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「どうする賃上げ2024」第4回    ~「なぜ、賃上げするのか?」


1.はじめに

 毎朝の新聞に、賃上げ交渉結果の記事が載るようになってきました。
 私がお手伝いしている企業(社員約30名)でも、社長さんが給与改定を決定され、これから社員の皆さんと面談し、新給与を通知するそうです。

 春の給与改定・労使交渉もピークを迎えました。

 これまで3回にわたり、「定期昇給」「ベースアップ」「賞与」について、過去の経験なども踏まえて情報を提供してまいりました。

 最終回は「なぜ、賃上げを行うのか」について考えてみたいと思います。

2.賃上げの理由は?

 賃上げはなぜ行うのでしょうか? あるいは、何によって決まるのでしょうか?

 かつて労働組合の役員をやっていた頃には、労働条件向上という大目的のもと「物価上昇率+生活向上分±企業業績」というのが、労働組合の主張でした。

 実際には、企業業績(支払い能力)、物価上昇率、労働力需給、世間相場などによって決定されていることが多いでしょう。とりわけ物価上昇率については、過去から現在に至るまで、大きな要素となってきました(下図参照)。

 経団連の「2023年人事・労務に関するトップ・マネジメント調査」によると、昨春の労使交渉でベースアップを実施した理由は、①「物価への対応」36.8% ②「社員のモチベーション維持・向上」23.4% ③「人材の確保・定着率の向上」17.6% ④「世間相場・競合他社の水準を考慮」13.0%となっていました(下図参照)。

ベースアップを実施した理由

 昨今の物価上昇や、人手不足などの事情を考慮してベースアップを実施した企業が多かったことがうかがえます。

 東京商工会議所の「中小企業の人手不足、賃金・最低賃金に関する調査(2024年)」によると、今年賃上げ実施を予定している企業のうち、防衛的な賃上げ(業績の改善がみられないが賃上げを実施予定)としている企業が、賃上げを実施する理由(複数回答)は、①「人材の確保・採用」76.7% ②「物価上昇への対応」61.0%とのことで、経営者の皆さんの苦しい胸の内が感じられます(下図参照)。

業績の改善がみられない中でも賃上げを実施する理由

 本年度について言えば、コロナ禍から抜け出し、業績が回復しつつある中で、「物価上昇」「人材の確保」が重要なキーワードになると思われます。

3.経営者の皆さんの考えは?

 多くの経営者の皆さんは「がんばっている社員へ報いたい」「社員には豊かな生活を送ってほしい」「社員のやる気を高め、さらに企業を発展させたい」などというような考えをお持ちではないでしょうか。

 給与改定は、物価上昇や労働市場の需給などの外部要因に、大きく影響されてしまいがちですが、根底にはそのような考えがあることと思います。

 では、どう実現させていくのか。経営者の皆さんの考え(ポリシー)を、言語化し、明確に示すことが大切です。

 毎年毎年、経営環境は異なりますが、その考えを軸として、給与改定を行っていきます。単年度でできることは限られるかもしれませんが、同じ考えをもとに複数年にわたって給与改定を行うことで、実現に近づいていくことになります。

 かつて労組役員だった頃「業績にふさわしい給与」ということを労使で確認し、複数年にわたって、給与改定の交渉を行ったことがありました。そのために「若手・中堅層の給与カーブを早期に立ち上げる」「評価による差を広げる」「月例給与と賞与の適正なバランス」などの課題を、労使で共有しました。

 具体的には、ベースアップの金額ということだけでなく、配分方法の大胆な見直しや、手当類の改定なども行いました。結果、数年後には「労使で目指した給与」をほぼ実現できたと思います。

 「今年のことで精いっぱいで、先のことは考えられない」という経営者の方も多いかもしれません。それでも世間などの状況を見て、賃上げ額・率を決めるというのではなく、経営者としてどうされたいのか、考えをもとに決め、それを社員の皆さんへ示していくことは、とても大切と思います。

 「○○円増えた」「□%上がった」でもうれしいですが、経営者のどういう考えでそうなったのか、社員の皆さんに伝えることは、リテンション(人材流出の防止)にもつながっていくことでしょう。

 人事部時代、大先輩から「人事(配置、昇格、評価、給与等)は、会社から社員への重要なメッセージである」との教えを受けました。だから、「メッセージが正しく伝わるように人事パーソンは努力しなければならない」と。経営者からのメッセージであれば、なおさらのことと思います。

4.制度・しくみを考えてみませんか?

 時節柄、春の給与改定・労使交渉について、述べてまいりました。前のパラグラフでは、「経営者の考えを実現するには複数年で考えられてみては」と申し上げました。

 考えを実現するために、さらに進めて、給与制度やしくみを考えられてはいかがでしょうか? 人事評価制度を見直して、それに応じた給与制度やしくみを構築していくことをお勧めします。

 現在、制度が整っている企業は、これからの経営戦略などを見据えて、それと合致したものとなっているのか、確認してみてはいかがでしょうか。

 (大多数かもしれませんが)制度・しくみがなく、毎年経営者が「Aさんは、大きな成果を上げたから〇〇円」「Bさんは、期待に少し及ばなかったので□□円」というように決められている企業は、これを機に導入を検討されてみてはいかがでしょうか。

 企業にとっては中期的に人件費をコントロールしやすくなりますし、社員にとっては「どうすれば、給与が上がるのか」が見え、モチベーションアップにつながります。また、単に給与額を決めるためのしくみ(査定的なもの)ではなく、社員の成長を後押しするしくみとすることもできます。

 「人事制度を導入している企業のほうが、売上高の増加率が高い」という調査結果もあります(下図参照)。ぜひ、ご検討してみてください。

5.おわりに

 いろいろと述べてきましたが、やはり大きな課題は「賃上げ原資の確保」です。経営者の皆さんの一番の悩みではないでしょうか。

 公正取引委員会は3月7日、日産自動車に対して下請け企業との取引で不当な減額を行っていたとして再発防止を求める勧告を出しました。昨年11月に公正取引委員会が公表した「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」に沿ったものであります。

 経団連も「経営労働政策特別委員会報告2024年版」の中で、大手企業に対して、労務費を適切に転嫁するための価格交渉を積極的に進めることを求めています。環境は徐々に変わりつつあります。

 日本経済が元気になるよう、今年の給与改定が良い結果に終わることを願ってやみません。

 人事評価制度や、給与について、お困りのことがございましたら、何なりとお気軽にご相談くださいませ。

お問い合わせは、こちらまで。
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