ミッドナイトnoteヘッダー

『短編』あなたが好きなあの人より、あなたが好き 第1回 /全7回

「いやー!ほんとっ!今日は飲み過ぎたわー!」

飲み過ぎたならさっさと帰ればいいのに、まだ帰らずにいるってことはそれなりの余裕があるか、もしくは誰かを当てにしているか……。あ、だめ。私はすぐそうやって冷静に物事を分析しようとする癖があって、ついこの間それを改めようと思ったばかりだった。

「奈々ちゃんは、今日楽しかった?」

ほとんど喋ったこともないのに、突然下の名前で呼ばれてなんだか少し嫌悪感。

「奈々がまだいるってことは、楽しかったって証拠ですよー」

私が喋るよりも前に、隣にいた美希が答えた。

「そう?それなら良かった!俺たちのサークルなんてさ、普段がっつりパソコンにはりついてばっかりだから、こうでもしてたまにはストレス発散しないとね!」

サークル長のその人は、楽しそうにそう言っていた。……ああ、どうしてまだ私はこんなところにいるんだろう、って思いながら目の間にあるカルピスを一口飲んだ。

「ちょっとお手洗い」

私がそう言って席を立つと、「あ、私も!」と美希も席を立った。

「出たー!連れション!」

と陽気な声を上げるその人を無視して、私たちはトイレに向かった。

「ちょっと奈々。もう少し楽しそうにしなよ」

「え?楽しそうに?……無理でしょ、それは。だって楽しくないんだもん」

「そう?私は結構楽しいけど」

「美希が楽しいからって私が楽しいとは限らないでしょ?……大体、なんで今私がここにいるのか分かんないし」

「それは私が無理やり連れて来たからでしょ?」

「分かってるんじゃん。だから、私は別に来たくはなかったの」

「奈々ー、怒らないでよ。だってなんか私だけで行くの嫌じゃない。会話持たないし、なんか辛いよ」

「そう思うなら最初の飲み会が終わった時に帰れば良かったんだよ」

「それは少し物足りなかったの」

「よく分かんないな、それ」

「私もよく分かんない、それ」

「ちょっと真似しないで」

「ちょっと真似しないで」

私は黙ってトイレを出た。「待ってよー」と後ろから美希が付いてくる。

*********************
アマゾンKindleにて各種電子書籍を販売しています。https://furumachi.link/kindle/

その他短編小説はこちら↓
■古びた町の本屋さん
https://furumachi.link

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?