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【連載】カーニバル 第3回/全5回

それらの会話を店員さんに聞かれないように、私たちは静かにやり取りをした。そもそも、私はそんなに洋服と言う物に興味がない。洋服という物は肌を露出しないために着るものであって、それ以上の意味を見出すことが私には出来なかった。いや、もちろん絶対に着たくないと思う洋服もあるけれど、高いお金を出してまでどうしても着たいと思う洋服なんて一つもなかった。だから私にはブランドというものの価値がいまいちよく分からない。
「とてもお似合いですよ」
店員さんは私たちの元まで来て、やっぱりさっきと同じようなことを言うのだ。
「いや、でも私こんなに高いのはちょっと買えないので」
と正直な気持ちを言った。それにこんな高いもの別に欲しくもない。だけどそれは高いからであって、その洋服のデザインは少し(いいな)なんて思っていたりもした。
「えー、この前ボーナス入ったんでしょ?買っちゃえば?」
なんのつもりか茜ちゃんは横からそんなことを言い出す。私が少しでも良いと思っていることを察したのかもしれないし、特に意味もなくただ言っただけなのかもしれない。
「そのお色はあと一点のみとなっておりますので……」
不覚にも、私は店員さんの言ったその言葉で少し心を揺らしていたりもした。初めて私に届いた営業トークだった。
「いや、でも……」
そこでやはりその金額は私を踏みとどまらせていて、その、あともう一歩は随分と遠くに感じられる。

 それから少しして私たちは店を出た。店員さんの言った「ありがとうございました」という言葉に押されながら店を出た瞬間に、私たちの耳に街の喧噪が入り込んでくる。
「思い切ったねー!」

茜ちゃんは笑顔だ。そして、私だって少し興奮してたりする。私の右手に持たれた袋の中にはベージュ色のダウンジャケットが入っているんだ。



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