見出し画像

『竹取物語』の語り手と登場人物が全員大阪弁だったら

 むかし、いつの頃やったやろか、竹取りの翁っちゅう人がおった。ある日、いつものように竹藪に入り込んで見ると、一本妙に光る竹の幹があった。不思議に思うて近寄って、そっと切って見ると、筒の中に高さ三寸ばかりの美しい女の子がおった。

 翁はその子を手の上に載せて持ち歸り、籠の中に入れて大切に育てた。
 このことがあってから、なんでか知らんけど、多くの竹を切るうちに節と節との間に、黄金が入っとる竹を見つけることが度々(たびたび)あった。それで翁の家は次第に裕福になったんや。

 ところで、竹の中から出た子は育て方が良かったんか、えらい大きなって、三ヶ月ぐらい経った頃には一人前の人になっとった。
 翁はもう大きなって名のないのも変やと思うて、ええ名づけ親を頼んで名をつけてもろうた。その名は嫋竹の赫映姫(なよたけのかぐやひめ)。えらいかっこええやんけ。せやけど、今後は「かぐや姫」で統一するわ。名づけ親ごめんやで。

 次第にかぐや姫の評判が高くなって、世間の男どもは妻にもらいたい、または見るだけでも見ておきたいと思うて、家の近くに来て、すき間のようなところから覗こうとしたけど、どうしても姿を見ることが出来ひん。
 どうにかしてかぐや姫に会(お)うて志を見せようと思う熱心家が五人おった。みんな位の高い身分の尊い男で、石造皇子、車持皇子、右大臣阿倍御主人、大納言大伴御行、中納言石上麻呂やった。

 五人は思い思いに手だてをめぐらして姫を手に入れようとしたけど、誰も成功せえへんかった。翁もあまりのことに思うて、ある時、姫に向かって、

「わしを親と思うて、わしのいうことを聞いてもらえへんか」
 
 と、前置きして、

「わしは七十の阪を越して、もういつ命が終わるかわからん。今のうちにええ婿をとって、心殘りのないようにして置きたいんや。姫を一生懸命に思うとる方がこんなにたくさんおるんやから、このうちから心にかなった人を選んだらどうや」
「私の思い通りの深い志を見せた方やなかったら、夫と定めることは出来ひん。それは大して難しいことちゃう。五人の方々に私の欲しいと思う物(もん)を注文して、それを間違いなく持って来た方にお仕いします」
 
 翁は少し安心して、例の五人のところに行って、そのことを告げると、すぐに承知した。ところが姫の注文というんは中々難しいもんやった。

 石作皇子には「仏の御石の鉢」、車持皇子には「蓬萊の玉の枝(根が銀、茎が金、実が真珠の木の枝)」、右大臣阿倍御主人には「火鼠の裘(かわごろも、焼いても燃えない布)」、大納言大伴御行には「龍の首の珠」、中納言石上麻呂には「燕の産んだ子安貝」を持って来させるっちゅうもんやった。どれも話にしか聞かへんけったい(不思議)な宝ばっかりで、手に入れるのはめっちゃ難しい。
 
 石作皇子、車持皇子、右大臣阿倍御主人は持ってきたにはきたけど、全部パチモン(偽物)やった。
 大納言大伴御行は船で探索して嵐に遭ってもうて、中納言石上麻呂は小屋の屋根に上って転落して腰を打った。結局、かぐや姫が出した難題をこなした者(もん)はおらんかった
 
 そのうちに、かぐや姫の噂を帝が知って、一人の女官に翁の家に向かわせた。その女官がさっそく竹取りの翁の家に出向いて勅旨を述べ、ぜひ姫に会いたいと言うと、翁はかしこまってそれを姫に取り次いだ。せやけど姫は、

「別にええ器量でもあらへんから、お使いに会うことは御免を蒙ります」

 と拗ねて、叱っても会おうとはせえへんかった。

 そうこうするうちに三年ばかり経った。その年の春先から、かぐや姫は晩になると、月を眺めて悲しむようになった。それがだんだん募って、七月の十五夜には泣いてばっかりやった。翁たちが心配して、月を見ることを止めるようにと諭したけど、

「月を見ずにはおられへん」

 そのわけを聞くと、かぐや姫は泣きながら言った。
「今までに、度々話そうと思うたんやけど、心配をかけるのもどうかと思って、打ち明けられへんかった。実は、私はこの国の人間やない。月の都の者(もん)やねん」

 どうにもある因縁があって、この世界に来てたんやけど、今は帰らなあかんくなったらしい。この八月の十五夜に迎えの人たちが来れば、お別れになる。それでかぐや姫は悲しんでたわけや。
 事情を知った二人は大泣きした。このことは帝にも届いた。

 帝は翁の家に武士二千人を連れて、屋根の上に千人、家の周りの土手の上に千人ちゅう風に手分けして、天から降りて来る迎えを撃ち退けることにした。

「そないことしても、なんの役にも立たへん。あの国の人が来れば、どこの戸もみんなひとりでに開いて、戦おうとする人たちも萎えしびれたようになって力が出えへん」
「なあに、迎えの人がやって来たら、ひどい目に遇わせて追っ返したる」

 そのうちに夜もなかばになったかと思うと、家のあたりがにわかに明るくなって、空から雲に乗った人々が降りて来て、地面から五尺ばかりの空中に、ずらりと列を作っとった。

「それ来たっ」

 武士たちが得物をとって立ち向かおうとすると、力も出ず、ただぼんやりとして目をぱちぱちさせるばかりやった。そこへ月の人々は空を飛ぶ車を一つ持って来た。その中から頭らしい一人が翁を呼び出して、

「翁よ、あんたは少しばかりのええことをしたから、それを助けるために片時の間、姫を下して、たくさんの黄金を儲けさせるようにしてやった。せやけど、今は姫の罪も消えたから迎えに来た」

 翁が少し渋っとると、

「さあ姫、こんなきたないところにおるもんちゃうで」

 と言って、例の車をさし寄せると、堅く閉した格子も土藏も自然と開いて、姫の体はするすると出た。翁が留めようとあがくのを姫は静かにおさえて、形見の文を書いて翁に渡した。
 
 そしてまた帝に別の手紙を書いて、それに月の人々の持って来た不死の藥一壺を添えて勅使に渡した。
 かぐや姫は天の羽衣を着て車に乗って、百人ばかりの天人に取りまかれて、空高く昇って行った。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?