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長編小説『because』 79

「涙止まった?」
「ううん、止まらない」
もう随分前から止まっている涙に嘘をついた。涙を流し続ければ、彼はこうして私を抱いていてくれるし、涙が止まってしまえば、彼は確実に私から離れてしまう気がしたから。
「しょうがないな」
「うん、しょうがないの」
彼は私の背中に回した手に少しだけ力を入れ、それに応えるように私も少しだけ力を入れた。
「沙苗さんは笑っていなきゃ、ダメだよ」
彼は私の耳元で、息を吐くくらいの力でその言葉を発した。
「笑っている、笑っているようにするよ」
「うん。ずっとそうしていて」
「ねえ」
「なに?」
「なんで私に笑っていて欲しいの?」
「……なんでだろう」
「ねえ、教えてよ」
「沙苗さんは笑顔がよく似合うから」

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