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長編小説『because』 50

「俺はな、でんぱちって言うんだ」
嗄れた声が耳に刺さった。痛い、と思う程の雑音が混ざった声に私はもう不快感さえ感じないくらい慣れてしまっていた。私が「それより、あなたは誰なんです?」と言った後にでんぱちがそう言ったのだった。
「まあ、今の話であんたらの出会いはなんとなく分かったけどな……」
でんぱちが大きな体を屈めて、覗き込むように私の顔を見た。それよりも驚いたのは今私が昔から記憶を順に追っている間、それを外に声として漏らしていた事だった。私はただ静かに昔の記憶を追いかけていただけのはずなのに、それがでんぱちに私と彼の出会いを一から丁寧に話し聞かせているという事になっていたのだ。
「なんですか?」
眉間に皺を寄せて、覗き込んでくるでんぱちの顔に言葉を吐いた。
「お前、おかしいんじゃねえか?」
「は?」
でんぱちの言葉が私の顔に思いっきりぶつかった。でんぱちのその「おかしいんじゃねえか?」という言葉はそういった言い方だった。私の顔目掛けて、矢でも放つかのように、速度を持った言葉だった。
「だってよ、そのストーカーだったその……彼を好きになったんだろ?」
「別に最初からそうだった訳じゃないわよ」
「あんたの話を聞く限り、俺にはそう聞こえたけどな。あんたの言葉を聞いて俺がそう思ったんだから、きっとあんたは最初から気になってたんだろう?」
覗き込んだままでんぱちが、もう答えは分かりきっているけどなという顔を向けてそう聞いてきた。

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