見出し画像

雛人形と、曜変天目と。「岩﨑家のお雛さま」静嘉堂@丸の内

今の住まいには雛人形はないけれど、3月になるとやはりおひなさまを愛でたくなるもの。

今年のひなまつりは、以前から行ってみたかった静嘉堂@丸の内の「岩﨑家のお雛さま」展へ。

(写真は展覧会ちらしと撮影OKの展示の写真です)

「岩﨑家のお雛さま」というのは三菱第4代社長・岩﨑小彌太が孝子夫人のために京都の丸平大木人形店(丸平)で誂えた雛人形を中心とする展示だから。

岩﨑小彌太家の客間を飾っていたこの雛人形、ずっと岩﨑家で管理されていたものかと思いきや、戦後一度散逸した後、ある方の寄贈により、こちらの美術館に所蔵されることになったとか。

この雛人形はお内裏さまも三人官女も全てが子供の姿をした「稚児雛」。

岩崎家発注の品だけに、衣装やお道具のあちこちに岩崎家の「花菱紋」があしらわれていました。

お道具はどれも美術工芸品のようで、座布団だって見事な総絞りです。

その中でひときわ目を引いたのが、貝合わせの合貝(あわせがい)。

お雛さまのお道具なので、薬指の爪ほど小さな貝の一つ一つの内側に雅な吉祥文様が色鮮やかに描かれています。

小さいので肉眼ではよく見えないのですが、合貝の近くに置かれたルーペのおかげで「ここまで丁寧に細かく描いてるんだ…」と見ることができました。

このルーペの配置の配慮もそうなのですが、展示の説明もわかりやすく、おかげでより一層展示を楽しめました。

その他にも、夫人が夫の還暦祝いのために丸平に特注した「木彫彩色御所人形」の華やかな行列も。

お人形の表情や動きも生き生きとしていて、ユーモラスで、1人として「同じ人」はいません。

ちなみに、行列の中で宝船に座る布袋様は岩﨑小彌太をモデルにしているとか。

また、宝船に続く輿行列で輿に座っているやさしそうな弁天様は、孝子夫人をモデルにしているようだ、との解説もありました。

(写真のお二人に、確かに良く似ていました。)

こちらもあちこちに岩﨑家の家紋があしらわれているのですが、宝船の船首が兎だったり、皆さんが兎の小さな冠をつけていることもあり、可愛らしく、ほのぼのとした雰囲気でした。

岩﨑家伝来の品々も展示されていましたが、江戸時代に作られた立雛はその時代の現存する立雛の中で最大級のものなのだとか。

菱川師宣の「十二カ月風俗上巻」の江戸時代の雛まつりや楊洲周延が「千代田之大奥 雛拝見」の華やかな大奥の雛飾りの様子など、浮世絵からも古の雛まつりの様子を感じられました。

その他にも丸平文庫所蔵の御所人形や初公開の豪奢な打掛など、一つ一つが
「これが職人さんの技なんだな」
と感じる見事なものでした。

そして、最後に楽しみにしていたのが、この美術館が所蔵する国宝、「曜変天目」茶碗。

美術展ホームページによると、
「曜変天目は建窯の黒釉茶碗で斑紋の周囲に青色を主とする光彩があらわれたもの」。

南宋時代(12-13世紀)に作られた曜変天目茶碗、完全な形で現存するのは世界で3点のみ。

その全てが日本にあり、その内の1点がこちらに所蔵されているのです。

「江戸幕府第3代将軍徳川家光から春日局に下賜された」
といわれ、幼少から病弱だった家光の疱瘡平癒を祈願して、薬断ちをした春日局が最晩年に病に臥した時、命を救おうとした家光がこの茶碗を下賜し、自らこの茶碗で服薬させようとしたとか。

それでも彼女は家光のために薬断ちを貫き、薬を飲むふりをしてこっそり袖から流したそうです。

その後、春日局の子孫の稲葉家に伝わっていたこの品を(そのため「稲葉天目」とも言われています)1934年に岩﨑小彌太が購入し、
「天下の名器を私如きが使うべきでない」
と大切に所蔵していたとのこと。

以前茶道具について語る何かで
「茶碗の中に宇宙がある」という言葉を聞いた時には全くぴんとこなかったのですが、漆黒の宇宙に星が青い光を放っているようなこの茶碗を見ていると、
「なるほど、そういうことか」
と納得。

今回この茶碗にも出会う事ができ、まさに「眼福」を味わいました。

ちなみに、ミュージアムショップでは「ほぼ実寸の曜変天目ぬいぐるみ」が売られていました。

(「1日10個限定、おひとりさま1個限り」の販売とのこと)

今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

*この展覧会は3月31日(日)まで開催中です。
静嘉堂@丸の内「岩﨑家のお雛さま」展

https://www.seikado.or.jp/exhibition/current_exhibition/


カフェで書き物をすることが多いので、いただいたサポートはありがたく美味しいお茶代や資料の書籍代に使わせていただきます。応援していただけると大変嬉しいです。