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SaaS業界に入りたい人(非エンジニアでマーケティング・セールス志望)に最初に読んでほしい記事

当記事を書いた理由

 国内SaaS市場は年平均成長率約13%で急成長しており、転職先として検討している人も増えているのではないでしょうか。非エンジニアでSaaS業界に入るなら、マーケティング・セールスが第一候補になります。そこで「SaaS セールス」で検索した記事を100記事ほど読み漁りましたが、業界外の人が理解できる記事を見つけられませんでした。テック業界はビジネス英語しか使えなくなるという術式展開されているらしく、柱(≒ビジネスエリート)しか戦えないような雰囲気があります。

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 業界外だけどSaaS企業に入りたい…そんな人に向けて、ビジネス英語を極力使わずSaaSの全体像を語ってみたいと思います。当記事を読めば、SaaS業界の”中の人”の知見をよりよく理解できます。
 というか、最初から”中の人”の記事を読むのは危険ですらあります。「○○したら成約率が○%アップした」などの記事はその経験自体は正しくとも、事業フェーズ・ターゲット・組織構造…などの前提が異なるので、そのまま応用できないことの方が多いです。SaaS業界の世界観を理解することが第一優先だと思うのです。

自己紹介

 こんにちは。ユウキと申します。金融機関でシステム企画・運用をやっていました。グロービス経営大学院でMBA取得。当記事はシステムの実務経験を元に、経営学の視点で書いていこうと思います。

読んでほしい人

 ・SaaS企業で働きたい人(業界外からの転職、インターン、新卒)
 ・非エンジニアでマーケティング・セールス部門を志望する人

当記事で得られること

 ・SaaSとは何か(非エンジニア向けの定義)
 ・SaaSビジネスと他ビジネスとの違い
 ・SaaS登場の背景
 ・SaaSはなぜ急成長できるのか
 ・顧客企業にとって、SaaSを導入する意味とは何か
 ・マーケティング・セールス担当として理解しておきたい前提知識
 ・今後の業界展望

 当記事を読んだ後に他の記事・書籍を読んでいただけると、飲み込みが早まるかと思います。3章に分割して投稿します。

第1章:SaaSとは何か


①:ビジネス=「分業の仕組み作り」と捉えてみる

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分業の歴史:ヒトは分業で発展してきた

 ビジネスの定義は人によりけりです。ここでは、非エンジニアとしてSaaSを理解するために「ビジネスとは分業の仕組み作りである」と捉えてみましょう。
 人類は分業により生産性を高め、発展してきました。

 家内制手工業→工場制手工業(人を集めると調達・販売を分業できる)
 産業革命による工場制機械工業の発達(エネルギー・機械と分業できる)
 IT革命(情報処理を電子計算機と分業できる)
 グローバル化(原料生産・加工・消費が国をまたがって分業できる)


 分業の仕組みがうまければ、更に大きな価値を生むことができます。分業の対象は人に限らず、エネルギー・機械・電子計算機・情報などを組み合わせることができます。

SaaSは新しい分業の仕組み

 SaaSも同様に新しい分業の仕組みと捉えてみましょう。一昔前までは、PC・スマホで処理させていた演算を、サーバーで処理させるように分業の仕組みを変えたのです。これは劇的な変化です。ITの恩恵を受けられる企業が中小企業まで広がったのです。

SaaSとは何か、非エンジニア向けに定義します。

SaaS:一昔前まではPC・スマホで処理させていた演算を、サーバーで処理させるように、分業の仕組みを変えた情報処理サービス

非エンジニア向けなのに冒頭から技術的な言葉を使うな、と怒られそうですが、技術的な解説は第2章でやります。
第1章ではビジネス(≒金)の視点で解説します。現時点で理解したいのは、「SaaSは新しい分業の仕組み」であり、「分業の仕組みが革命的なので急成長している」ということだけでOKです。



②アプリ開発のビジネス特性

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前提知識:初期費用&運用費、投資回収期間&事業リスク

 まずは、システムと金の関係からSaaSを理解していきましょう。

 前提知識の1つ目は、初期費用(イニシャルコスト)と運用費(ランニングコスト)です。イニシャルコストはシステムが稼働するまでに必要となるコストです。ランニングコストはシステム稼働後に必要となるコストです。

