ときめきとかとか、
最近、メイクをちょっと変えた。
仲良しの友達が誕生日にきらきらのアイシャドウをくれたので、気に入って嬉しくてずっと使っている。
まぶた全体にきらきらを広げ、アイラインは(めんどくさいので)目尻だけ。
綺麗に落とすのがすごくめんどくさいため、マスカラもなしである。
そして、はじめて赤系の口紅を買った。
普段は淡めのピンクばかりなので、ちょっと気分を変えようと思ったのだ。
濃いリップの存在感を際立たせるため、チークはなし。
これは巷で話題の「引き算メイク」というものなのではないか、と一人心の中でどや顔をするも、元来丸顔であるため、一歩間違えばまるで昭和の花嫁さんである。その加減が実に難しい。
雑誌に出てくるようなオシャレ女子への道のりは、まだまだ遠いようである。
とはいえ、いつもとちょっと違う自分が鏡に映っているのを見るのは楽しい。
まっしろなスニーカーを買った。
ほんとは今(ではないですね。結構前から)流行りのスタンスミスが欲しかったのだけれど、高いのでそれはやめてナイキのやつにした。
どうしてナイキかというとすきな人がよくナイキのスニーカーを履いているからであって、お揃いではないけれど偶然を装っておんなじブランドを身につけたかったからである。多分すでにばればれなのですが。
超絶便利なゾゾタウンで買った。
形もデザインもめっちゃええやん!と思い、しかも今なら千円オフクーポンで買える!と、喜び勇んで購入ボタンを押したのだった。
先日商品が届いたので、すぐさまダンボールをがしがしと開け、喜び勇んで取り出した。
……おや?
なんだか、激しい既視感があるのである。
写真で見たとかそういうことではなく、もっと身近な手触りの。
はて、と首を捻って考えること数十秒。突如、頭の中で記憶にピントが合わさった。
そう、中学校の時の運動靴! アレにそっくりなのである。
あのときはアシックスだかそんなやつを履いていたが、このかたちといいまっしろなところといい、おろしたての運動靴とそっくりだ。うわ、懐かしい!!!
ってそうじゃなくて。
これはちょっと、もしかしたらださいのではないか。
と、恐るおそる、うすうす思う。
わたし、21歳、いいのかこれで。
しかしながら次の瞬間、
「え、でもせっかく買ったのに…? ほんで通販やし返品超めんどくさいんやで??」という自分の声が脳内を駆け巡る。
若干の違和感<<<返品のめんどくささ。考えるまでもなく圧勝であった。
よっしゃこれはもう、わたしがなんとか履きこなしたろ! と、心を決めた。
なんかほら「ダサかわいい」みたいなやつ、たとえば『お父さんのトレーナーとかおばあちゃんのお下がりを使って逆にオシャレ!』みたいな風潮あるし、そういう感じでいけるんちゃうかと思ったのだ。
とはいえ、心のどこかでちゃんと履きこなせるか不安だったのだろう。
箱から出したまま、しかしタグは切らずに放置して、わたしは一人眠りについた。
そして翌日。
そんな気分だったのでaikoのライブTシャツを着て、同じくゾゾタウンで買った新しいスカートを履く。
恐る恐るといった感じでナイキのスニーカーに足を入れると、
……おや?
姿見に映った自分を見て思う。
これは、普通にいけてるのではないか?
オシャレ女子かどうかは別として、まっしろなスニーカーはわりとしっくり馴染んでいた。
くるくると回転し、色んな角度から映してみる。
前、よし。
横、よし。
後ろ、よし。
普通に、いけている。
なあんやかわいいやん、とわたしは速やかに考えを翻す。
お行儀よく並んだ両足が、すでに愛おしくなっていた。
わたしはまったくもって単純なたちなので、新しいものを身につけている日はもうそれだけでごきげんである。
温室のような部屋を出て自転車に乗り、学校へ向かう最中でさえも、ちらちら自分の足元を見てしまう。
新しい靴。恋人と同じナイキのスニーカー。
夏らしいまっしろな色。
もう、嬉しいのである。
大学でテストを一つ受け、明後日のテスト勉強をするため図書館へと向かった。
1時間ほど勉強したが、どうにもお腹が空いて仕方ない。
しんと静まり返った自習室の空気なんておかまいなしに、わたしのお腹は「ぐぎゅる」と変な音を立てるのだ。これは恥ずかしい。
空腹に耐えかねて図書館の外に出ると、イヤホンから流れるaikoの声が急に小さくなった。
というのは錯覚で、かき消すほどにやかましく蝉が鳴いているのである。
まったく、夏だなあ。
だってもう8月なんだもの。
駐輪場まで歩く道すがら、ふと足元に目をやった。
新しい靴。恋人と同じナイキのスニーカー。
夏らしいまっしろな色。
包みを開けた直後の落胆なんてどこへやら、足取り軽く夏のど真ん中を歩くわたしがそこにいるのだった。
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