は、暴力がどれだけ残酷かをアレックスに拷問のように暴力的に見せ続けて洗脳し、暴力への耐性・抵抗力を奪ってから、暴力の溢れる世界に戻すことで、アレックスが暴力に直面すると恐怖と吐き気を催すほどの後遺症を与え、再犯を防止する措置のようなものだ。

何かに似てると思わないだろうか?

「そこら中に転がりまくってる凶悪で劣悪で暴力的な世界の真の姿を見て見ぬ振りをさせているメディア」
「暴力もセックスも存在しなくて、人は皆美しいとでも言わんばかりの漂白された映画作家」(「ゴジラ-1.0」のこととは言わないでおく)

アプローチこそ違うかもしれないが、
「世界の本質や残酷性を見ようとしない表面上の平和や平静を装わせた豊かで歪んだ文化」
を植え付けるという意味では、それはある意味では現代のメディアやエンターテイメントにも言えることだし、それに右へ倣えをする虚ろな人間によって構成された人間社会への辛辣な風刺にも思える。
(もちろん、そんな一時期のアメコミ作品みたいに自己批判ばっかしてる辛気臭い作品やメディアばかりでは気難しくて死にたくなるし、シンプルにつまらないので、おっぱいが出て人が死ぬ映画はたくさん作ってくださいね)

みなさんも現代のルドヴィコ療法から
ウーカビートしましょう

暴力映画はたくさんあるけれど、実は
「暴力について」「暴力への欲求について」の映画はあまり多くなく、本作はさらにそのアプローチが、とてつもない個性と論理を持っている。
観るものを虜にする真似したくなる言葉選びや美しい音楽、そして強烈で甘美な暴力。本作まさに、我々を魅了するカルト的な作品だ。

ここから完全に駄文なので読み飛ばして。

「ホラーとか怖いから無理!」
「ホラー映画好きってキモい!」
とか言ったり思ってるチープカチェロベックどもが、ろくにゾンビ映画も見ないくせにゾンビメイクしてるグラッパ、もしくはおれの好きなデポーチカインアウトしようと目論むヤーブロッコガリバーを、アレックスの格好してアルトラトルチョックしてやりたいぜ。

ライティ・ライト!

「時計じかけのオレンジ」(原題「A Clockwork Orange」)
原作 アンソニー・バージェス
製作・監督・脚本 スタンリー・キューブリック
撮影 ジェン・オルコット
音楽 ウォルター・カルロス
出演 マルコム・マクダウェル


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