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人生を左右した空白の9ヶ月

使命や人生における役割は、探し回って見つかるものではない。しかし、それらは、いつも自分の周りにいて、時には喜びを、また時には逆境や試練などを与える。そうした時を経て、自分の心の準備が整ったふとした時に手のひらにのる。それをそっと握りしめた時が天命を自覚するときである。前職を辞してから鎌倉投信を立ち上げるまでの空白の9ヶ月でそのことを自覚した。自分の役割は、見つけるものではなく、与えられるものなのである。


想いだけでは事業は成立しない

2008年2月、大きなプロジェクトの終了を見届けて外資系運用会社を離れました。その時は、「本当に社会に必要とされる運用会社」、「人と未来社会を豊かにする投資を実践する運用会社」を自ら立ち上げてみたいと漠然と思ったものの、想いだけで事業が成立するほど人の大切なお金を預かる資産運用ビジネスは甘くはありません。

運用会社というと、ファンドマネージャーと呼ばれる運用者に注目が集まりがちです。実のところ、それは運用会社が持つ多くの機能の氷山の一角にすぎません。お金を託していただく投資信託などの運用商品を組成し、運用を継続するために必要な機能は、運用や運用商品の仕組みを支える業務やシステム、コンプライアンスなどの内部管理、会社としての経営管理、販売を自社でやるのであれば販売に関わる機能が欠かせません。運用会社を創業するには、まずは、そうしたいくつもある機能をゼロから立ち上げることができる、「想い」と「スキル」を兼ね備えた人が、同時に集まることが必要不可欠なのです。

事業を成功に導く「天の時、地の利、人の和」(孟子)

歴史上の出来事や事業の成否を決めるのは人智を超えたところにある。どんなに優秀な経営者、指導者がいても歴史的にみると成功する事業は決して多くない。実際に、志を持って起業したものの、5年後には約半数の会社が、10年後には約8割の会社が閉じてしまうのが厳しい現実である。事業は、孟子が残した言葉「天の時、地の利、人の和」が揃った時、初めて成功する。取り分け「人の和」、つまり、何をやるかよりも誰とやるかは、最も重要な要素である。鎌倉投信は、奇跡的に「人の和」に恵まれた。

そこで、僕は、まず、こうした役割を担ってくれそうな人を探しました。その中で、確信を持って目星をつけたのが前職の同僚の3人でした。その3人は、仕事上の関係が特に深かった訳ではなかったのですが、仕事ぶりを遠目に観ながら、この人なら、と直感したのです。

そして、「一緒に会社を起こしませんか」と、個別に声をかけ始めることから始めました。ある時、その内の一人が、「一度4人で集まってみたらどうか」と僕に提案してくれました。そして4人で初めて顔を合わせたのが2008年の春、川崎のとある公共施設の和室でした。そこで半日貸し切り、何か共にできないかを議論しました。鎌倉投信は、ここから設立に向けて動き始めたのです。

そこから毎週のようにミーティングを重ね、2008年7月某日、後に鎌倉投信を創業するメンバー4名は山梨県にいました。まだ社名も決まっていないこの時期、会社の理念や存在意義、事業モデルを議論するために、膝をつけ合せて合宿をしていたのです。

気心の知れたメンバーとはいえ、個々の想いや生活環境は必ずしも同じではありません。阿吽の呼吸という思い込みが、後になって意外なずれを生じさせることも多々あります。それだけに、はじめに事業理念を共有し自分たちの立ち位置を明確にする過程は、重要であり、一方で簡単なものではありませんでした。僕らは、決してその結論を急ぐことなく、時にはお互いの考えの甘さを厳しく指摘し合いながら、時間をかけて熟成させていったのです。

腹落ちさせた経営理念は困難を乗り越える力になる

起業の時に、まず会社を設立して、徐々にキーパーソンを集め、経営理念や事業モデルを固めていく方法がよく採られる。そうした柔軟性が求められる時もある。しかし、誰と、何を志し、どのように実現するか、を腹落ちさせて起業しないと、外部環境の変化によって軸がぶれて、存続のためには何でもする会社になりかねない。鎌倉投信は、経営理念とそれを実現するための青写真を描き、創業メンバーがそれを共有し、腹落ちさせてから会社を設立した。会社設立までの空白の9ヶ月間の深い議論が、その後に直面する困難を乗り越える力になった。

今は若干修正されていますが、この合宿の時のメモには、このように記されています。

創業の理念「個人投資家が一生涯安心して預けられる運用商品の提供と長期投資の考え方に根差した資産運用を社会に広めることを通じて金融的な豊かさと心の豊かさを実感できる社会作り、人の輪、夢の輪が育まれる社会作りに貢献する」

僕らの考えが、この基本理念で一致したとき、メンバーの一人は、この想いを「3つの『わ』(和・話・輪・・・)」と表現し、もう一人は、鎌倉投信の存在意義は「場」の創造だと語りました。鎌倉投信が、単にお金の媒介、資産運用という金融的機能を超え、「3つの『わ』を育む『場』の創造」を目指した事業構想の実現に向けて動き始めた瞬間でした。

その言葉は、今では、鎌倉投信の志の中に謳う「ありたい姿」として、「調和を生む「和」の心を大切にし、「話」と出会い、「輪」がつながる、こうした3つの「わ」が育まれる「場」としての運用会社でありたい。」に進化し、色あせることのない鎌倉投信の根本精神になっています。

鎌倉投信の志:https://www.kamakuraim.jp/company/philosophy/

こうした志を持ち、かつ実務家としても有能で、新しいものを創造する気概にあふれたメンバーが揃うことは、とても偶然だったとは思えません。その時は、天から「迷わずに進みなさい」と機会を用意されたように感じたものです。それと同時に、僕にとって、人生の中でやり遂げなくてはならないこと、人生における役割・使命をはじめて自覚した瞬間でもありました。

余談・・・神様からのご褒美

人生にタラレバはないのですが、もし、僕が前職を離れる時期が半年遅かったら、鎌倉投信はありませんでした。なぜなら、僕が前職を離れた半年後にリーマンショックが起き、世界の金融・経済は大混乱していたからです。そうした時に、会社を辞めることは立場上できませんでしたし、無理に辞めたところで退職金は出ず、多額な資本金を必要とする運用会社の設立資金を拠出することは到底できなかったからです。

業界の人からは、リーマンショックが起きる前は、ある程度確かな地位や給与を捨ててまでどうして会社を辞めるの?もったいない、と言われたものです。しかし、リーマンショック以降は、本当にいい時に辞めた、と褒められました(笑)。

リーマンショックを予見していた訳ではありませんが、運(天の時)に恵まれたと思っています。

長々とnoteにお付き合いいただきありがとうございました!


次回は、「天の時、地の利、人の和」の「地の利」、なぜ鎌倉に本社を構えたか、について書こうか、「天の時」、「運」について書こうか迷ってます。

次回も、ぜひ、読んでください。


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