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なんでトランプに投票したの?ロスで直接聞いてみた。

「今日はダウンタウンに行かないでよかったですよ。トランプ反対デモでハイウェイが封鎖されたようです」  

大統領選挙直後のロサンゼルスで寿司を食べながら相変わらずトランプの話題が続く。  

「デモしてるやつらはクレイジーだよ」
「じゃあ、あなたはトランプに投票たんですか?」
選挙が終わって何度目かなこの質問。
経営者の彼は断言した「YES!」
「勝てると思ってました?」
「ノー。だからオレは今トランプが勝ってベリーハッピーだ」
彼の選挙区カルフォルニア州ではヒラリーが勝った。  

日本で政治の話をするのは憚られますがアメリカは比較的政治信条を明確にします。ちょうど大統領選挙の直後だったので会う人にみんな聞いてみた。エキセントリックなトランプに入れたことは言うのを躊躇するのかと思いきや皆さんはっきり言いますね。でもこれほど明確なイエスは初めてです。トランプに入れたと答える人が意外にも多かったですが、この社長以外はどことなく後ろめたさをともなったトランプ投票告白でした。勝った今だから言えるのかも。  

トランプタワーがあるニューヨークで投票したという白人ビジネスマン彼はトランプに入れた。

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「オバマの8年間は何にも進まなかった。議会が共和党だからなんでも反対するからね。大統領と議会は同じ党の方がいい。その意味でトランプがいいんだ」彼は続ける。「でもオレの一票は初めから意味をなさないんだ。ニューヨーク州はブルーステイトだからね。オレが赤に入れても効果がない」なんて言いつつトランプに入れてる。「でも妻はクリントンに入れたんだよ」なんだか言い訳がましいな  

ブルーステイト。西も東も海岸沿いの州は民主党優位。ワシントンDCから来たエリート弁護士は共和党候補者選挙前に言っていた「トランプはありえないよ。クレイジーだから」DCでは8割が民主党支持だという。若い同僚はバーニー・サンダースを応援しているという。「でも彼はソーシャリストだからな」  

これも選挙の前のこと。ロスで選挙前、タクシー乗車中にトランプの話を日本語でしていると、白人ドライバーが言った。「今、トランプの話題してたよね。ごめんなさい。あんなスチューピッドなやつが候補者でオレは恥ずかしいよ。だから謝っておくよ」選挙前はボロボロに言われてたのにアレヨアレヨと言う間に本当に大統領に。  

ロサンゼルスのエリート風会社社長はクリントンに入れたと言う。でも粗野な感じのその部下は気まずそうに言った。「オレはトランプに入れた」と。「鼻をつまんで投票したよ」やっぱり後ろめたそう。ヒラリー支持の社長の手前だからかな?  

もう一人のトランプに入れたというヒスパニックの社長さんは、クリントンは大統領にさせたくなかったという。「ヒラリーが女だから?」ストレートに聞いてみた。  

「違うよ。金に汚いからだ。トランプは自分のカネだからいいよ。ヒラリーはサウジアラビアだとかチャイナからたくさんカネもらってる。選挙演説でビンボーも知ってるなんて言ってたがウソだ。あいつの別荘は200ミリオンドル(200億円)だぞ。クリントン財団にいる娘のチェルシーの給料は1ミリオン(1億円)だしな。選挙戦でもらったハーフビリオンのドネーションは何に使うんだ?」出てくる出てくる。「聞いたことない話ですがどこでそういう情報知るんですか?」「"Fox news"さ」ああやっぱりね。「でもほかでは報道されてないんじゃない?」「メディアはヒラリー支持だから彼女に不利な報道はしない」全米メディア57社がヒラリー支持、トランプはたったの2社だった。  

ベリーハッピーだと言った社長は熱心なクリスチャンです。トランプの当選にはキリスト教右派の貢献が大きかったと報道されてた。「オレはベリーライト(右派)だ。オバマは社会主義者だ。あいつはアメリカをフランスのようにしたいんだ。この8年ビジネスにとっては最悪だった。オバマケアのせいで保険料は2倍3倍になってる。企業負担が大きくなって人件費がさらに上がる。しかも法人税が高い。でも海外で儲けてるグローバル企業は税金払ってないんだ。税金の安い国を選んで儲けを出してそこに払うんだ。トランプは法人税を35%から15%に減らすんだ。そうすれば企業が戻ってくる。トレードバリアーも増やせばいい」基本オールドエコノミーの経営者は共和党支持者が多い。「カルフォルニアは煙はダメだし、ペイントもダメなんだ。これじゃ工場なんてやれない」  

