『短編』突然に、さも跡形もなく 第2回 /全7回
「喫煙席はこちら側になりますねー。お好きな席へどーぞー」
重い体をぐったりと椅子に下ろし、バッグからパソコンを取り出した。もうほとんど常連になってしまっているいつものファミレスのいつもと同じ席だ。ここの店はWIFIが通っているから便利だ。ファミレスで、無料の電波を飛ばしてるところは珍しい。
「あ、ドリンクバーで」
いつもドリンクバーしか頼まないのに、店員は笑顔で対応してくれる。申し訳ない気持ちがないことはないが、無駄に使う金が俺にはない。じゃあなぜここに来るかと言えば、とっ散らかった部屋よりも大分落ち着くからだ。適度な声量で交わされる人の会話は、どこか聴き心地のいいものだ。不思議と、作業も捗(はかど)る。
「あ、もしもし。聞いたか?」
向こうからは寝ぼけた声が聞こえてくる。
「え、ってか寝てた?」
「……ん、ああ、寝てたみたいだ」
「じゃあ、聞いてないのか?」
「……何が?」
「真木(まき)がやめるって、バンド」
そう言うと、しばらく沈黙があった。また寝てしまったのではないかと思うくらい長い沈黙だった。
「……は?」
「聞いてなかったのな。さっき真木から電話あって、それでそう言ってた」
「あ……、真木から着信入ってる」
「その電話、多分やめるって話だ」
それからまた少しの沈黙があって、「はー?どうするんだよー、俺たち!」と葛城(かつらぎ)はいつにもない大声を出した。
「どうするもなにも、どうにもならなそう。本気っぽかったし」
「止めなかったのか?説得しなかったのか?」
「説得する隙がなかった」
「おいおい……」
「……まあとにかくそういうことらしい。真木に電話してみてくれよ。直接聞いた方がいい」
「ああ、分かったよ」
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