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手縫いが心を落ち着かせる

陣痛を待つ日々。夜眠るのが、朝目覚めるのが怖い。目覚めて体に変化がないとほっとしてしまう。

ごめんよ、お腹の子。情けない母親だ。決して会いたくない訳じゃないんだけどね。

夫を送り出して、ご飯を食べる。つうっと涙が頬を伝う。いかんいかん、情緒不安定だ。いやもうこれはホルモンのせいにするしかない。


私は裁縫道具を取り出した。型紙を写して布を切る、針を通す。ちくちくと一針一針縫っていく。丁寧に黙々と縫っていると次第に心が落ち着いてくる。

妊娠してから手縫いで子供の小物を作るようになった。趣味がなかった私にとっていい気分転換になった。本で見ると難しそうにみえるが意外と単調な縫い方だけで完成できるのでどんどん縫うのが楽しくなった。

出来栄えはきれいとは言えないが関係ない、売り物にするわけではないのだから。ミシンでやった方が格段に早くきれいに作れるけれども、私は手縫いを好む。


自分の手で針と糸を通すのが楽しい。これは書くことにも似ている。

まだ言葉にならない自分の気持ちをすくいあげ、言葉にはめる。ひとつひとつ、丁寧に(ときには荒いときもあるが)紡いでいく。

私は結局そんな作業が好きなのだ。効率的とはいえない、けれどもゆっくり流れる時間の中に針や言葉を置いていく作業が。

そして作品を生み出せた喜びをかみしめる。

そうこうしているうちに小さなスタイと、ささいな文ができた。


気がつけば涙は乾いてうっすらと微笑んでいる自分がいた。


書いているとエネルギーを使うのか、甘いものか揚げ物が欲しくなるんです。 健康を害さない程度につまみたいと思います。