見出し画像

キルモンガーとダンスの理由の共通点「BLACK PANTHER」

MCUだけでなく映画史に残るヴィラン
【エリック・キルモンガー】

人生は不公平だ そうは思わないかね?

チカラを持つ者が、そのチカラを他者のために使うこともなく、自分たちの利益・安全を優先し、壁の向こう側には目もくれない。
本当に正しい存在はきっと、それを是正したいと思うだろう、たとえ痛みを伴ったとしても。

解釈は人それぞれだが、
悪魔(ルシファ)正義の奴隷から自らを解放し、思うがままに存在しようとしたと思ってる。
弱きを助け、強きを挫く そのために。

もし強さを持った存在が、自分たちの考える正しさに踏ん反り返ったら?それはもう、たとえどんな正義であれ、愚かさの権化ではないだろうか?

賢者は橋を架け、愚か者は壁を作る
そういうことなのではないか?

ここで高らかに宣言したい。
個人的にMCUシリーズの単品作品の中で、ブラックパンサーがベストだった。(2023年現在も)
ワカンダ文化の美しさとティ・チャラ王の優しさを主にしたカッコ良さ、そしてMCU史上最高傑作のヴィラン・キルモンガー
映画史においてもこんなにも感情移入できる敵役に出会えるとは思わなかった。

Erik Killmonger

人生は不公平だよな、そうだろ?

私の一番好きなディズニー作品は「シュガーラッシュ」だ。
ライオンキング」を観るときは、いつもスカーを応援し、クソガキ・シンバにブチギレる。
ハリーポッター」の世界に入るなら、スリザリンに入って偉そうなグリフィンドールの出鼻をくじきまくりたい。

ひねくれ者?なんとでも言えばいい。

スカーは運命や血統という呪いに対して、抗っただけだ。彼はその手段を間違えただけ。狡猾で残忍で下劣だけど、自分が彼の立場だったらどうだろう?って思うと、涙が出そうになるほど悔しい。
血筋なんか滅んでしまえと思う。
ちょっと親がすごかっただけだろ?と思う。
ハリーやシンバのような生意気なだけ正義感ぶったボンクラなガキより、知恵とチカラでのし上がって王になりたいと思うことが、そんなに蔑まれることだろうか?

運命に歯車を狂わされたヴィランたち、本作のエリック・キルモンガー同様だ。
彼には心の底から共感するし、彼の選択と優しさと決意に心を奪われる。

彼はたった一人で、ハードでタフな現実の世界に取り残された。
(強い差別と暴力に晒され、彼を守るはずの父は母国の傲慢な考えに命を奪われ、ずっと一人ぼっちだった)
その中で人の痛みを知り、弱き者が強き者に為す術なく抑圧され、失われていく命や取り返しのつかない傷を恐らくたくさん目の当たりにしてきたのだろう。
そして自分のチカラ・知性・正義が果たしてどうあるべきなのかを考え、その回答がきっといつかの自分と同じ境遇にある弱い誰かのためにあるべきと思って進んできただけなのだ。
ほんの少しだけ、ボタンを掛け違えてしまっただけなのだ。
手段は間違っていたのかもしれないけれど、彼の中にある信念は誰よりも英雄的なモノだと思う。
そして、鏡合わせのようにティ・チャラ王が存在しているのだ。

鏡合わせのような共存関係

エリック・キルモンガー。
彼は王に相応しい、そう思わないだろうか?
助けられる力を持ちながら傍観するより、そのチカラの矛先が狂おうとも、誰かのために闘おうとする者が、なぜ敗北しなければならないのか?

犠牲はしょうがないなんて部外者に言わせるものか 私が許さない

話が変わるが、平手友梨奈さんを私は尊敬している。

以前所属していたグループのことはよく分からなかったが(色々問題のあったグループで異質を放っていたことは教えてもらった)、「」の中では柳楽優弥を食ってしまうほどの存在感を発揮していたし、あっという間に心を惹かれた。
さんかく窓の外側は夜」はそもそもガタガタなストーリーの中でキーになる役柄で、ちぐはぐなキャラクター設定をされていたにも関わらず、持ち前の三白眼が強いエネルギーを放っていた。

彼女のソロデビューである「ダンスの理由」を初めて観た時、そのカッコよさと意志の強さに衝撃を受けた。
2020年の年末にリリースされた楽曲だが、その年も翌年の邦楽の中でも、私的にはダントツの存在感を放つ楽曲だった。
何度も聞いているうちに、私がこの曲に惹かれた理由に気づいた。
この曲の奥にエリック・キルモンガーがいたからだ。

(以下、歌詞引用)

----------------------------

その光はどこを照らしてるのか?
遠い場所から希望は見えているのか?
心を閉ざしてる時 孤独は暗闇の中だ
Darkness filled somebody's heart
Help! Help! Help!

そのままにはしておけない
I'll do it for you
どうする?どうする?どうする?……I got it!

