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3 瓦割りの心得。

瓦を割ってみたいなぁと、実は以前から思っていた。

というのも、前からアクションをやっていて、それを知っている方からすればそういうイメージはあるものの、実際に見たことのない人はピンとこないだろう。だから、なんというかこう、見てわかる感じにできないかなぁと思っていた。
あとは、シンプルに好奇心だ。瓦割りに使う瓦は割れるようにできているというけれど、私のこの拳は果たして通用するのか。挑戦してみたかった。(お前は武術家か?)

ある時「瓦割ってみたい」という旨をTwitterで何気なくつぶやいたところ、役者仲間の石戸貞義くん(くんで良いのか?さんか?)こと、いっしーが「行こうよ!」と誘ってくれたので、ついに実現するに至った。浅草は花やしきの裏手にある「瓦割りカワラナ」というお店に行く約束をした。

―――約束の日の、1週間ほど前。
これは、いっしーにドン引きされたらいやだな…と思ってあえて話さなかったのだが(彼なら肯定してくれそうではあるが)瓦割りのコツをめちゃくちゃ調べた。もう、めちゃくちゃ調べた。そして、それを参考に考えた。
結果、導き出されたコツはこの二つだ。

その一、正拳突きより鉄槌。
正拳突きは見映えとしては強そうで理想的ではあるが、難しい。真下にまっすぐに力をかけるには不向きな動きだ。きっと軌道が斜めになって力を逃してしまうだろう。
しかも、打ちどころが悪かった場合、ボクサー骨折をしかねない(その昔、養成所の同期が床に正拳突きをかましてボクサー骨折をしたのを見たことがある)。もうすぐ稽古が始まるというこの大事な時期に、怪我をするなんてのは論外である。怪我防止の意味も含めて、ここは鉄槌一択だ。

その二、「割れる」というイメージ、もとい「割り切る」という強い意思。
これまでアクションで人を殴る蹴るなどはたくさんやってきたが、基本的には「寸止め」である。私が学んできたアクションは「痛くなく、痛そうに見せる」のがポイントなので、フルパワーで当てたり振り抜くようなことはほとんどない。あるとすれば、演出的な意図があり、きちんと受け止め切れる(または避けられる)相手のときだけだ。あとは、稽古でのミット打ちとか。
今回は実際に瓦にフルパワーで拳を当て、なおかつ力を下まで伝え切らなくてはならない。無機物が相手とはいえ「実際に拳を当てて破壊する」ということに対して、ちょっと心理的なブロックみたいなものがあるのが、自分でもわかる。
"「割れないんじゃないか」と思いながら割ったからここまでしか割れなかったけど、「割れる」と思って割ったらもっと割れたと思う"と書かれた経験者のブログを見つけた。ああ、意思が大事なのだ、と思った。理論的な「こうしたほうが割りやすい」とかも大事だが、結局イメージや意思が勝つのだ、こういうのは。絶対に下まで割り切るぞという、強い意思。毎晩のようにイメトレした。

が、ふと思う。
たしかに、積まれた枚数がきちんと割れたらそれは最高に爽快だし、クールだろう。しかし、本当は成功か失敗かなんてどうでもよくて、未知のことに挑戦するということにこそ価値があるのだ。挑戦の結果失敗したとしても、今の私ならきっと笑えるはずだ。

―――そして迎えた当日。
雷門前で待ち合わせて、いよいよ「瓦割りカワラナ」へ向かう。

この幕で一目でわかる!

朝イチだったので待ち時間などもなくすぐに通してもらえて、同意書にサインする。
お店の方は気さくで盛り上げ上手なお兄さんだった。説明を受け、動画も見せてもらいイメージが膨らんだところで何枚に挑戦するかを選ぶ。
「女性の平均は大体5.5枚ですね。ちなみに、お店の最多記録としては15枚です」
お兄さんが教えてくれた。
「5枚だと簡単かなって思う人は10枚か、願掛けチャレンジ8枚っていうのもあるのでどっちかを選ぶ人が多いですね〜」
ちなみに願掛けチャレンジは結構ちゃんとご利益があるらしいぞ。

私はまさに、10枚か8枚かで迷っていた。
5枚ではインパクトが薄い。そのくらい割れるでしょ、みたいな空気をどこからともなく感じることになる気がする。つまらん。実につまらん。見てくれる方々的にも、きっと面白くないだろう。
じゃあ、10枚か?平均のほぼ倍って本当に割れるのか?こちとら初心者ぞ??不安〜!すごく不安〜!!でも8枚はちょっと中途半端だし、だったら10枚にチャレンジしたけど結果8枚しか割れませんでした、のほうがまだ面白い気がする……。

