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読書

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記事一覧

ジャムの煮詰め方、読書

以前、ひとの心の有様、また自分の心の風景についてあれこれ書いた。

(スクリーンショットは当該エントリ「心のかたち」にリンク)
今読み返すと、村上春樹とユングに影響されすぎな見立てではある。まあ仕方あるまい。
人は多面体で、平野啓一郎氏が提唱する「分人主義」、心は切り分けたケーキのように構成されているという捉え方は言い得て妙である。しかし私は、切り分ける前のホールの内側、真ん中あたりにはジャムのよ

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日々つれづれ

改元も無事通過し、花咲く5月を割と穏やかに過ごしている。
試される大地の春は忙しい。梅も桜もいっぺんに開き、その後チューリップだライラックだと文字通り百花繚乱だ。この時期は季節の変わり目でもあり、基本的には不調なのだが、今年に限っては元気だ。多分、冬場が散々だったので養生したのが効いたのだろう。そんな訳で花見も捗っている。

………
柔らかな日々と裏腹に、最近度肝を抜かれたニュース。

(スクリー

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読んだ本あれこれ

最近読んだ本について、簡単な感想を。

年初から読んでいだのだが、恐ろしく時間がかかった。普段読み慣れないファンタジーであったのと、ストーリーのベースとなる「アーサー王伝説」の素養がなかったせい。読んでる途中で気がついて、wikiで調べながら進めた。もし知識があれば、もう少し早く読み終えられたであろう。教養不足が情けない。
記憶にまつわる、個人および国家の物語。カズオイシグロらしい、隠喩に満ちた読

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山口恵以子「毒母ですが、なにか」

先日、Twitterを始められたばかりの山口氏。元食堂のおばちゃん。
https://twitter.com/bonyandera/status/925549260006866944

以前、アサヒスーパードライのキャンペーン小説を読んで以来、何となく気になっていた作家。この度新刊出版との報を聞き、早速読了。

幼い頃に、両親を事故で亡くしたりつ子は、持ち前の根性で東大へ入り、良家へ嫁ぐ。

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ケヴィン・ブロックマイヤー「終わりの街の終わり」



豊崎由美さんの書評を見て、猛烈に読みたくなり購入。先ほど読み終えました。

「人は二度死ぬ。一度目は肉体が無くなったとき。二度目は生きている人から忘れられたとき。」という言説は方々で聞く。そんな民話的伝承を、ブロックマイヤーは寓話にした。

……

まだ「一度しか死んでいない」人々が住む街。そこに、ある折から異変が起こる。急に区画がなくなったり、ごっそり人口が減ったりする。地上で、通称「まばた

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吉本ばなな「スナックちどり」

先日ふらりと立ち寄った古本屋で見つけ、一気読みした一冊。

でたらめだか愛嬌のある夫と離婚した主人公と、育ての親である祖父母を亡くした従兄弟「ちどり」は、旅先で落ち合い、イギリスへ向かう。寂れた街で、来し方行く末に想いを馳せる二人の、豊かな時間。

生きるとは、こつこつ手足を動かす事、そして自分の「形」を見極め、丁寧に道を選んでいく事。
そんな事が、掃除好きのちどりや、元旦那さんとの日々を「(

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演歌と乾気、曙と化物

最近、室生犀星の「抒情小曲集」を読んでいる。

(初版装丁。素敵です。時代を感じる)

今をときめく高橋一生の愛読書と聞き、臆面もなく便乗。ミーハーですいません。だって好きなんだもん。

あと、読書好きを謳っているのに、こんな名作を未読ってのもな…っていう、見栄っ張りな理由もあります。しょうもないですね。

が、頁を繰ると、物凄い既視感の連続でした。これ絶対読んだことあるな、と。恐らく子供の時

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沼田真佑「影裏」

「えいり」と読むんですね。

第157回芥川賞受賞作、ようやく読みました。ざっくり言うと震災小説です。

まず、タイトル「影裏」の意味は以下。禅語だそうな。

人の一生は短く儚いものだが、悟りを得た者の魂は滅びることなく、永久に存在するということのたとえ。
中国の宋の僧の祖元が元の兵に襲われたときに唱えたとされる、「電光影裏、春風を切る」という経文の一句を略した言葉。
命は落としても魂は消

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