彼の面影

近所のコンビニで買い物を終え、外に出ようとした時、入れ替わりで1人の男性が店に入ってきた。

…あれ?

灰色のパーカーを着たその人は、大学生の時に付き合っていた人の、あの頃の姿に似ていた。

彼とは家が近かったから、彼もこのコンビニに寄ることは十分に有り得る。

反射的に私は、買い忘れたものを思い出したかのように引き返し、その人に近付いた。
そう、反射的に。

その人はお弁当の陳列棚をじっと見つめ、なかなか動かなかった。

結局その人はマスクをしており、横顔の、更に前髪に半分隠れた目しか見えず、はっきりと顔が分からなかった。

そもそも今隣にいる人が昔好きだった人だったとして、ここで何を言えばいいんだろう?

久しぶり!元気だった?あれからどんなことしてた?今は何してるの?私は今ね、こんな仕事をしていて、こういう風に過ごしていて…


いや、と言うか私、今適当なサンダルを履いている。部屋着にコートを羽織って、どうせマスクだし誰にも会わないし、すっぴんで来ちゃった。こんな格好で会いたくないや、どうせなら、いつか褒めてくれたワンピースに、昔より上手くなった化粧をして会いたいや。なんて。

…こんな歌詞、ユーミンに無かったっけ…

そんな事をぼんやりと思いながらコンビニを後にした。

さっきの人がもし彼なら、会うのは何年ぶりだろうか。
それさえもすぐには思い出せなかった。
ちゃんとした格好をしていても、私は声を掛けるのだろうか。

ああ、でも。
さっきの人は多分大学生だったよね。
彼はもう、とうに社会人じゃん。もっと年取ってるじゃん。私もだけどさ。
彼は私の中で永遠に大学生だけど、本当の彼は違うじゃん。

そうじゃん、そうじゃん…



風に舞う桜が綺麗だ。
目の前に落ちてくる花びらをそっと捕まえようとしてみる。

そんな簡単には、掴めないんだけどね。

最後まで読んで下さりありがとうございます。いい日になりますように。