悩んだ末に、やはりここは10枚に挑戦することにした。いっしーも10枚にするという。
準備の間の待ち時間、ド緊張する私といっしー。遊びに来たようなものなのに、二人とも緊張しすぎてファーッとなっていた。なんだこれ。誰だよ、「未知のことに挑戦することに価値があり、結果は関係ない」とか言ってたの。今、めちゃくちゃ成功してぇよ。10枚割りてぇよ。絶対に失敗したくねぇよ。

積まれた瓦を横に、お兄さんが親切にコツをレクチャーしてくれた。やっぱり動画で見たり文章で読むより、実際に見せてもらい、やらせてもらうほうがわかりやすい。まさに「百聞は一見に如かず」だ。「もっとこうしたほうがいいです」と教えてもらえるのもありがたかった。なんだかいけそうな気がしてくる。
しかし、いざ瓦の前に一人で立つと、また緊張に襲われた。大失敗して1枚も割れなかったらどうしよう。そんな最悪の想像を振り払い、目の前の瓦に集中する。ここに拳を振り下ろせばいい。いつだってやるべきことは至ってシンプルなのだ。
ええいままよ!覚悟を決めて拳を振り下ろす。―――わ、割れた!割りながら驚いていた。心の中で「瓦割れとるー!!」と叫んでいた。自分が割ってるのに。なんだそれ。
結果、10枚すべてを割り切ることに成功!実際の割りっぷりは、Twitterで公開する動画でご覧いただきたい。
ちなみに、いっしーが「流石、残心までカッコいい!」と褒めてくれたのだが、実を言うとびっくりして割り切った体勢のまま一瞬放心していたのだった。

割れた瓦には、半分に割れているものと砕けているものがあった。不思議に思って眺めていると、お兄さんが片付けながら教えてくれた。
「砕けてるのは、より強い力がかかった証拠ですね」
「…つまり、10枚以上割れる力がかかってたってことですか?」
そういうことです、とお兄さんは頷いてくれた。
「というか、上の瓦は綺麗に二つに割れてるのに途中の瓦が砕けてますね。武術的な何かを感じますね」
いっしーが「おなかにパンチして背中にダメージ与えるみたいなやつだ」と秀逸な喩えをしてくれた。バトル漫画のキャラクターか?私は。物語の中盤くらいで敵として現れて主人公を苦しめそうだな。
何はともあれ、割れた!そして枚数的にはもう少し上を目指せそうだということもわかった。この時点で、また来よう、と思った。あんなに緊張していたくせに、我ながら現金なやつである。

次はいっしーの番だ。私がしっかり割ったからか、お兄さんが「これはもう割るしかないですね!」などとドチャクソに煽っていたのが面白かった。自分のターンが終了したので気楽なものである。
もちろんいっしーも10枚割れたし、何なら私よりも砕けた瓦が多かったのでもっと伸びしろがある感じだった。割ったあとの第一声が「よかった〜!!」だったのがいっしーっぽくてよかった。(ちなみに私の第一声はなぜか「押忍!」)(元空手部とかではない)
割ったあとのリアクションにも、性格やその時の精神状態が如実に表れるのが面白かった。

手前の瓦はいっしーが割った瓦ね。
※撮影時のみマスクを外しています

そんなわけで、瓦割りはとても楽しめた。「最近面白いことないな~」と思っている人にもぜひおすすめしたい。割れたらすっきりするし、多分割れなきゃ割れないでそれも話のネタになる。実際「こないだ浅草に瓦割りに行ってきたんだ」と言ったら「何それ〜!」とリアクションがもらえた。
もっと大人数で来るとさらに盛り上がりそうなので、今度は他の人も誘って来たいね、といっしーと話していた。
日頃のストレスがたまっている人、己のパワーを試したい人、瓦割りに行こうぜ。私は、次は15枚にチャレンジしたい。

そんな私といっしーの出演する舞台「ヒドラの景。」劇場観劇チケットは明日9/25(日)10:00発売だ!

今回は劇場公演×配信公演。

精神科の閉鎖病棟を舞台に、ネガティブポップなインプロ作品をお届けするぞ!

いっしーは恐怖症患者の小学生
億沢ビリー役。
村田は依存症患者の高校教師
住田十勝役。

いっしーは両班出演だけど、村田は🅰️ヒトトオリver.のみの出演なのでご注意を。
二人とも劇中で瓦は割りません…多分。

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