見出し画像

Snowcouver 〜パイナップル・エクスプレス〜

パイナップル・エクスプレスが接近している。

この陽気でトロピカルな名前の正体は、北国のカナダからは遠く離れたハワイからやってくる低気圧。

カナダの西海岸に寒さや雪をもたらす低気圧は大まかにわけて2つ。
一つはアラスカや北極圏から降りてくる寒気で、湿度のないサラサラの雪と外に出た瞬間に冷凍庫の中にいるような寒さをもたらす低気圧。

もう一つは、気温は氷点下を下回るかどうかの穏やかな温度だが、湿った空気と一緒に大量の雪や雨を降らす、遠くハワイからやってくる低気圧。

パイナップル・エクスプレスが来ると、バンクーバーのようなシー•レベルにある街は大雨となり、山間部は牡丹雪のような湿気を含んだ大雪が降る。
その嵐っぷりは、冬の台風のようでもある。

いずれにせよ低気圧の到来には心が躍る。
街の人はどうだか知らないけれど、スノーボーダーの自分にとっては降雪は恵みに他ならない。

スケールのでかい海外の山で滑ることを夢見てカナダにやってきたのはかれこれ12年前。
今まで滑ってきた日本の山とは違い「At your own risk」、自己責任というルールの中において、知識と技術があればスキーバウンダリーを越えて、スキー場内では感じることのできない「本物の雪山」と対峙することも簡単にできる。

雪山の魅力と圧倒的な自然感、そして同じく雪山の魅力に取り憑かれたヤツらとの出会い、「スノー」を共通言語に広がる世界。
その魅力にハマり、ビザの許す限り夏は日本で働き、冬はカナダに戻る。という生活を数年繰り返した。

運のいいことに、当時バンクーバーでオリンピックが開催される関係で、申請した人のほとんどが簡単に永住できた。
自分も御多分に漏れず、そのタイミングに乗っかり英語のテストを受けることなくすんなり永住権を取得した。

だけど、最近は審査が厳しくなって、「とりあえず永住権とっておけば?」と言うノリはもう通用しないらしい。

ま、でもそのほうが本人たちにとってもいいだろうとも思う。

この12年間、雪山を通して数百人の日本人に出会った。

雪山に惹かれてきたヤツ、スノー界で上を目指すアスリート、草を自由に吸いたいヤツ、純粋に海外生活を体験したいという真っ当なワーホリの子。

そりゃあ、誰にもジャッジされることもなく、毎日滑って遊ぶ生活は楽しいよ。草だって自由に吸える(合法になる前からもだけどさ)。
At your own riskでね。

日本とは違う解放感がある。
ここに住みたい。

と、みんな言う。

そういう奴らが100人いたとして、その中の40人がなんらかの形で残る方法を模索する。ワーホリ、ワークと繋いでも永住権がとれるかどうかわからない待ちの数年を耐えられるかどうかが一つの難関。
その時々のイミグレーションの方針にもよるけど、実際に永住権を取れるのが15人。カナダ人のパートナーと出会って結婚するってパターンも女の子に多いか。

でもその半分以上は、結局どこかのタイミングで日本に帰っていった。

「滞在する」のと「根を張って暮らす」のはやっぱ違うんだよね。
物価とか、仕事とか、家庭を持つとか。

ま、なんだかんだ言って言葉の壁が厚いみたい。

カナダでどうしてもやりたいことがある とか
日本にはどうしても住みたくない とか

強い理由がないと、なかなかね。
メシもうまいし、キレイだし、日本も住みいい国だしなあ。

残っている奴らのほとんどは、あちこちに散って暮らしてる。
ビジネス起こしたやつもいるし、カナダ文化に完璧に溶け込んでるやつもいる。みんな、所帯を持って、それなりにやってる。
そんなわけでなかなか会えなくなったけど。

だから、ま、簡単には永住できない今くらいの方が、本当に根性と覚悟があるヤツだけがふるいにかけられていいんだろう。

しっかし、今年はよく雪が降る。
天気予報によると明日と明後日は大雪。
その次の日は視界が良くなりそうだ。

その日を狙って、パウダースノーを頂きにいこう。
この風向きからして雪が溜まってるエリアは北側の斜面だろう。
何年いても、ワクワクする。

ハワイを遠くに感じて。

つづく



****☺☺☺****
カナダで暮らして20年。たくさんの人達と出会い、永住する人、帰国する人、そのあいだの葛藤と希望を見てきました。
「永住するってどういうこと?」をテーマに、オムニバス形式で、限りなくノンフィクションに近いフィクションを綴っていこうと思っています☺
「カナダ暮らし」のマガジン登録して頂けると新しいお話のお知らせがいきます。ポチしてね。



最後まで読んでくれてありがとうございました!また目に止まったら読みにきてくださいね♪フォローやスキは励みになります!