 前提知識の2つ目は、投資回収期間と事業リスクです。世のビジネスの99%は売上より先に費用が計上されます。例えば、ステーキ屋なら、牛肉の購入が投資で、ステーキとして売れると回収となります。牛肉購入の翌日にステーキを売るなら投資回収期間は1日、大きなリスクはなさそうです。しかし、熟成肉のステーキ専門店なら…半年分の牛肉在庫(数百万円)が冷蔵庫にズラリ。投資回収期間は6ヶ月で事業リスクは大きくなります。狂牛病騒ぎのような風評が広がれば、在庫価値は激減するでしょう。一方で、熟成肉ブームが起きれば大儲けできるかもしれません。一般的に、投資回収期間が短いほど事業のリスクコントロールがしやすくなり、逆に長ければ難しいビジネスになります。


システム開発はリリースまでに金と時間がかかる

 単独企業としてシステム開発を委託した場合、イニシャルコストとランニングコストがどのようにかかるか、イメージしてみましょう。

 プログラムは一朝一夕ではできません。全体設計を作り、エンジニアがコードをガリガリと書いて、エラー出しては書き直して徹夜して、を繰り返してやっと完成します。レッドブルの売上の9割はエンジニアが貢献しているのです(嘘)。そして、完成してしまえば、プログラムは疲れ知らずに動きます。エンジニア1人に1ヶ月働いてもらうには、50〜150万円かかります。エンジニア3名のチームが3ヶ月働けば計900万円です。これがイニシャルコストとして計上されます。高いっ!

 リリース後もランニングコストはかかります。サーバーの維持管理や運用サポートに金がかかりますが、イニシャルコストよりは圧倒的に安いでしょう。

 システム開発の特徴は「リリースまでのイニシャルコストと時間が大きく、リリース後は比較的安価なランニングコストがかかる」です。


利益貢献は小さく長期間。投資回収は数年単位

 開発したシステムはどのように利益貢献するでしょうか。利益貢献は売上UPかコストDOWNの2択です。マーケティングツールで売上UPしたり、省人化システムで人件費削減(抑制)するってことです。さて、月利益にいくら貢献できるでしょうか。
 一般論にしにくい論点なのですが、開発コストに対して月利益の貢献は数%なケースが一般的です。つまり、投資回収まで数年かかります

 そして、企業規模が大きいほど利益貢献度も高まります。マーケティングツールでセールスをすると、一人あたり売上高が10%増加するとしましょう。市場が東京だけの企業よりも、全国に支店がある企業の方が、利益貢献額が高くなります。

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 ITの資格試験の問題の画像です。投資採算性を評価する時間軸が”年単位になっている”ことをみていただければと思います。投資回収には数年かかる、が普通の感覚です。


システムと金の関係:規模が大きくないと採算とれない

システムと金の関係をまとめます。

システム開発の投資金額は大きく、回収まで数年かかる事業リスクが大きいビジネス。特にイニシャルコストが大きく、運用開始まで数ヶ月単位でかかる。ランニングコストはイニシャルコストに比べて軽微。そして、規模の大きい企業ほど利益貢献効果がでやすい。

はっきり言うと、ユーザー規模を確保できないシステム開発は大損するしかないです。システム開発のビジネスとは「規模取りゲーム」なのです。




③:なぜSaaS業界は急成長しているのか

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中小企業は未開拓の魅力的な市場

 システム開発とは「規模取りゲーム」…つまり、中小企業ぐらいの規模では独自にシステム開発することはできない、ということです。規模が大きくないとシステム投資の回収期間は伸びてしまい、投資NoGoと判断せざるを得ないのです。

 ここまで説明してきたことは「単独企業としてシステム開発を委託したら」という前提です。もし「複数企業がまとまってシステム開発を委託したら」投資採算性はどうなるでしょう。イニシャルコストは分散されて、投資Goと判断できるぐらいに安く使えるようになります。

 もし、複数の企業が同じシステムを使えるなら、これまでIT活用ができなかった中小企業もシステムを導入することが可能になります。SaaSとは「複数の企業が同じシステムを使い、1社あたりコストを下げたサービス」と言えます。一昔前まで、IT企業にとって未開拓の市場が中小企業でした。SaaSは新しい市場を開拓しているので急成長できるのです。
(※わかりやすさ優先で、中小企業市場を説明していますが、SaaSは大企業もターゲットになります。ただ、大企業は論点が多くなるので、初学者向け記事として省略します。初学者だと大企業向けSaaS企業に転職するのは辛いですし…)


