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合宿の意味を改めて考えてみよう

まだまだ猛威を振るっているものの、3年越しでようやく「対応し得る感染症」の1つとなってきた新型コロナウイルス。

コロナがもたらした数少ないミリット、という視点で考えてみた。

リモートワークの広がりであったり、オンラインコンテンツの充実、そして体調重視の考え方といったものが頭に浮かぶ。

風邪ぐらいでは休めないといった価値観がまん延していたが、体調不良を押して出勤が当たり前、という感覚はずいぶん薄れてきたのではないか。

私が関わるスポーツ現場においては、多くのスポーツチームにおいて「強化合宿が実施できなかった」ことは異例だったはず。

AFTERコロナであろう令和5年のタイミングで、改めて合宿の意義を考えてみたい。

合宿のメリット・デメリット

薄々感じてはいたものの、合宿ってもしかしたらデメリットの方が大きいんじゃないか。

2023年現在、私が率直に感じていることだ。

正直あまり声高に訴えるのは少々勇気がいる。しかし深層心理でトレーナー的仕事をしている人の多くは、
「やっぱり合宿あんまり必要ないな…」
と感じているのではと思う。

今まで行うことが当たり前だった合宿だが、改めてフラットな視点でメリットとデメリットを考えてみよう。

合宿のメリット

1.チームの結束力を高める機会になる
普段なかなかじっくりとコミュニケーションを取れない仲間やスタッフと時間がたっぷり取れる。この意義は大きいと思う。

チームの結束力が増すし、チーム愛も高まるというところは間違いなくある。「同じ釜の飯を食う」の価値は高い。

2.マンネリ化を防げる
マンネリ化を防ぐことができるというのも大きい要素だ。

いつもと違う場所に行って、自然がある場所だったりとか、違うところに寝泊まりをして、前後でお風呂入るところがあったりとか、レクリエーションを取れるところがあったり…

気分一新し、いつもよりも集中してトレーニングができるという部分もあるのも非常に理解できる。

2017年北海道北見キャンプ時のもの スタッフ仲良くなるいい機会にもなる


合宿のデメリット

1.突出した練習量の増加
通常練習の平均的な量よりも突出してボリュームは上がる、という点が最も大きいデメリット。即怪我のリスクが高まるからだ。

コーチや指導者が張り切る部分もあるし、選手自身も高いモチベーションを持って「強化するぞ!」という覚悟を持って臨む。

いつもより量が多く強度が高いのが当たり前!という意識なのだ。

私自身もそうやって考えていた部分がある。しかしサッカーやラグビーの現場での昨今のコンディショニング管理では、GPSを利用したモニタリングが当たり前になりつつある。

パフォーマンス向上を狙った調整や、疲労による怪我防止の観点から「Acute/Chronic ratio」といった概念が一般的になっている。

この概念は、簡単にいえば「上げすぎも下げすぎも怪我のリスクって高まる」というもの。

例えば普段は夜練習だったチームが合宿では、朝練、午前練、午後練みたいな三分練とかになると、通常量のセッションを行うと、あっという間に総量は3倍近くなってしまい、怪我のリスクも高まる。

一昔前であれば、アスリートレベルのコンタクトスポーツの現場でも、

・通常の3倍ぐらいの練習を10日ほどガッチリ行う
→「充実したキャンプだった!公式戦前に1週間ほどオフでリカバリー、リフレッシュしよう!!」

みたいな流れはけっこうあったものだ。

ただこのアプローチでは前述したA/C ratioで考えると、強度の差がありすぎる。

担当する競技が、ピークを作るタイプの種目であっても、最近の考えで言うと大きく上げ下げせず、なだらかに強度をつけていくというのが望ましい。

一般的な概念での強化合宿をすると練習量のコントロールは難しいのだ。

2.費用がかかる
合宿の総額費用は、一般的に想像できる範囲を大きく上回る。合宿には、旅費も宿泊費もかかり、ものすごく費用がかかるのだ!

