見出し画像

まずは沢山の商品を世に出そうと思った

ここ数年、木村石鹸では、とにかく沢山の商品を作る、ということにすごく注力してきました。それまでは新商品は年に多くてもOEM含めて10程度だったわけですが、ここ数年は毎年50アイテムぐらいの新商品を作ってます。

数つくればいいというものでもないですが、ひとまず、「沢山つくる」「もっと作る」ということに注力していく方針を立てたので、商品をつくりにくくしてるモノを取っ払ってきました。以前、開発依頼書をなくした、という話をブログに書いたことがありますが、それも沢山つくるための一つの施策です。

できるかぎり新しい商品はつくりたくない?!

当時、僕が不思議だったのは、営業も技術・開発も、製造も、皆、新しい商品を作りたがらないように見えたことでした。開発もできて、製造もできる会社なのに、新商品となると、ものすごく腰が重いのです。できるかぎり開発しないで済むような理由を探してるようにさえ見える時がありました。似たような商品がすでにあるから売れない、こういう成分や処方には、こんなリスクがある、あんな問題がある、製品としての安定性が悪い、製造の手間がかかる、効率が悪い.... 今の受注フローでは対応できない、やる人がいない...

何か新しい商品の話が立ち上がると、それに対してあらゆるところからネガティブな見解みたいなものが上がってくる。そんな感じでした。

でも、既存商品の売上は何もしなければ年々落ちていくし、原料価格はだいたい値上がりするのに、売価は上げられない。売上は横ばいかやや微増ぐらいでも、売上総利益額は、どんんどん小さくなっていき、年々営業利益を稼げなくなってきてました。

固定費を削って利益を捻出するというのは、限界があります。どこかでは、売上を伸ばす、粗利を伸ばしていかなければいけないわけです。

これまでの木村石鹸は、幸いにも5年に1つぐらいのヒット商品が生まれ、比較的ロングセラーになるというものが多く、それらがビジネスを支えていました(基本的にはOEM商品が大半)。この1~2年でこそ、かなり構成はかわりましたが、ほんの3年前は、売上の上位10の中に、直近1~2年で発売した商品は1つもない、そのほとんどが10年以上前に出した商品とか、そのリメイクみたいなものとかで占められていたのです。

売れなかったらどうしよう? やったものが損する会社

で、最初の話に戻すと、なぜ、新商品をつくるということにネガティブなのかというと、新しいものを作って「売れなかったら」「ヒットしなかったら」ってことを極度に恐れていたんじゃないかと思います。過去のヒット商品やそれで培われたビジネスモデルに影響されすぎて、同じような商品を生み出さないとダメだという思い込みも強かったように思います。

あるベテラン営業マンは、こんな話をしてくれました。
その仕事はかなり大きい仕事で、決まると年数千万円ぐらいの売上にはなるというようなものでした。発注先さん向けにある商品の製造を行う仕事です。ただ、その当時のうちの設備では出来ないところもあり、1000万近い設備投資が必要だったようです。その設備投資をすれば、ほぼ仕事は確実に獲得できるという見込みだったようで、じゃあやろうということで、その設備投資がなされて、実際に、その仕事も決まったそうです。

ところが、仕事開始から1年も経たずして、その発注先が、外資系の会社に買収されてしまい、急にその仕事がなくなってしまった。設備投資した1000万は、ほぼパー。他の仕事で使えるものでもなく、投資分は回収できる見込みがなくなりました。

この時、当時の経営陣(これは僕の親父ではないらしいです)の一人が、お前の採ってきた仕事で大きい損害起きたやないか。お前、責任取らなあかんで、とその営業マンを叱咤したらしいです。こういうリスクも含めて、営業マンがきちんと情報を収集できてないから、こんなことになったと詰められたそうです。

その営業マンはその時のことをずっと覚えていて、今でも、この会社では言うたもん、やったもんが損するんですわ、と僕にもよく愚痴を言ってました。まぁ、その体験だけがすべてではないようですが、こんな風に詰められたら、何か新しいことや、チェンジするのは、リスクが高いなと感じるでしょう。

商品をつくらない、つくろうとしない、というのは、こういう判断やマネジメントの積み重ねが、ベテラン社員を中心として、ものすごく根強く心に刻み込まれていたのかもしれません。 先にリスクばかり計算して、少しでもリスクがあれば、なるべくやらないほうがいい。こんな思考が根付いてしまったのかもしれません。

意識を変えるためにやったことは...

で、何をやってきたかというと、先の開発依頼書を無くす、みたいな分かりやすいものもありますが、大部分は、ちょっとした会話とか、指示とか、相談された時の返事とか、そういうものの積み重ねです。

その積み重ねの中で、少しづつ「商品をつくることが素晴らしいこと」「失敗しても構わない。チャレンジするほうが良い。」という2つを擦り込んでいった感じでしょうか。

ちょっとした商品開発の相談でも、とりあえず開発にチャレンジしてみる、ということを意識して、ビジネスにならないだろうなと思うようなものでも、テーマとして面白そうなものは手掛けるようにしました。

メディアの取材などでも、工場見学がある場合には、技術・開発部の開発部屋も案内するのですが、その時には、この場所で、いかに面白いものが沢山生まれてるか、ちょっとした相談でもすぐに商品が生み出されるか、ということをインタビューアーに語るようにしました。

僕らはメーカーで、開発部隊も持ち、製造部隊も持ってる、営業、開発、製造が非常に近くで、密に連携して動けるので、調整が少なく、スピーディーな開発ができる。小ロット多品種を得意としてるので、商品開発、リリースも最初は小ロットで、リスク少なくチャレンジできる。なので、とにかく思いついたら商品をつくる。失敗してもいい。数打てば当たる戦略ができる環境なんだ。

そんなことをしょっちゅう話してました。今でも話してます。これは実際、当時からそうだったわけですが、そういう環境はあるのに、開発しない/チャレンジしない、という方向の力のほうが強かったので、こういう話を僕が第三者に語ってることを聞いてもらうことで、再認識してもらいたかったわけです。

発言したり書き込みをしてる社員はほとんどいませんが、何人かは、僕のソーシャルメディアアカウントなどは、チェックしてることは知ってたので、そこでうちの技術がいかに優秀か、あるいは社員たちが、いかに商品開発を愉しんでるかをアピールしたりしました。この辺は、対外向けのアピールも当然ありますが、実は、社内のスタッフにも、うちがどういう価値を持ってるのか、僕が何に価値を置こうとしてるのかを知ってもらうように意識してました。

こんな感じのことを3年ぐらい続けてますが、今は、商品開発の心理的なハードルみたいなものは、ほとんどなくなったかなと思います。新卒の子でさえ、数カ月ぐらいで、他社さんとのコラボレーション商品を開発したり。

今日も、現場のあちこちで、新しい商品の話題があがってます。新しい商品が生まれると、現場の温度は少し上がるような気がしてます。






この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?