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長編小説『because』 76

 そこには確実に一つの節目があって、そこにラインを引いて、そのラインより現在、それが彼と私が恋人同士であるという証になっている。

「好き」

彼と何度会った時の事だっただろう。私は彼の背中目掛けてその言葉を吐いていた。気付いたら吐き、その後すぐに少し後悔し、そしてまたすぐにその後悔を拭い去ったのだった。彼は振り向いて私の目を見ていたけど、何も言わなかった。ずっと私の目を捉え、その止まってしまったような時間の間、私は酷く居心地が悪く、少しの嫌悪感と吐き気さえ感じる程だった。

「沙苗さんは笑っていれば、それでいいよ」

彼はそう答えた。その答えにどういう意味が含まれているのか私には分からず、「え?」と聞き返した。彼は今自分の言った言葉自体が私に聞こえなかったのだと思い、もう一度

「ただ笑っていてくれればいい」

と言った。

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