見出し画像

のび太がジャイアンに勝つためには、作戦を練り上げるしかなかった。 #坂の上の雲

日本人がちょんまげと刀を外してからわずか30年。日露戦争で、大国ロシアをやぶってしまった。

歴史の授業で習ったことはあったけど、冷静に考えてみるとなぜ勝てたのだ?と疑問が浮かんでくる。

当時、勝因を正確に分析した新聞はなく、次第に「日本には天運がついているのだ」という精神主義へと向かっていったらしい。

司馬遼太郎の「坂の上の雲」
興味の赴くままに全8巻を読了した。

日本人が初めて、自分達を「日本人」だと認識した明治時代。日清戦争から、日露戦争までの歴史を背景に物語は進む。

司馬遼太郎は、背水の陣で戦った日本の必死な作戦が、油断していたロシアを破ったと結論づける。


のび太がジャイアンに勝つためには、作戦を練り上げるしかない

弱小国だった日本がなぜ勝てたのか。
坂の上の雲のあとがきで、例え話が書かれている。

日本政府がやった対露戦の戦略計画は、ちょうど綱渡りをするような、つまりこの計画という一本のロープを踏み外しては勝つ方法がないというものだった。
ロシアという大男の初動動作の鈍思さを利用して、立ち上がりとともに二つ三つなぐりつけて勝利のかたちだけを見せ、大男が本格的な反応を示し始める前にアメリカというレフェリーにたのみ、あいだへ割って入ってもらって止戦にもちこむというものであった。
緒戦ですばやく手を出してなぐりつければ国際的印象が日本の勝利のようにみえ、戦費調達のための外債もうまくゆく。アメリカも調停する気になる。この点を一つでも踏み外せば、日本は滅亡するという際どさである。

「坂の上の雲 8」p319

ドラえもんでいうと、ロシアはジャイアン。
日本はのび太。
調停役のアメリカは先生みたいな感じ。

普通にやったらのび太は、体格差でも体力でも負けてしまう。
もしも負けたらドラえもん(しずかちゃんでも良いけど)を奪われる状況。
絶対に勝たなくてはならないのび太は必死で作戦を考える。

初手で落とし穴を作って、ジャイアンを網で引っ掛けて、すぐに先生に勝ち負けを判断してもらったらどうだろう。

ジャイアンはきっと油断しているから、罠に引っ掛かる。
けどすぐにその力で網を引きちぎるかもしれない。
なので、網に引っかかった瞬間に先生に勝敗を決めてもらうことにした。

作戦は的中。のび太は勝利を演出できた。

事実を知らないと、間違った方向に向かう

結論、背水の陣に立たされた日本が、油断しまくっているロシアを作戦で倒したように見せた。という感じだろう。

決して日本に、神の加護があったわけではなかった。

戦後の日本は、この冷淡な相対関係を国民に教えようとせず、国民もそれを知ろうとしなかった。むしろ勝利を絶対化し、日本軍の神秘的強さを信仰するようになり、その部分において民族的に痴呆化した。

「坂の上の雲 8」 p320

一方で当時の新聞では正しく勝因を伝えなかったために、精神性を重要視するようになった。
日露戦争は神の加護があったから、ロシアに勝てたのだ。

それならば、これからも日本は勝てるに決まっている。

分析を誤った先にある結果は、誰もが知る通りだ。

なぜ負けたのか、なぜ勝てたのかを分析することの重要さ

翻って現代でも分析をしないと、大きな失敗をしてしまうかもしれない。

例えばテストで結果が出なかったとする。
一方で対して勉強してなさそうな、友人はテストで高順位を出した。

ああやっぱり今回もダメだった。
勉強してないあいつは成績良い。やっぱり才能なんだな。
才能がない自分が努力したって無駄なんだ。

これ本当にそうなのだろうか。

もしかしたら、自分の勉強のし方が間違えているのかもしれない。
目標の設定は正しかったのか。
そもそも勉強時間は足りていたのか。

友人は陰で猛勉強していたのでは?
ノウハウを知っていて、効率良く学習していたのかも。
先生と仲良くて、こっそりポイントを聞いていたのでは?

成績が悪いのは、「才能ではなくて、理由を知らないから」ではないか。

自分には才能があるから。才能がないから。

分析をしないと、長い目で見たときに大きな失敗をしてしまうかもしれない。

歴史小説はやっぱり面白いのだ

こんな感じで、小説としての面白さもさることながら、いろいろな気づきをもらえた。

最後に坂の上の雲のあとがきで、好きなフレーズを紹介。

明治時代の楽天家たちは、そのような時代人としての体質で、前のみを見つめながらあるく。
のぼってゆく坂の上の青い点にもし一朶(いちだ)の白い雲がかがやいているとすれば、それをのみみつめて登ってゆくだろう。

「坂の上の雲 8」 p312

ちょんまげを外して30年。一丸となって大国に追いつこうと必死になった時代。
生活は楽ではなかったし、人権的な問題だってたくさんあった。

だけど、「あの坂の上を登り切れば、自分達ももっともっと豊かになれる。」と信じて進んだ瞬間は、充実なんて言葉では言い表せられない高揚感があったのかな。
なんて読了後思った。

この記事が参加している募集

読書感想文

歴史小説が好き

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?