『短編』突然に、さも跡形もなく 第4回 /全7回
着信があったことをバイブレートした携帯が、テーブルを揺らしたことで気付いた。
「はい」
「ああ、雄大?大丈夫、今」
「ああ、うん。大丈夫」
「真木に電話したよ。やっぱりやめるって言ってきかなかった」
「……だろうな」
「……なあ、ほんとうにやめるのかな?あいつ」
「まあ、やめるんだろう。本気っぽかったから」
「……じゃあ、どうするんだよ俺たち」
そんなこと言われても、と思った。俺にどんな返答を求めているのかも分からないのに、どう返したらいいのかなんて到底分かりそうにない。こんな時だ、そう聞いてくるってことは葛城も本当はバンドをやめたいと思っているのかもしれない。俺が解散という言葉を発し、それに便乗する形で彼もこの世界から足を洗ってしまいたいのかもしれない。後ろ向きな考えはいくらでも浮かんでくる。そしていくら考えても、返答は出てこない。
「……ちょっと考えたい。俺には分からないから」
「……ああ、ごめん」
「いや、いいんだ。俺もびっくりしてるから」
ゆっくりと電話を切った。結局葛城がなんで電話をしてきたのかも分からないままだった。やっぱり、ここでバンドは解散するべきだったのかもしれないと不意に思うと、居た堪れない気持ちに包まれる。……五年だ。このバンドは五年やった。今までいくつかのバンドを作ったが、これが一番長いし、皆仲が良かった。うまくいっているのかどうかは微妙なところだが、それでも楽しくやっていたと思っていたし、作っている音楽もそれぞれが納得する形だったと思っている。……それなのに、こんな様だ。社会の大きな波には、こんなちっぽけなバンドは簡単に流されてしまうのだと思い知らされた。今までだって何度も思い知ったはずなのに、この経験はいつだって辛い。
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