「保護主義で国内企業守ったら結局は消費者が高いもの買わされるんじゃないですか?」と聞いてみた。
「いいんだよそれで。アメリカ人は必要じゃないもの買いすぎなんだよ。中国が安くつくってウォルマートが安く売るから余計なものまで買っちゃう。アメリカでつくって高く売れば必要なものだけ買うようになる。それが一番さ」  

「君らの生活が厳しいのは移民のせいだ、メキシコ国境に壁を作って不法入国者を締め出す。NAFTAもアメリカのためにならないから脱退する」トランプは好き放題言ってます。国境の向こう側ではどう言われているのか。向こう側はどんな世界なの?  

大統領選挙の当日はたまたまメキシコシティにいました。  

初めてメキシコに来たのは1990年大学2年の夏休みです。ロスからバスに乗り国境の町ティファナに入ると雰囲気が一変しそこはソンブレロとブーツのメキシコ世界でした。そこには人間が後から引いた線があるだけなのに突然世界が変わるんです。でも当時はその線が生み出した越えられない住民たちの人生格差なんかにはとても考えは及びませんでした。トランプが作ろうっていう壁が何故に必要だ言われるのか?そんなことはつゆ知らず何の気なしに国境を越えたんです。ジャパニーズパスポートでイージーに。  

バスを乗り継ぎ、メキシコシティを越えて数都市周り、最後はグアテマラまで行きました。メキシコってアメリカの下にあるので小さく見えますが国土は日本の5倍です。バスを乗り継ぎメキシコを縦断しさらに国境越えてグアテマラパナハッチェル湖に着いた時は、ほんと遠くまで来ちゃったと思いました。田舎の風景に周りはインディオばかり。先日観た映画で「火の国のマリア」というグアテマラ映画では火山に住む民族ですらグローバル経済に巻き込まれてる姿が描かれていました。  

学生時代の中米旅でもっとも印象に残った街はSan Cristbal de Las Casasです。カテドラルを中心としたコロニアル風の小ぶりな街に様々な民族衣装をきたインディオが闊歩しているのです。当時のわたしは旅をしてもあまり写真を撮りませんでした。カメラを頭から下げた姿がティピカルジャパニーズと揶揄されるのが嫌だったのです。ただの自意識過剰。今ではiPhoneで撮りまくりです。世界のスタンダードですからいいでしょ。そんなわたしもその街ではキレイな衣装に魅せられてカメラを向けたくなりました。郊外の村々をめぐると村ごとに衣装が異なり民族が違うことがわかります。記録に残したい。でも写真は撮るなとアドバイスされました。カメラを向けると魂を抜き取られるとう迷信があるといいます。彼らの私に向ける目が冷たいというか暗いというか受け入れない意思を感じました。日常を送る人々に観光にきた外国人が好奇心からカメラを向けるのはいい迷惑でしょうからカメラは諦めました。でもその迷信と言われるものの根拠がもっと深いところにあると知るのは帰国後数年たった時でした。  

1994年1月1日そのサン・クリストバル・デ・ラス・カサスで多くの観光客が犠牲となる先住民勢力の武装蜂起が起きたのです。サパティスタ民族解放軍。メキシコ革命の英雄サパタから名をとった農民たちのゲリラ組織です。その日がNAFTA北米自由貿易協定の発効日でした。カナダ、アメリカ、メキシコの関税を撤廃しグローバル経済に備えて北米の競争力を高める狙いがありました。当時人件費があがり競争力を失っていたアメリカ製造業はメキシコに安い労働力を求めて移って行くのです。一方農業を生活の糧にしていた先住民族たちは生産性の高い米国大規模農場の農産物輸入と競争を余儀なくさせられるのです。NAFTAはメキシコ農民への「死刑宣告」だとして、このままでは農業を壊されアメリカの下請け(奴隷?)になると武装蜂起したのでした。ただ当時学生だった私はそんな構図に気づいていませんでした。この街の名前の由来はラス・カサスという宣教師からとっている。彼はコンキスタドールたちの暴虐非道な征服を本国政府に報告した人です。このインディオを救おうとしたカトリック白人宣教師の名を冠した街で先住民族が蜂起する。個人としては善意かもしれないが結局は押し着せの文化支配の果て。歴史の皮肉です。
「インディアヌスからの簡潔な報告」
https://note.mu/yuezhuangyuan/n/nc0fdcd3baa6a  

