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ミルクボーイとぺこぱ。毒と平和にまつわる"お笑い論" 2020

2019年の年末から「誰も傷つけない笑い」というテーマで、お笑いシーンが語られることが増えた。

M-1グランプリ2019で3位になったぺこぱの影響は大きいだろう。
ボケに対してツッこまずに肯定したり、自分のほうに非があると言い聞かせたりするスタイルだ。

斬新さにおいて群を抜いており、なおかつバランス感覚にも優れた革新的漫才である。
キワモノキャラとしての入り口がなければ、あのスタイルはまずハマらないし、何より特筆すべきはキャラにも合わせたフレーズ言い回しの妙である。

フレーズを際立たせ、確実にゴールを決めにいく言い方と発声法を駆使している。
このやりかたはスベった時のダメージは数倍にもなるが、バッチリ決めた時の爆発も数倍跳ね返ってくる。

実は霜降り明星の粗品のツッコミと共通する部分がある。
このフレーズをバチバチ決めていくスタイルは、ハマれば賞レースに強い。

時代の流れや現代の風潮もあり、ぺこぱのボケを否定しないやりかたこそ、人を傷つけない笑いのニュージェネレーションと言われている。

これまでも、強くツッこんだり大声を張り上げるばかりがツッコミではなく、様々なツッコミの形は存在した。
だが、ここまで既存のツッコミフォーマットをフリにしたツッコミは初めてであり、分かりやすく優しさや思いやりを前に出したスタイルは今っぽい。
時代背景をも味方につけ、画期的な笑いを次々と量産した。本当に優勝してもおかしくないほど現場でハマっていたと個人的には感じている。

そして、M-1グランプリ2019でチャンピオンとなったミルクボーイ。

1つのテーマで延々とループを繰り返していく構成だが、その肝となっているのは偏見にまみれた毒である。
着眼点の鋭い毒をベースに、圧倒的な話術とテクニックでお客さんをどんどん爆笑の渦に巻き込んでいく毒漫才の進化系だと言っていいだろう。

絶妙なお題と共感を得る細かい指摘の数々。
そして、盛り上がりが右肩上がりになっていく綿密に計算された流れ。

無名の漫才師が一夜にして圧倒的王者となり、M-1ドリームをぶっちぎりの漫才でつかみ取った。

ミルクボーイとぺこぱの漫才は全く違うように見えるが、笑いを取りに行く構造自体は近い。

基本的に両者ともボケはフリに徹して、ツッコミが回収して笑いを生んでいく。
このフリボケと呼ばれるスタイルは決して簡単ではなく、非常に高い完成度を求められる。
2人のかけあいの技術やコンビネーションは言わずもがな、声のトーンやコンビ間で醸し出す空気感の良さまでもが必要不可欠となる。

このタイプのツッコミ主導漫才コンビ自体は、この数年で飛躍的に増えた。

ミルクボーイとぺこぱの両コンビがM-1グランプリ2019で披露した2本のネタは、この構造で笑いを生み出せる漫才の限界到達点と言える。ある意味、現代漫才における集大成的な出来だと個人的には感じた。

しかし、今回言及したいのは笑いを生み出す構造の話ではない。

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