少なくとも

『短編小説』第11回 少なくとも俺はそのとき /全17回

 パソコンの画面に映し出される、デフォルメされた姿、形、輪郭、表情は、決して実写では表現ならないものだった。いくら頬を赤くしようが、表情を豊かにしようが、やっぱりそこに人間の温かみなんてこれっぽっちも感じられない。平面上に映る、表面なだけの女の子。奥行きのない薄っぺらい女の子。人間のいらないとされる無駄を省き、良いところを更に、人の願望に合うように作られた偽物。それなのに俺はそんな薄っぺらい女の子に興奮していた。頭では分かる。「くだらない」とさえ思う。それなのに、そのくだらない対象は俺を見つめては興奮に値するのだった。
「女の裸の何がいい」
オーガズムを迎えた後、俺はぼんやりとそんなことを口にした。暗がりの中、やかましいくらいの音楽が流れる中、男たちは必死で女の体を必要としている。店内で見るあの光景が、アニメに傾倒するようになってから異常に見えてくる。同じ人間だ、人間が人間を求めているその様子がなんだか恐ろしくも感じられる。どうしてそんなに興奮出来る?何を見て興奮している?昔持っていたはずの感情は、いつしか本当になくなってしまったのだと突きつけられる。嘘だと思いたい、最初はそういった感情もあった。ただ今となっては、そんなことも思わない。俺にはアニメさえあればいい。こっちの方が、自分の必要としている時に必要な分だけ満たしてくれていい。相手が人間じゃない分、鬱陶しいいざこざだってない。自分の好きな時に求め、必要としない時だって相手のことを考える必要だってない。なんて自由なんだ、なんて、都合がいいんだ。
「寂しいな、それ」
彼は俺にこの前そう言った。「寂しい?」俺は自分が言われていることをよく分かっていない。……いや、本当は分かっているのに、分からないようにしていただけなのかもしれない。
「人はやっぱりさ、人と生きていくもんだろ?」
「……別に人間関係を否定なんてしてない。ただ、興奮の対象が変わっただけで」
「本能を欠いてるよ、それ。男は元来種を蒔く生き物だろ。それで繁栄した訳で」
「種は蒔いてるさ。受け取る相手がいないだけで」
「ちゃんと受け渡せよ。それが男の仕事だろ」
そりゃ、俺だってまた、そうなれるならそうなりたいさ。だけど、そうなれないのだから仕方ない。俺自身にどうにか出来ることじゃない。これはどうしようもないことだ。

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