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意味のイノベーション。ロベルト・ベルガンディ教授の授業。 Vol.1


ロベルト・ベルガンディ教授の著書を読み、教授にメールをし、ミラノ工科大学での学びを決めた私。ロベルト・ベルガンディ教授の授業は、内容の興味深さだけでなく、イタリア流の華麗なストーリーテリングで引き込まれる。

意味のイノベーションとは何か

イノベーションプロジェクトでは、よく「デザイン思考」が用いられる。これまで資生堂のイノベーション開発で、私は約2年間、IDEOと共同で様々なプロジェクトを行い、デザイン思考には素晴らしい面があることを実感している。IDEOは、私がデザインマスターに進もうと最初にインスピレーションを与えてくれた存在。

しかし、一方で、何かが欠けている気がしていた。

その理由が自分自身がデザインを深く理解できていないからなのであれば、大学院に行って学びたいと思い、デザインマスター留学をすることに。同時にその時、ベルガンディ教授が、2009年に出版した著書『デザイン・ドリブン・イノベーション』と、2017年に出版した著書『Overcrowded(突破するデザイン)』を読み、製品に新しい『意味』を与えることで革新的な変化を促すイノベーションを起こす、という考えに共感をしたのが、今ここ、ミラノにいる始まりだ。

 ベルガンディ教授は、イノベーションにはふたつのレイヤーがある、という。

ひとつが意味、もうひとつがソリューション。意味とはそもそもイノベーションを起こす動機で、根源にある目的であり、「方向性(Direction)」と「なぜ(Why)」だ。

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ソリューションは、それを達成するためのプロダクトやサービス という手段で、どのように意味を達成するか、にあたる。もちろん、ソリューションだけで十分にイノベーティブな事例もある。

しかし、ベルガンディ教授は言う。

デザインの語源は、ラテン語de + signareである。何かを作り、記号で区別し、意味を与えることを意味する。

この本来の意味に基づいて、次のように言うことができる。

デザインとは、意味形成(センスメイキング)だ。

センスメイキング(意味形成 )とは、文字通り、意味(sense)の形成(making)であり、人間が意味を与える過程を言う。重要なのは、センスメイキングを行う人物が文化的、社会的背景を理解した上で、コンテクストを読み取り、新たな意味を想像するということ。

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さらに、ベルガンディ教授はこう続ける。

「人々の問題解決をし、満足させることよりも、人間が生きるこの世界にとって、良いものをデザインするためのビジョンを提案することで、イノベーションを追求するのだ。」

授業の中では、様々な企業の事例をもとに、古い意味と新しい意味をクラスメイトたちと議論をした。


意味を考える上でのポイント

–「古い意味」で製品を識別するため、意味を数多く書き出す
–「方法」ではなく「理由」に焦点を当てる
–常に「古い意味」と「新しい意味」、それらをペアで考える(from ... to)
–「古い意味」はネガティブに捉えがちだが、「古い意味」においてもポジティブな意味に焦点を当てる。
–「I」を使用して、ユーザーの観点で意味がどう変化するかを考える
–真のユーザーは誰か

ここでは授業でディスカッションした例を紹介する。

ケーススタディ1:GoPro


カメラの古い意味は、

「 I want to record my memories(記録を残したい)」

というコンシューマーのモチベーションに基づいていた。しかし、現在は人々は記録することだけでは満足しない。

そこでGoProは、

「I want to live my adventure and share my adventure(アドベンチャーの中に生き、自分のアドベンチャーをシェアしたい)」

というインサイトにフォーカス。

つまり、カメラの古い意味は「Director(ディレクター)」、そして新たな「Actor(役者)」としての意味をカメラに与えたと言える。

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ケーススタディ2:Instax


また、カメラでいうと、「Instax (インスタックス。日本ではチェキという愛称の方がわかりやすいだろう)」がここ数年、世界で販売台数を急速に伸ばしている。

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スマホで手軽に写真を撮れるようになり、わざわざカメラという別の機械を持ち運ぶ必要性を多くの人は感じていない。「カメラ市場の縮小」が止まらず、キヤノンやニコンなど大手カメラメーカーの業績が苦しい中で、富士フイルムのインスタントカメラ「Instax (インスタックス、チェキ)」の売上は伸び、年間販売台数がついに1000万台の大台を超えた。では、カメラ市場に吹く逆風の中で、フィルムを使って撮り直しもできないインスタントカメラが人気を博しているのはなぜか。

販売台数の約9割は海外だ。主に欧米で売れているが、中国やインドなどの新興国でも販売台数は急激に増加している。スペイン人のクラスメイトもInstaxを持っており、必ずパーティーの時は持参している。また先日、デンマークのコペンハーゲンのデパートでディスプレイされた様子をみた。

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これは、「Taking Photo(写真を撮る)」 から「 Giving photo(写真をギフトして渡す)」という新たな意味がもたらされ、またスマホでいつでも写真が撮れるからこそ、その瞬間の思いをメッセージとして書き込んで渡せることなどが人々のニーズとマッチしたから成功したのだと言える。

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アイデアが溢れているこの世界で、イノベーションに求められているのは、

「ソリューション」ではない。「意味」である。


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書ききれないので、意味のイノベーションについては、何回かに分けてnoteに掲載をしていく予定である。



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