SaaS企業の利益は青天井

 SaaSを提供する企業の立場にたってみましょうSaaSの顧客企業が増えれば増えるほど利益が指数関数的に高まっていきます。なぜなら、顧客企業が増えても、SaaS企業側の追加コストは微々たるもの。サーバー増強等にコストはかかりますが、個別企業のカスタマイズは不要だからです。
 成長戦略としては、顧客企業が増えるほどコストを増やします。エンジニア・マーケティング・セールス・サポート・スタッフ機能等、あらゆる組織に投資します。製品の質が高まれば、ターゲットセグメントが広がります。セールスを増やせば売上成長は加速し、人が増えるほど分業の仕組みが整い、総じてコスト効率が高まります。


 もし、創業者で株式上場できれば億万長者。夢のあるビジネスです。「やりたい!」と発奮する人は少なくないでしょう。(※わかりやすさ優先で金を例にしていますが、人が挑戦する理由は様々です。SaaSは”世界を変えることができるビジネス”であり、社会貢献を第一に掲げる人も多いです)


SaaS企業は投資対象として魅力的

 SaaS企業は顧客企業が増えるほど、さらに開発し、投資スピードを加速させます(※スタートアップという経営方針)。創業して数年は赤字、うまく成長すると累積赤字額は数億円になります。赤字でも銀行預金がなくならない限り倒産しません。スタートアップは投資回収まで数年かかる、つまり、数年は金を食い続けるチキンレースのようなビジネスです。
 そして、日の目を見ずに廃業することもあります(というか9割強が失敗します)

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 こんなリスクの高いビジネスに誰が金を出してくれるのでしょう。銀行は返済されない金を貸しません。”リスクマネー”を提供してくれるベンチャーキャピタルやエンジェル投資家がいるから、SaaS企業が成り立つのです。スタートアップ投資家は9割の失敗を許容し、残り1割の大成功で利益を得る人です。

 近年、スタートアップの経営モデルが体系化され、どのような企業が成功/失敗するのか、どうマネジメントすべきかの知見が溜まってきました(この知見は有益な一方、大半のビジネスマンにとっては馴染みがないので業界外からの転職が難しく見えるように思います)。知見が共有されると、チャレンジする人・支援する人が増えていきます。スタートアップ業界の裾野が広がると、新しいサービスがどんどん生まれ、知見が共有され、という循環がおこります。

SaaS業界が急成長している理由

SaaS業界が急成長している理由3つをまとめます。

・市場…中小企業というIT未開拓の市場がある
・挑戦する魅力…上場できれば億万長者
・資金提供…リスクマネーを提供してくれる組織・個人の存在

特に日本のtoBのデジタル化は遅れていると言われますが、挑戦する人には未開拓市場がたくさん残っていると見えており、今後も成長を続けそうです。


第1章のまとめ

ここまでの話をまとめます。
 ・ビジネスとは分業の仕組み作りであり、ITは情報処理を電子計算機と
  分業したもの。そしてSaaSとは、情報処理機能をサーバーに集約さ
  せるという、新たな分業方法
 ・システム開発のビジネス特性は「規模が必須」で「投資回収に数年か
  かる」こと。中小企業は規模がないため、システム導入が遅れた市場
 ・SaaSはサーバーで情報処理させる仕組みであり、企業をまたがって
  単一のシステムを利用できる。中小企業も集まれば規模を獲得でき、
  システム導入可能となる
 ・SaaS企業が成功する確率は低いが、成功すれば創業者・出資者ともに
  巨額のリターンを得られる。現在の日本はデジタル化が遅れており、
  未開拓という面では魅力的


うまく伝わっているでしょうか?有識者の方が読むと、定義が曖昧な言葉(ITとかシステムとかSaaSとか)や説明の端折りがあると思いますが、初学者向けということでご容赦願います。。。

次回は第2章、SaaSの技術的背景に触れた後、顧客目線でSaaSを語ろうと思います。※未執筆

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