アマチュアのみならず、アスリートスポーツでも厳しい経営状況によってチーム廃部に追い込まれたり、縮小したりということがどんどん起きている。

今まで通り合宿は敢行するが、結果的に部費が圧迫され、必要とされる治療器具が購入できなくなったり、スタッフの年俸が抑えられたり…ということも実際に起きているところもあるようだ。

3.スタッフの負担が半端ない
コーチやスタッフの負担も、とても大きくなる。スポーツ現場とは縁のない生活をしている人にとっては、想像を絶する忙しさだったりもする。

私もプロ野球チーム所属の春季キャンプの1ヶ月は、本当に思い出したくもないぐらいしんどかった。同じような働き方は、正直ある程度若くないとこなせない。

朝は5時台から起きて、夜は最終ミーティングが1時近くだった。2010年前後の状況であり、今は賢く改善しているケースもあるだろう。しかし2週間~1ヶ月続く長期合宿がある競技はそれでも心身ともに疲労困憊になる。

スタッフや運営側にかかる負担が著しく大きくなるということも、知っておくべき事実だろう。

天秤にかけ、いいとこ取りを狙え

合宿におけるメリット・デメリット、両者を天秤にかけることが現実的で大事なのではないか。

・安価なキャンプ地や、バンガローみたいなところを借りる
・アウトドア製品などを持ち込む
・不足分はレンタルする

例えば、学生スポーツであれば合宿という名目であっても、「チームビルディング合宿」みたいな名前をつける。全員が交流しチームの結束量を高めるという要素を前面に出した、2泊3日のキャンプをするというのはどうだろう。

天候がいいところを見計らって、バンガローで共同生活みたいなミニチームを作って、普段はあまり関わらないポジションであったり、学年が違うところをバラバラにうまくシャッフル。

ご飯作りやキャンプファイア、チーム対抗の球技大会などをしえt,みんなでワイワイ過ごすのが主目的。

もちろん練習もするが、練習は普段通りぐらいの午後に1時間から2時間、いつもより短いぐらいにしておき、それよりもコミュニケーションをとる、レクリエーションに時間をかける。

気分一新できるし、それほどお金も負担もかからずに、怪我のリスクなくチームを強くするということに寄与するんじゃないかなと思う。

アスリートスポーツでも同じようなキャンプをするのもいいだろうし、もう少しチーム戦略や戦術会議というのをたくさんする、どちらかというと体よりも頭を使うキャンプというのもありだろう。

またゆとりのある計画を立てて、しっかりと隔離して、選手たちを休養・栄養をとることで休ませるというコンディショニング的な、リカバリー目的を一つとしたキャンプもいい。

キャンプとか合宿という固有のイメージが、特に我々のような昭和世代のコーチ、指導者にはあるものため、鍛えなきゃとかもったいない、どんどん練習させなきゃって思いがちなのはわかる。

しかし後から振り返ると、あの合宿の怪我人がなければもうちょっとうまくチームが回ったんじゃないかといった経験は、私だけでなく多くの人が持っているものではないだろうか。

そう考えると、大きな大きな怪我をさせることなく、しっかりとチーム力を上げるということを考えたとき、必ずしもすごい練習量をやることは必要ないだろう。

合宿やキャンプのイメージを変えてみよう

少し話はずれるかも知れないが、2022年と、メジャーリーグベースボールもロックアウトに伴って大幅にキャンプが遅れた。

オープン戦も普段に比べて遅く始まっているが、それでも急激に怪我人が増えるといったことは、4月、5月、6月と起こらなかった。

その原因は、そもそもMLBでは春のキャンプの量や強度というのが、日本の春季キャンプとはちょっと性質が違う、初めから調整といったニュアンスが大きいものだからだと思う。

投手が先にキャンプインし、そこに野手が合流してのキャンプインとなったら、メジャーリーグベースボールってほぼ休みがない。その代わり、練習時間は、例えば9時から始まり11時半ぐらいで全体練習は終わってしまう。

自主練もできるけれど、午後はゆっくりと自分たちがリラックスしたり、リカバリーに充てるといった形で進んでいく。

初めから集まらないとできない投球であったり、試合形式の練習であったり、実践形式の練習をするのがキャンプの目的。

そこまでの間にトレーニングは済ませてきて、基本的にキャンプが始まると、野球の実践をギュッと集中して、160試合以上ある公式戦に向けて、90分~2時間しっかり動いて、しっかり休んで、それをずっと毎日続けるみたいな練習を繰り返す。非常に現実的だ。

我々日本人も、そろそろキャンプや合宿のイメージを変える時期に来ているのかも知れない。

やり方を変えるまでは勇気がいるが、思い切って変更してしまったら、意外とすんなりと受け入れられるのではないだろうか。

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