私が踊り続ければ 世界が許すと言うのなら
いつまでだって Keep going yeah
何度だって踊るよ 倒れても構わない
誰かの悲しみを癒す
その一瞬のために夢のようなターン決めよう

心擦り減らして、傷ついたって 絶対に救いたい
あの娘(こ)は私 死なないで あの頃の私

やさしさなんて余計なお世話だって
強がりと思えないくらい幸せ憎悪してた
拗ねていたわけじゃない 期待して傷つきたくはなかった
Everyone's had enough
What should I say? Yeah! yeah! yeah!

私にできることなんて…
There is nothing special
何も 何も 何も 何も 何も 何もない Understood!

誰かが貧乏くじ引いて 一人きり泣いているのなら
夜が明けたって I don't give up
眠らないで踊るよ 気が済むまで付き合おう
犠牲はしょうがないなんて
部外者に言わせるものか 私が許さない

もしも同じような 境遇ならば 同じ目に遭わせない
いつかの自分 死なせない この腕で守る
結局 あの娘(こ)を見てると 一番辛かった頃の私を思い出すの
誰かがいてくれたら普通でいられた
誰もいなかったから 仕方なく
踊るしかなかったんだ

----------------------------

彼女のキャラクター設定や、アイドル時代に感じていた不満や違和感を言語化した作品なのかもしれない。
ただ、【当たり前】【そういう世界】として甘んじて飲み込まされていたものに対して、自分と同じような境遇を誰かにさせてたまるかと暴れ狂う姿は、まさしく私にとってのヒーローなのだ。
(作詞がその世界を作った秋元康なのは皮肉だけど)

この歌詞の【踊り(Dance)】
【殺し(kill)】【復讐(revange)】に変えてみてほしい。
まさにキルモンガーになるのではないか?
使い捨ての自己犠牲だけで終わらせてたまるか。

PVに出てくる仮面の踊り子を神鹿と受け取るかフルフル(フュルフュール)と受け取るかは自由だが、私は自己犠牲大好きな神との対峙の先に見つけたフルフルとの邂逅だと感じた。

フルフル...召喚者が命ざられれば秘密や世界の真理を教えてくれる悪魔

この歌とキルモンガーはきっと、自分の痛みやそれによって得ざるを得なかったチカラを片手に、この世界に溢れた真実をぶちまけ破壊し闘おうとしていたのだ。
私はそう受け止めた。

太陽神かフルフルか

その一瞬のために夢のようなターンを決めよう

ブラックパンサーとの決闘後、マイケル・B・ジョーダン演じるエリックは泣く。
まるで一歩だけ道を間違えたアドニスのように、
「オレは間違った存在ではない」
と。
この魂の叫びに心を打たないものは、今すぐ踵を返して消えてくれ。

「彼にも事情がある」
「いろんな考えがある」

そんな単純な言葉で言い表せれるような物語ではない。お手軽に使う安易な「多様性」なんていう言葉遊びじゃないんだ。
本作を見返す度に、なんでエリックが勝てないんだって思うし、毎回本当に悔しくて涙が出る。だからこの先もずっと、この作品を観るたびに彼の痛みを感じ、彼の覚悟を感じ、彼を応援し、彼に心を寄せ、彼の結末に涙するのだろう。

いや、彼は負けてないのかもしれない。
勝負に負けて、闘いに勝ったのではないか?
ブラックパンサーの中にエリックはいるんだ。
今でもそう信じている。

敵役(悪役と呼ぶのも違う気がするから)の存在が、人が人として生きる意味、価値をここまで揺さぶってくるのは初めてだったし、
主人公を通することで、こんなにも完璧に回答をヒーローに示させた敵役も、また初めてだった。

だから、心の底から愛のメッセージを贈らせてほしい。

エリック、君は間違ってなんかない。
絶対に間違ってなんかいないんだよ。

殺した分の痛みを体に刻み込むスカリプケーション
命を軽んじていないことは明確だ

ありとあらゆるヒーロー作品が、正義とは何か悪とは何かのおしくらまんじゅうをしている中で、正義とか悪とかじゃなくて、
「チカラは誰かのために使い、誰かに分け与え合えるべき」
という回答をみせたこの作品は、アメコミ映画史上でも頭1つ2つ飛び抜けてる気がする。
※再度付け加えるけど、「ブラックパンサー:ワカンダ・フォーエバー」は真逆のことを言ってるので許せないということは付け加えておく。

人生は不公平だ
本当にそう思う 王になれないかもしれない
だけど、王に求められる魂だけは、
誰にだって手に入れることができるんだ。

Tell me who's gon' save me from myself
When this life is all I know
Tell me who's gon' save me from myself
Without you, I'm all alone...

You are not Alone.

ブラックパンサー」(原題「BLACK PANTHER」)
監督・脚本 ライアン・クーグラー
音楽 ルドウィグ・ゴランソン
   ケンドリック・ラマー
出演 チャドウィック・ボーズマン
マイケル・B・ジョーダン

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?