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長編小説『becase』 35

「それでな、あいつは、だから離れる事になってしまったのかもしれませんって言ったんだよ」

「……それで?」
核を遠回しに話すでんぱちの話し方にはまだいらついていたけれど、彼の話す言葉の一つ一つを逃してしまわないように、私はその遠回しな話に付き合った。

「今もこの辺りに住んでいるのか?って聞いたら、友達の家にいさせてもらってますって……」

「友達……」
彼の友達を私の記憶の中で辿ってみた。でもいくら考えても彼が私の他の誰かと一緒に居るその画を想像する事ができない。実際、私がそういった場面を見ていないと言う事も大きな要因の一つだけど、彼自身が自分の友達という存在をおおっぴらに話す事がなかった事も大きな理由の一つだと思う。彼に友達など、いたのだろうか。

「彼はこの辺にいるの?」

「それは分からん」

「でも、友達の家に居るって言ったのよね?」

「ああ、確かにそう言ってたよ」
彼の友達、しかも彼を家に上げてあげるような仲の良い友達。

「心当たりないのか?」

「……ない」

「ないって……なんでそんな事知らないんだよ」
呆れたように、嗄れた声のままででんぱちがそう言った。

「知らないものは知らないのよ」
呆れた顔を向けるでんぱちになのか、彼の友達を思い出す事もできない自分になのか、私は酷く腹が立ち、賑やかな商店街の中心で私は酷い孤独感に苛まれた。

「ほら、よく考えてみろよ。昔から順に記憶を辿ってみてよ」

「分かってるわよ。今それをやってるんじゃない」
私のイライラを助長するようにでんぱちが言葉を足してくる。

「お前達が初めて会った時から考えてみりゃいいじゃねえか」
私と彼が初めて会った時、私と彼はどうして一緒に暮らす事になったのだろう、そもそも、私と彼はどうして付き合う事になったのだろう。

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