万能人形の少女が、存在を賭しても欲しかったモノ 『101メートル離れた恋』
※物語の根幹に関わるネタバレはありませんが、一部内容の要約、一部台詞の抜粋が含まれます。ご了承ください。
今回ご紹介するのは、講談社ラノベ文庫新人賞で大賞を受賞した『101メートル離れた恋』(講談社ラノベ文庫)です。著者はこまつれい先生、イラストはしぐれうい先生が担当しています。おそらく単巻もの(1巻完結型)なので、入りやすいことこの上ないです。
文庫帯には、『ここが百合×SFの最前線!』とでかでかと記されています。SFモノのライトノベル、というだけで珍しいのに、なんと百合まで。てんこ盛りです。百合ラノベといえば、代表的なものは『安達としまむら』(電撃文庫/著者:入間人間先生)ですが、ラノベにおいて百合ジャンルは、あまり台頭していないように思います。ストーリーの中で百合カップルが誕生するラノベもたまにありますが。
では、私が百合に惹かれて購入したのかと言われれば、実はそうではありません。
私が惹かれたのは、この本のストーリー……つまるところ、あらすじを見て購入を決意しました。
では、あらすじをば。前回は私がまとめましたが、今回は衝撃を味わっていただくためにも、文庫裏のものをそのまま載せますね。
男子高校生の浅田ユヅキがある日目覚めると、女の子の人形の姿になっていた! 人形の名はセブンス。一流の魔法使いであり人形師である朝霧キョウコが作り出した、世界最高クラスのスペックを持つレンタルサービス型の美少女オートマタである……らしい。その役割は、依頼者との会話、家事、警備、さらに性行為にまで及ぶ。セブンスになってしまったユヅキは、さまざまな男性の性処理のためにレンタルされ、心をすり減らす日々を過ごす。やがて一ヶ月以上が過ぎ、精神的に限界を迎えつつあったとき、セブンスは女性の依頼者である高校生の少女イチコに出会う。そして、二人は次第に惹かれ合い……⁉︎(後略)
引用元:『101メートル離れた恋』
百合って言ったじゃん!!!!!!
……と最初は思いました。たしかに外見上は百合でも、主人公は男の子なわけです。TS百合、というやつでしょうか。百合に加えてTSも加えてくるとは、なかなか盛りに盛った作品です。「そこまでやるか!」と驚嘆したと共に、「いったいこの作品はどこの層に向けて発信されているんだろう?」とも思いました。しかし、ライトノベルは「いかに自らの性癖を盛れるか」という戦いの場です。そしてその性癖特盛り海鮮丼は、食べてみなければ美味しいか否かわかりません。
そもそも、機械人形の少女と人間の少女との交流、そして恋愛というテーマに惹かれないオタクはいないのです。気づけば購入していました。しぐれうい先生のイラストも可愛いし。
さて、肝心の内容の紹介に入っていきましょう。
あらすじにも書いてある通り、主人公・ユヅキは普通の男の子なのです。万能オートマタに備えられているべき機能はまったく備わっていません。料理、簡単な護身術、この世界の常識、エトセトラ……。目覚めたユヅキは、現在の身体である人形・セブンスを作った人形師・朝霧キョウコの指示により、同じく彼女が作った機械人形・フィフスにさまざまな物事を教えられます。
セブンスは朝霧人形工房の最新モデル。レンタルサービス型のオートマタです。セブンスの初レンタル期間まではあと一週間、それまでにたくさんの物事を覚えなければなりません。ビシバシしごかれるユヅキ=セブンス。何かと辛辣なフィフスですが、セブンスはフィフスとなんだかんだで上手くやっていき、キョウコやセブンスとは親しく会話を交わす仲になります。
そして訪れた、初のレンタルサービスの日。はじめてのお客様は、大柄な独身男性でした。それも、既に家事用オートマタを使っている。となれば、セブンスの役目は。
『それじゃ、お願い』
セブンスを絶望の淵へと突き落とすには、充分すぎる出来事でした。
それ以来、度重なる『レンタルサービス』によって、心身共に摩耗してゆくセブンス。そんな中出会ったのが、依頼者の娘である、不登校の女子高校生ーー神尾イチコでした。
『『セブンス』だから『ナナコ』。そっちのほうがガキっぽくて、あんたに合ってるよ』
気さくで、セブンスと人間の友達のように接してくれるイチコとの日々は、セブンスの心の傷をどんどん癒していきました。やがてセブンスはイチコに恋心を抱くようになりますが……。
深まってゆく、イチコとセブンスの交流。しかし、レンタルサービスの終了、イチコとの一旦の別れを機にーー出来事は急展開を迎えるのです。
イチコの身を襲った出来事。その時セブンスは……。
そして、浅田ユヅキという存在とはいったい何なのか。そもそも、この世界とは……。
感想を端的に言いますと、きゅんきゅんして胸が締めつけられて、そして幸せで澄んだ気持ちになれる、素敵な作品です。一読の価値はめちゃくちゃあります。
読了後は、「ジェットコースターに乗って、途中は辛くて泣きそうになったけれど、やはり爽快な気分で地上に戻ってきた」感覚が味わえます。物語の起承転結に合わせて感情は浮遊し、急降下し、そして最後には……。
念のため言っておきましょう。これは間違いなく、何回も転んで泥で汚れた少女たちによる、けれどどこまでも透き通って純粋な、恋の物語ーー即ち、百合です。
ーーその距離は、たった101メートル。手を伸ばして届かったとしても、その次は。
公式サイト→http://lanove.kodansha.co.jp/books/
しぐれうい先生のpixiv→ https://www.pixiv.net/member.php?id=431873