初めての旅から26年。今年初めて仕事でメキシコ来ました。メキシコはNAFTAのおかげで経済成長しここ数年アメリカ市場への製造業供給基地として経済成長し続けました。私もその繁栄にあやかり物を売りに来たのです。  

数多くのグローバル企業がメキシコ製造拠点を設けアメリカ市場に大量の製品を送り込んでいます。国境近くのマキナドーラ呼ばれる工業団地ではメキシコ人労働者が安い賃金で大量生産を続けています。メキシコ国家経済は成長した。企業も利益をあげた。賃金も上昇した。でも自分たちは豊かになったのか?国境の向こうにはどんな生活があるんだ?俺たちが作った製品を大量に消費するアメリカ。近いけど遠い国。そうだ国境を越えよう。国境はただの線だけどそこには経済の大きな溝がある。このギャップこそがNAFTAを存在させてる所以です。夢を見てこの線を越えた若者たちのの後はブルース・スプリングスティーンの歌の世界です。国境を越えた。仕事についた。メキシコより給料は高い。でも生活できない。物価が高いから。いい仕事がある。麻薬だ。そして犯罪に巻き込まれる。あれから20年、もう一方の米国工場で働いていた労働者は職を失い、街は活力を失い、周りには不法移民があふれてる。移民にさらに職を奪われる。そう思えちゃう。ゆえにトランプがメキシコ国境に壁を作るとうそぶくと彼らは熱狂するのです。NYの彼は言っていた。「不法移民が多すぎるんだ。移民受け入れコストは全部我々の税金だよ。しかも奴らは税金払ってないんだ。厳しく取り締まれ」でもねこんな社会になったのは移民のせいではない。アメリカ政府が選択した道だから。企業優先、金優先。大企業は大きな利益をあげました。その戦略が矛盾を生み出した。NAFTAだって米国大企業が望んだグローバル競争力強化の一環だったわけで、今もその奔流が続いており、自動車会社は長期戦略に基づきメキシコにさらに工場を移す計画でいるのです。それがアンチ自由貿易に転換できるのか?トランプは既存政党にありながら過去を全否定してついには大統領になる。既存政党のバックアップを受けて実行する政策はどうなるのでしょうね?NAFTAも解消するのか?メキシコ後に訪問したロサンゼルスでは意外にトランプ支持が多かった。経営者たちはアメリカビジネスのためにいい政策を期待している。規制撤廃と減税。プラス保護貿易。しかしそれでレッドステートのプアホワイトと言われる労働者の不満は解消されるのか?同床異夢。内需拡大のため国内公共工事を増やすと言うが予算はどこから来るの?  

「今回の選挙は史上もっとも醜い戦いだった。でも選挙が終わればブルーもレッドもなく、スムーズに政権移譲がなされるんだ。これがアメリカの良いところだと思う。僕もこれからはトランプの政策を応援して行くよ。」クリントン支持のインテリっぽい白人社長は続ける。「こんなピースフルな政権交代ができるのは世界にないさ。他の国だとリアルファイトがあるからね」  

これは本当に立派なシステムだと言える。今朝日本の新聞にはトランプが政権移行準備を開始したとあり、4000人の政治任用ポストがあると。トランプシフトが組まれてゆく。  

でもね皆さん、アメリカ大統領は世界の指導者っていうけどね"God bless America" の国ですから基本自分の国のことしか考えませんよ。結局はトランプのアメリカを見守るしかない。  

メキシコの経営者は嘆く。「トランプ大統領になったらどうなるか想像できない。ブリックレイヤー(レンガ積み職人)にでもなろうかな。国境の長い壁作るのに労働需要が続くからね」メキシコの輸出の80%はアメリカ向けだという。アメリカに翻弄される運命です。
日本もね。  

以上  

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